この記事は2023年4月19日に「CAR and DRIVER」で公開された「【最新ECO技術】BMWが今、燃料電池に舵を切る理由」を一部編集し、転載したものです。

BMW燃料電池ワークショップ+iX5ハイドロジェン試乗記

【最新ECO技術】BMWが今、燃料電池に舵を切る理由
BMW・iX5ハイドロジェン X5をベースに開発されたFCV(燃料電池車)。BMWは2013年にトヨタと共同でFCVを開発する契約を締結。iX5ハイドロジェンはその最新の成果

最新iX5ハイドロジェンはトヨタの技術も活用

BMWは1980年代に水素を自動車に利用する研究を開始。2006年には水素を内燃機関の燃料として用いるハイドロジェン7を発表した。さらに、水素と酸素を化合させて発電する水素燃料電池駆動システムの研究にも着手。2013年にトヨタと共同でFCVを開発する契約を締結している。BMWは自動車への水素利用にワイドレンジで一貫して取り組んできたメーカーである。

トヨタとの協業の成果として、2015年に5シリーズ・グランツーリスモとi8をベースとする2種類のFCVを試作・発表。今回、公開されたiX5ハイドロジェンは、FCV研究の最新成果といえる車両だ。

【最新ECO技術】BMWが今、燃料電池に舵を切る理由
【最新ECO技術】BMWが今、燃料電池に舵を切る理由

X5をベースとするiX5ハイドロジェンは700バールの高圧水素タンクを2基搭載し、合計で6kgを貯蔵。この水素を最高出力170㎰の燃料電池に供給し、得られた電力を高圧バッテリーにいったん充電したうえで、最高出力401psの電気モーターに送って後輪を駆動する。

勘のいい読者は、「燃料電池システムの最高出力が170psだと、401psのモーターを駆動しきれない」と思われるだろう。だが、ここがポイント。大パワーが必要なときは燃料電池に加えて最高出力231psのバッテリーからも電力を供給することで、モーターの性能をフルに引き出すシステムを作り上げたのだ。

既存のFCVは、燃料電池の出力とモーター出力をほぼ同レベルに揃えるケースが多い。このためFCVのモーター出力は大きくても200ps程度だった。

BMWはFCVでも「駆け抜ける歓び」を追求

今回発表されたiX5ハイドロジェンは、バッテリーが十分に充電されている状態ならば、401psのパワーが炸裂。ドライバーに小気味いい加速感をもたらす。パフォーマンスも重視したクルマ作りは、「駆け抜ける歓び」の体現。BMWらしいシステム構成といえる。

iX5ハイドロジェンで興味深いもうひとつのポイントは、燃料電池システムの核というべきフューエルセルがトヨタ製という点。ただし、最終的に車載用の燃料電池システムとして作り上げるのはBMWの社内チーム。生産もミュンヘンで行われるという。

【最新ECO技術】BMWが今、燃料電池に舵を切る理由
【最新ECO技術】BMWが今、燃料電池に舵を切る理由

完成したiX5ハイドロジェンに試乗したところ、エアサスペンションがもたらす乗り心地が驚くほど快適なこと、そしてこれまで試乗した多くのFCVよりも明らかにパワフルな点が印象的だった。しかも、航続距離が500km程度と見込まれているにもかかわらず、キャビンスペースや荷室容量はX5のエンジン車と基本的に変わらない。優れたスペース効率も実現している。

BMWは将来的に電気自動車(BEV)ではなく、FCV一本に絞ってカーボンニュートラルを実現しようとしているのか?

BMWは「将来的なゼロエミッションビークル(ZEV)はBEVが主体になる」と予想している。ただし、もしもドイツ国内の乗用車がすべてBEVになると、充電に必要な電力を供給するためには送電線網の強化が不可欠となり、その投資額は2050年までに1兆563億ユーロ(約225兆円)に上ると試算している。

ところが、ここにFCVをプラスで投入すると、投資額を20〜34%削減できるという。つまり、BEVとFCVを混在させた社会こそが効率的なカーボンニュートラル社会だと主張しているのだ。

日本のトヨタやホンダもFCVの可能性に注目している。果たして、未来の自動車はBEV1本になるのか。それともFCVに代表されるZEVも共存することになるのか。今後の動向に注目したい。

【最新ECO技術】BMWが今、燃料電池に舵を切る理由
【最新ECO技術】BMWが今、燃料電池に舵を切る理由
Writer:大谷達也、Photo:BMW

(提供:CAR and DRIVER