この記事は2023年3月3日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「米利上げ終了と日銀の政策修正で年末は1ドル=128円に」を一部編集し、転載したものです。
2月24日、衆議院議院運営委員会で次期日本銀行総裁候補の植田和男氏への所信聴取と質疑が行われた。植田氏は同日、現在の日銀の金融政策を「適切」とした上で、「今後とも情勢に応じて工夫を凝らしながら、金融緩和を継続する」と強調した。量的・質的金融緩和以降の政策については「デフレではない状況を作り上げた」とし、「さまざまな副作用が生じている」ものの「必要かつ適切な手法」と評価した。政府との共同声明についても「現在の物価目標の表現を当面変える必要はない」と述べた。
金融政策の正常化については、基調的な物価上昇率の「2%の実現が見通せる」ようになった場合は「踏み出すことができる」と発言。ただし、2%の物価目標の持続的・安定的な達成には「なお時間を要する」との見解を述べた。その上で、金融緩和の継続によって、企業が賃上げをできるような環境を整える必要があるとの意向を示した。
イールドカーブ・コントロール(YCC)については、将来「さまざまな可能性が考えられる」としたものの、具体策への言及は控えた。一方、マイナス金利政策については、金融仲介機能に悪影響を与えた可能性を認めたが、低金利環境が経済を支え、金融機関にもプラスの影響が間接的に及んでいるとの考えを示した。
以上の内容をまとめると、植田氏は今回、日銀の金融政策について、①共同声明の物価目標の表現は変更不要、②緩和継続が必要で出口はまだ先、③マイナス金利政策は金融機関にプラスの影響もあるとの見解を示しつつ、YCCの修正には若干の含みを持たせた。こうした植田氏の発言は、市場に配慮した「安全運転」の印象を与え、為替市場での緩和修正観測を後退させ、円高圧力の低下につながりやすい材料になったと思われる。
他方、米国では物価の粘着性や雇用の強さがあらためて確認されており、足元では利上げ長期化の観測が強まっている。このような日米の金融政策を取り巻く状況を踏まえると、ドル円は目先、200日移動平均線(図表)を一時的に越え、ドル高・円安が進むことも想定される。
ただ、当社は日銀が4~6月期に変動幅の再拡大でYCCを実質的に形骸化させ、米国では景気減速とインフレ鎮静化が顕著になることで、米連邦準備制度理事会(FRB)が5月に利上げを終了すると見込んでいる。加えて、年末にかけてはFRBによる来年の利下げが意識されることも考えられる。
以上から、昨年10月からのドル安・円高基調は今後も維持される公算が大きく、ドル円の年末着地水準を1ドル=128円と予想する。
三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト/市川 雅浩
週刊金融財政事情 2023年3月7日号