本記事は、児玉光雄氏の著書『頭が良くなる!「両利き」のすすめ』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。
左利きのテニス選手は明らかに有利である
利き側の違いと創造性に関する論争は歴史上散々繰り返されてきました。人類の9割近くを占める右利きの人たちの考え方が「常識」を形成しているとするなら、少数派の左利きの人たちの思考はその常識から外れているのは至極当然と言えます。
一番わかりやすいのは、スポーツの世界でしょう。お話ししているように、私はかなり強い左利きです。京都大学ではテニス部に所属し、4回生のときに全日本学生選手権のシングルスで、私立大学のシード選手を次々に破り、ベスト8に入ることができました。そして、その余勢を駆って、京都大学の学生として、私の知り得る限り戦後3人目となる全日本選手権にも出場することができました。
これを実現した大きな理由として、「左利きであったことがとても有利に働いた」と、私は考えています。
左利きのプレーヤーは右利きのプレーヤーと対戦する機会が多くなります。一方、右利きプレーヤーは左利きプレーヤーと対戦することに慣れていません。特にサーブにおいて、明らかに左利きプレーヤーは有利なのです。
なぜなら、右利きプレーヤーは反対向きのスピンで打ってくる左利きプレーヤーの慣れないサーブを返球することが難しいからです。これはテニスのみならず対戦型の種目である野球、卓球、バドミントンといった球技に共通であると、私は考えています。
実際に、テニスには左利き選手が有利であるというデータがあります。図表5-1は、男子プロ(ATP)、女子プロ(WTA)の一流選手に関するデータです。これを見てもわかるように、左利きの比率は概して20%であり、特に週間トップの選手の左利き選手の割合は、男子は30%、女子は40%にものぼることがわかります。
この調査から、これらのトップクラスのプロ選手の左利きの割合は、一般の左利き選手の割合よりも高く、さらにはすべてのプロテニス選手のそれよりもかなり高いことが判明しました。
多くのスポーツ種目でも左利きは有利である
スポーツのフィールドにおいては、ターゲットやボールの空間認知、ボールの速度の把握、相手プレーヤーの位置の把握、ボールと身体の動きの同期といった非言語の処理に忙殺されます。
実際に左利きが有利であるというデータはテニス以外の競技でも数多く報告されています。例えば、大学生を対象としたハンドボール選手のデータでは、単純反応時間は明らかに左利きの選手のほうが速いことが判明しています。
コレン博士は、利き手とスポーツの関連性を確認するため、スポーツ選手を対象にした広範囲の調査を行っています。そのスポーツの中には、ボールを投げたり打ったりする種目、バランス感覚を重視する種目、スピードに力点を置く種目、そして敏捷性や持久力を試す等、さまざまな種目が網羅されていたのです。
そして、15種目のスポーツで活躍している2,611人の選手の利き手、利き目、利き足について調べた結果、利き側と競技成績との相関関係をつきとめたのです。
特に左利きが有利だった競技種目は、フェンシングとボクシングでした。
これには理由があります。この2つの種目は左利きの選手が少数派であるため、右利きの選手が左利きの選手と対戦したとき、当惑するのは必然的に右利きの選手であるというわけです。
このように、多くのスポーツ種目においては、左利きの選手は明らかに有利なのです。もしも、あなたのお子さんが左利きなら、矯正せずにそのまま左利きの生活を続けさせることをお薦めします。
一流のアスリートに左利きが多いというのは事実?
