本記事は、ジョン・フィッチ氏とマックス・フレンゼル氏の著書『TIME OFF 働き方に“生産性”と“創造性”を取り戻す戦略的休息術』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています。

プロセス
(画像=wichayada/stock.adobe.com)

クリエイティブな4つのプロセスとタイムオフ

グレアム・ウォーラスは1858年、イングランド北部のサンダーランドという小さな町で生まれた。オックスフォード大学で教育を受けたあと、学校長を務めた。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの創立者のひとりとなり、1914年に本校のポリティカル・サイエンスの初代教授に就任した。

しかし、彼の最たる功績は1926年、彼の晩年に刊行された『思考の技法』(筑摩書房2020年)だろう。

ヘルマン・フォン・ヘルムホルツやアンリ・ポアンカレなどの仕事の習慣に感銘を受け、クリエイティブなプロセスについて説明したのが本記事だ。およそ1世紀前の作品だが、現代のクリエイティビティについての研究者にも大きな影響を与え、学術論文などでも多く引用される。

ウォーラスの仮説によると、創造的プロセスは4つのステージに分類できる。


(1) 準備する:座って一生懸命仕事をしている
(2) 温める:心と頭を休ませる。違うことに取り組んでみる
(3) ひらめく:ずっと待っていた「これだ!」と思える瞬間が訪れる
(4) 確認する:ひらめきが正しいかを実証する

とても直感的なプロセスだが、ひとつずつ考えてみよう。

まず、座って仕事をする。なにが問題なのかすべての面から考え、よく知る。カル・ニューポートが提唱する「ディープ・ワーク」が起こる場所だ(『大事なことに集中する―気が散るものだらけの世界で生産性を最大化する科学的方法』ダイヤモンド社 2016年)。

ディープ・ワークは次のように定義されている。

「邪魔を一切入れずに没入し、認知能力を極限まで上げた状態で仕事を行うこと。これにより新しい価値が生まれ、スキルが向上しベストな結果に繋がる」

準備をすることもタイムオフだ。邪魔を一切排除して没入するためには、準備は欠かせない。しかしほとんどの場合、望ましい結果まではまだ遠い道のりが待っている。そこで次の「温める」プロセスが大切なのだ。

仕事をいったんやめて他のことに集中すると、無意識のうちに「仕事」がなされる。かなり自由に、概念と経験がつなぎ合わされるのだ。もうすぐでなにか見えそうだと感じたことがあるだろう。あの瞬間に、アイデアが温められている。

この時点ではあまり無理してはいけないとウォーラスは注意を促す。無理をしたらアイデアを逃してしまうかもしれない。代わりに、自分の無意識を信じて待つのだ。

僕たちが、取り組んでいる課題以外のことに没頭している間に、無意識の「温め」が起こるようだ。山登りとか、他の仕事に集中しているときとかにだ。

ただし、ちゃんと没頭していなければならない。心ここにあらずのまま活動したり、あれこれ手を出して気が散ったりしてはいけない。

アイデアがほかほかに温まるまで、無意識の力を信じ、魔法を待つしかないのだ。

そしてついに、ひらめきが来る。

急にインスピレーションやアイデアが降りてきて、電球がぴかーんと光るような瞬間。心が「これだ!」と叫び、パズルのすべてのピースがはまる瞬間だ。

ウォーラスはこの瞬間を「ピカッ(Flash)」とか「カチッ(Click)」と表現する。

「長い長い計画を立てても、思う通りのものを無意識が与えてくれないときもあります。このひらめきは、無意識下の仕事の成果なのです。意識することをやめたときに、自然と起こるものです」

そしてディープ・ワークを再度行い、ひらめきが素晴らしかったことを確認する。

この4つのステップは、かなり簡素化されたものだ。そして実際には、準備と温めのサイクルを何度も繰り返さないとひらめきが降りてこないこともあるだろう。

ひとつの問題だけに取り組めるわけでなく、いくつものことが同時進行しているかもしれない。「数日前に提案したことについて寝かせている間に、次の課題について準備して、もうひとつの確認もしている」という人もいるかもしれない。

もしくは、課題自体はひとつでも、複雑であるため、あらゆる角度からそれぞれの段階を考えなくてはならないかもしれない。

だから、もしどうにもならないと感じたら、そこで立ち止まって、いつまでも自分をいじめるのはやめよう。タイムオフにしよう。他のことに集中してアイデアを寝かせてみよう。

1926年に提案された、この4つのクリエイティブなプロセス(準備する・温める・ひらめく・確認する)は、現代でも有効だ。

つまり、僕たちが仕事だと思っているのは、仕事のプロセスの半分にすぎないと理解すべきなのだ。残りの半分の大切なプロセスは、タイムオフで起こっている。

意識的に仕事をしている間はだめなのだ。温めとひらめきは無意識下で起こるが、コントロールすることもできる。スキルとして習得してみよう。

この本も4つのプロセスを経て刊行に至った。

まずは準備。長い時間をかけて資料を読み、メモを取り、考えをまとめ、インタビューを行い、いろいろな長さの文章を作ったりした。

しかし、これらの作業は休息の時間とも重なっていて、無意識の中で情報をつなぎ合わせてもいた。ここに書かれているほとんどのことが、机に向かっていて出てきたわけではなく、散歩の途中とか午後の時間にダラダラしていたときに突然思いついたものだ。ひらめきの確認作業や無意識の中で、タイムオフのギフトとして得ることができた。

クリエイティビティは、タイムオン(準備・確認)とタイムオフ(温める・ひらめく)の繰り返しで成り立っている。良いバランスを見つけ、そのふたつを行ったり来たりできれば最高だ。

時間ができたときに温められたらいいなという人が多いけれど、そんな時間が来ることはまずない。時間は意識的に作らなければならない。そのための休息倫理なのだ。

TIME OFF 働き方に“生産性”と“創造性”を取り戻す戦略的休息術
ジョン・フィッチ(John Fitch)
ビジネス・コーチ、エンジェル投資家、ライター。仕事中毒から立ち直りつつあり、この本は昔の自分を念頭に執筆した。テキサス大学オースティン校で経営とメディアを学んだ。デジタルプロダクト・デザインによりキャリアを積み上げ、働く人が楽しくなさそうな仕事の自動化を推進する技術開発に投資するエンジェル投資家。未来の経営と働き方に大きな興味があり、近い将来、みんながクリエイティブな仕事をするだろうと考えている。ディナーパーティーを企画し、新しいアイディアやひらめきに出会うのが好き。柔術に励み、新しいところを旅したり、スイカを栽培したり、音楽を演奏したり、大好きな人とダンスしたりしている。
マックス・フレンゼル(Max Frenzel)
AI研究者、ライター、デジタル・クリエイティブ。インペリアル・カレッジ・ロンドンで量子情報理論を研究し博士号を取得後、東京大学のポスト・ドクター・リサーチ・フェローとして着任。AI研究とプロダクトデザインを組み合わせるスタートアップ事業に多数参加。最近の関心は、クリエイティビティとデザイン、音楽にAIやディープ・ラーニングなどを融合させること。かかわったAIアートの中には、ロンドンのバービカン・センターに展示された物もある。AIとクリエイティビティをテーマに講演活動も行っている。タイムオフの時間には、おいしいコーヒーを楽しむ。パン焼き名人になるための練習も欠かさない。電子音楽を作り東京の各地で演奏も行っている。

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