本記事は、ジョン・フィッチ氏とマックス・フレンゼル氏の著書『TIME OFF 働き方に“生産性”と“創造性”を取り戻す戦略的休息術』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています。
休息は立派な「活動」である
「休む方法は、他のことをすることである」と、ワイルダー・ペンフィールドは彼のエッセイ「無為の有用性」(原題「The Use of Idleness」未邦訳)で述べている。
「なにもしないことで教育の幅を広げ、生産性の高い専門家に育てるのだ。幸せにも、役立つ市民にもなれる。世界を深く理解し、多くのことができるようになる」、と。なかなか説得力がある。
メンタルが疲れたときは充電しなければいけないというのは、誤った考え方だ。全部が間違っているわけではないが、疲れた心が求めているのは変化であることが多い。
だから休息の時間にアクティブに動いても、次の日の仕事には影響しない。仕事の効率が上がる場合さえある。異なるチャレンジに没頭すると、潜在意識が解き放たれ、意識のある頭で吸いとった情報に惑わされずに、問題解決方法を探すことができる。
著名な科学者の多くは、熱心なミュージシャンや、アーティスト、スポーツマンであったりする。マックスはクロスフィットの激しい運動と、パン作りや楽曲制作などの穏やかな没頭が効果的だと感じている。ジョンは柔術や、手の込んだディナーパーティーの企画で他のクリエイティブな人たちと楽しみ、お互いに刺激を与えあうことが好きだ。
気づいた読者もいるかもしれないが、長い散歩は偉人たちの趣味である場合が多い。
多くの素晴らしい考えは散歩中に浮かんだのだ。ヴェルナー・ハイゼンベルク博士の不確定性原理も、ウィリアム・ローワン・ハミルトンの高次元複素数も、ルビク・エルネーのルービックキューブも、散歩中のひらめきだ。「私の足が動き出すとき、思考も動き出す」と言ったのは、かのヘンリー・デイヴィッド・ソロー。彼もまた、散歩好きだった。
彼の言葉は科学で裏づけられている。のちにより詳しく説明するが、運動は脳の柔軟性を高め、状態を良くする。筋力や循環器系に良い影響を与えるのと同じだ。
運動中は、神経細胞の発生や機能を強化するプロテインの神経栄養因子の産生量が大幅に増える。さらに、筋肉に負荷をかける運動はイリシンというホルモンを産出させる。このホルモンは脳由来神経栄養因子(BDNF)の産出を脳に促す。神経栄養因子のなかでも、とりわけ活発な因子だ。
すなわち、汗をかくと脳が成長し、新しい回路を作るのだ。その回路により、行き詰まっていた問題への解決策が導かれたり、ひらめいたりする可能性が高まる。
さらに、運動はストレスを緩和し、将来のストレスに備える力を蓄える助けにもなる。僕たちがアクティブに体を動かすと、脳は影響を受け、その結果、クリエイティビティや生産性に良い影響をおよぼす。逆説的に聞こえるかもしれないが、そのような活動的な時間は、心の休息には必要不可欠だ。
回復に向かうための「4つの行い」
休息について考えるとき、なにを思い描くだろうか? 木陰のハンモック? 「となりのサインフェルド(訳注:アメリカのコメディドラマ)」をイッキ見すること?
休息とは、ただ休めばいいわけではない。良い休み方がある。Reddit(訳注:アメリカの掲示板型ソーシャルニュースサイト)を眺めて3時間無駄にするのは、昼寝したり散歩することとは違う。生産性を上げるためには、休息の質を高めなければならない。
そして、体をアクティブに動かすと、休息の質が上がる。それでは、他にどんな休み方をすれば、良い休息が取れたと言えるのだろうか?