図表5-2のように、著名人のみならず歴史上の天才アスリートの多くが左利きです。
私が長年プロコーチを務めたテニス界においても、レジェンドであるジョン・マッケンロー、ジミー・コナーズ、マルチナ・ナブラチロワといった歴代の偉大なチャンピオン、さらに4大大会最多優勝を誇るラファエル・ナダルも左利きなのです。
このようにスポーツの世界では、左利きはそのメリットを堂々と謳歌しているのです。
もしもあなたが右利きなら、左利きの人たちと同じ体験に挑戦することにより、明らかに脳の活性化が促進されるのです。つまり私が提唱する転脳トレーニングがあなたの脳に強烈な刺激をもたらし、あなたの人生に奇跡を起こすかもしれないのです。
またテニス、スカッシュ、バドミントンといった球技においては、利き手と利き目が一致する選手のほうが好成績をあげることが判明しました。
なぜなら、これらの競技種目では、身体のアクションが多くの比率で行われる利き手側の領域を利き目の視野でカバーできるからです。
一方、体操、ランニング、バスケットボール等の競技では利き目と利き手の交差している選手のほうが競技成績が優れていました。その理由をコレン博士は、利き目と利き手が同じ選手の重心は身体の利き側にあるため、バランスの面で問題が生じると説明しています。
野球の打者の場合は、利き目と利き手が交差している選手のほうが好成績をあげていることは前に紹介したとおりです。
メジャーリーグでも左利きの選手は有利である
それではメジャーリーグでは、どうでしょう? メジャーリーガーの利き手のデータは多いのですが、利き目のデータは残念ながら見当たりませんでした。
しかし、メジャー史上における偉大な打者であったベーブ・ルースやテッド・ウイリアムズは左バッターで利き目が右側の交差型のプレーヤーであった事実からも、交差型の野球の打者が有利なことは間違いないようです。
野球選手の競技レベルと利き手の相関関係について、米イリノイ大学医学部で調査が行われました。メジャーリーグでプレーした全5,633名を全メジャーリーガー、ピッチャーを除く野手569名を野手グループ、特に優れた選手141名を野球殿堂、そして彼らと比較したのが高校の野球部に所属する538名の学生選手です(図表5-3)。
この図表から以下のような事実が判明したのです。
出現頻度がもっとも多いのは「右投げ・右打ち」であるが、学生選手がもっとも出現頻度が多く、野球殿堂の選手がもっとも少ない。
右投げ・左打ち(大谷翔平選手やイチローさんタイプ)が次に多いタイプであり、野球殿堂がもっとも出現頻度が多く、学生選手の出現頻度がもっとも少ない。
左投げ・左打ちは出現頻度が3番目に多く、やはり野球殿堂がもっとも出現頻度が多く、学生選手の出現頻度がもっとも少ない。
以上のような事実から、大谷翔平選手やイチローさんのような両利き人間が、メジャーリーガーとして大成功を収めた1つの要因が見えてきます。
こんなデータがあります。1989年、メジャーリーグにおいて、左利きの選手に関する広範囲な調査が実施されました。打席に立った14万2,821人のうち、41%のバッターが左のバッターボックスに入り、また32%のバッターが左利きのピッチャーと対戦したのです。
あるいは、高校球児のデータで、バントをしたときの一塁到達時までの時間を計測したデータでは、計測した22人のうち20人が左バッターだったのです。このデータで、一塁ベースに近い位置でボールを打つことができる左バッターの優位性が証明されています。
実際2021年の日本のプロ野球のドラフトにおいては、12球団が指名したピッチャー(育成を除く)は全部で43人。このうち、その40%にあたる17人が左ピッチャーだったのです。
それだけでなく、そのうち、ドラフト1位で指名された左ピッチャーは9人中3人いたのです。これは、いかに左ピッチャーの需要が高いかをわかりやすく私たちに示してくれています。通常人口に占める左利きの割合は、10%程度であると考えられますから、野球においては、明らかに左利きが有利であることがわかります。
米国五輪委員会スポーツ科学部門本部の客員研究員として、米国五輪選手のデータ分析に従事。過去30年以上にわたり、臨床スポーツ心理学者として、ゴルフ、テニスを中心に数多くのアスリートのメンタルカウンセラーを務める。
また、右脳活性プログラムのカリスマ・トレーナーとして、これまで数多くの受験雑誌や大手学習塾に右脳活性トレーニングを提供。この分野の関連書は100冊以上、累計発行部数は150万部を超える。
主な著書はベストセラーになった『この一言が人生を変えるイチロー思考』(三笠書房)をはじめ、『勉強の技術』(SBクリエイティブ)、『大谷翔平 勇気をくれるメッセージ80』(三笠書房)、『脳力向上! 大人のパズル』(成美堂出版)、『能力開発の専門家が作ったそうぞう力とさんすう力がみるみる育つこども脳トレドリル』(アスコム)など200冊以上。日本スポーツ心理学会会員、日本体育学会会員。※画像をクリックするとAmazonに飛びます