本記事は、ジョン・フィッチ氏とマックス・フレンゼル氏の著書『TIME OFF 働き方に“生産性”と“創造性”を取り戻す戦略的休息術』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています。
休息こそ「生産的」な行い
休むことは働くことの逆と考えられがちだ。休んでいるか、生産的か、白黒つけてしか考えられない。
しかし、仕事と休むことを極端に切り離したのは、僕たちの社会の大きな間違いだ。
仕事を9時から5時までの間にやるべきことだと思わず、クリエイティブで生産的な、もっと広いプロセスだと考えてみよう。すると、仕事に取り組むことを支える意識的なプロセス自体も、仕事を構成していると考えられないだろうか。
長い間、休息時は脳の力は発揮されないと考えられていた。しかし神経科学者が脳画像解析技術を使って実際に脳活動を観察してみると、予想外のことがわかった。
18世紀の詩人ウィリアム・クーパーはこう書いた。
「仕事がない状態が休息ではない」「空っぽの心は病んでいる」
研究者たちによると、心が休んでいる状態は空っぽとは程遠い状態だ。脳が活動しなくなるのではなく、活発になる部位が変化するらしい。
休んでいるときに活発になる脳の部位はまとめて「デフォルトモードネットワーク(Default Mode Network:DMN)」と呼ばれる。
研究が進むにつれ、デフォルトモードネットワークは活発になるだけでなく、重要な役目を果たすことも判明した。南カリフォルニア大学の神経科学者であるメリー・ヘレン・イモディーノ=ヤング博士と同僚たちは、デフォルトモードネットワークの活動と知能、共感、感情的判断、メンタルヘルスなどが強く結びついていることを発見した。
休息は、健康、成長、そして生産性に欠かせないものなのだ。
イノベーションとクリエイティビティを必要とする仕事には、リラックスする時間が欠かせない。積極的に働く時間と同じくらいに大切にしなければならない。
休息のとき、脳は記憶をまとめ、問題解決方法を静かに探っている。デフォルトモードネットワークが活発になると、直感が冴え、創造力や問題解決のスキルがさまざまなところと結びつき、線的ではない動きをする。
シャワーを浴びている最中や散歩の途中に、お告げのような白昼夢を見たり、ひらめいたりしたことがあるかもしれない。それはデフォルトモードネットワークのおかげだ。
休息のとき、デフォルトモードネットワークは全体的な解決策を探そうとし、あっと驚く答えに導いてくれる。しかし心が乱れていると、このプロセスはうまくいかない。
そのため、計画された意図的な休息とは、テレビの前でぼーっとしたり、Tinder(訳注:世界最大級のソーシャル系マッチングアプリ)をだらだら流し見たり、YouTubeで猫のビデオをとめどなく見続けるといった活動ではないのだ。
クリエイティブな人たちのデフォルトモードネットワークは発達しているらしい。休息時も無意識で働いているのだ。
また面白いことに、デフォルトモードネットワーク内でも特定の部位が変わった動きをする。たとえば、アイデアの価値判断を司る左側頭部は、休息時には活発的でなくなる。アイデアを抑制し、意識がはっきりするときまで温めているのだ。こうして、ひらめきの瞬間が準備されるわけだ。
休息をたっぷりとって、仕事に「積極的」には取り組まない時間を持つことは、創造性や幸福感を高めるだけでなく、仕事に取り組む時間の効率も上げる。
ウェブ開発企業の「ベースキャンプ(Basecamp)」(かつての37Signals)は、平日の労働時間を短くして、週の休日を1日増やした。
「5日間と4日間の仕事量はさほど変わらないことがわかりました。3連休のあとは、みんなすごくリフレッシュした顔をして出社します。月曜日がハッピーになる。3連休があると、平日の仕事の効率も上がります」
休む時間を増やすと、仕事に直接良い影響がある。
自主的な時間制限によって、大事なものに自然と集中できるようになる。仕事やそのやり方を見つめ直し、わかりやすい「忙しさ」の罠から抜け出せるのだ。
無駄な会議を増やさなくても、すべきことを達成し、物事を動かすことができる。
自分の時間の本当の価値に気づき、お金と交換するためだけにあるのではないと、思い至るのだ。自分にとって重要で、意味のあると思うものに投資するために使うことだって可能だ。
時間を、情熱を傾ける活動に費やすことで、創造性はアップするのだ。