アレックス・スジョン‐キム・パンは『シリコンバレー式 よい休息』(日経BP 2017年)で適切な休息と回復のための4つの主な要素をあげている。
- リラックス:心と体をゆっくりさせる。
- コントロール:どのように時間を過ごすか決める。
- マスタリー(習得すること):フロー状態になるようにやりがいのあることをする。
- ディタッチメント(離れること):仕事のことを忘れられるくらい没頭する。
つまり、休息はただリラックスすることだと思っているうちは、他の3つの要素を考えられていないわけだ。
では、コントロールについて考えてみよう。僕たちがコントロールできることには限りがある。
上司の決定ひとつで、3か月間頑張ってきたことが台無しになってしまうこともあるし、締め切り直前にクライアントが新しい注文をつけてきたり、アイスランドの火山がいきなり噴火してヨーロッパのほとんどのフライトがキャンセルされ海外で足止めをくうことだってあるかもしれない(マックスの実体験だ。大学の試験期間中に彼はこの災難に見舞われた)。
こういうことはすごくストレスだし、気がそがれるし、エネルギーもクリエイティビティも奪われてしまう。
バランスを保つために、休息の時間をコントロールしよう。絵を描いたり、料理したり、音楽を作ったり、自分の思い描いたとおりに時間を使おう。
そんな週末の冒険の途中で、決断を迫られる場面もあるだろう。しかし、決断を下すのはあなただ。企業方針に従う必要はない。
どのように時間を過ごすのか、エネルギーを使うのか、気を配るのかを、自分で決めることができる。その結果、休息が、目まぐるしい日常を乗り切る力の源になるのだ。
次にマスタリー(習得)。楽器を弾いたり詩を書いたりすることも、自分でコントロールできることだ。こういう活動は決して簡単ではないけれど、とても効果的な休息だ。
本当に効果のある休息は、アクティブで、少しの努力が必要な活動なのだ。難しくて心からのめりこめると、フロー状態になれる(難しすぎると逆にイライラしすぎて投げ出したくなるので要注意)。
ジョンは、ある柔術の技を体得するために繰り返し練習していた。相手に技を受けてもらうとき、きちんと集中しなければねじ伏せられてしまう。この数時間、仕事のことは一切考えないため、とてもリフレッシュできる。
なにかをマスター(習得)することは、休息の重要な要素だ。要らないものを心の中から取り除く。仕事さえも、追い出してしまうのだ。
そしてディタッチメント(離れること)。休息に欠かせない要素の4つ目だ。
仕事(などの休憩したいもの)をすっかり頭から追い出して、目の前のことに集中することは、体と心の回復に効果的だ。つまり、「ログオフ」するのだ。
ザビーン・ゾネンターグ博士はディタッチメントの重要性をこのように書いている。
「実証研究では、タイムオフ中に仕事から距離をとれる従業員ほど人生に満足しているし、精神的症状を訴えにくかった。仕事にもきちんと集中できている。(この研究が示すのは)タイムオフで仕事からディタッチメントできれば、業績にポジティブな影響があるということだ」
成功する人に共通する能力は、2つの状態の素早い切り替えができることだ。やるべきことに精神的・身体的なエネルギーを全集中させるオンの状態と、ゆったりとして仕事から切り離された穏やかなオフの状態だ。
僕たちのほとんどは、中途半端なオンとオフを行ったり来たりして、最高値まで能力を上げきれず、結果、それがもたらすものも味わえずにいる。
夜、週末、長い休暇で、完璧なディタッチメントが実践できるようになると、いざというときに高い集中力を発揮できる。そして回復も速い。クリエイティブに仕事に取り組む人たちは、仕事から距離をとる術を身につけているのだ。
良い休息は、ただゆっくりと過ごすことではない。アクティブに、難しいことに挑戦することも休息だ。集中力たっぷりのフロー状態を作ってくれる。しばらくの間だけ、心配事を忘れ、ただその時に存在させてくれるのだ。暇すぎて不安になることもない。
誰かにとっての仕事が、他の誰かにとっては休息だということもある。良い休息のためには、さまざまな活動に取り組むのがいちばん効果的だ。