Salesforceは、営業支援のシステムを提供している企業です。Salesforceの提供するシステムにより、製造業でも業務改革につなげた事例が出てきました。この記事ではSalesforceについて解説し、その主要製品と導入事例について解説していきます。

Salesforceを製造業に生かす方法~業務改革とDX~
(画像=Vitalii Vodolazskyi/stock.adobe.com)

目次

  1. Salesforceとは
  2. Salesforceと製造業
  3. ソリューション・製品紹介
  4. 導入事例
  5. SalesforceでDXを実現

Salesforceとは

冒頭で指摘した通り、Salesforceは営業支援システムを提供する企業としてその名声を上げてきました。歴史的な経緯からすると、特定の業界に特化しているというわけではなく、すべての業界にとって共通で普遍的な業務である「営業」を支援する企業です。

Salesforceは『テクノロジーの力で人と人とのつながりをより強固なものにすることにより、世界をより良い方へと変えていく』ことを目指しています。企業と顧客の関係をより強固なものにすることで、あらゆる課題の解決につなげていこうというのがその理念です。

したがって、その製品も人と人とをテクノロジーの力でつないでいくことによるさまざまな効果によって問題課題の解決につなげていくようなソリューションの在り方になります。これはCRM(Customer Relationship Management)として知られ、顧客との関係を管理することで、デジタルトランスフォーメーション(DX)を展開する考え方です。

Trueffelpix/shutterstock.com
(画像=Trueffelpix/shutterstock.com)

経済産業省は、データ活用による既存ビジネスの生産性向上は様々な業界で実施されているとした上で、「最初から新規ビジネスに取り組んでもよいが、既存ビジネスでのデータ活用で得た利益や知見を新規ビジネスにつなげていくことも一つの手段だ」と指摘しています。その具体策の1つとしてCRMの活用を挙げているのです。既存の顧客をもっと深く広く知ることで、満足度を高める施策を打てるようになり、結果として売り上げの拡大とコスト削減を目指せると指摘しています。

Salesforceと製造業

では、Salesforceは実際どのように製造業に導入していくのがよいのかということについて、Salesforce自身が紹介している内容に沿って解説します。

プロジェクト管理

顧客からの発注を基に製造する製造業の場合、発注した後の製品製造はどのように進捗しているのか、顧客には見えません。実はこのことがさまざまな問題を発生させています。製造に携わる人には直接顧客の顔が見えていない場合が多く、顧客が望んでいることが細かいレベルまで伝わらないものです。

これまでの製造業では、最終仕様の決定や製造に顧客側の準備が必要な場合など、顧客の事情が分からない、工場の事情が分からないなど、双方がスムーズな情報のやり取りができないがゆえにぎくしゃくし、問題プロジェクト化してしまうことがあったのです。

そこで、経営層から現場まで、プロジェクトにかかわるすべての人が顧客を中心につながるシステムにして、ニーズ、仕様、立ち合い、進捗管理、アフターサービスの問い合わせに至るまで、顧客と企業がお互いをよく知ることのできるシステムにできるのです。

Salesforceは、顧客の要望をわかるようにして、SoI(System of Insight)、SoE(System of Engagement)の領域をカバーし、顧客起点でのプロジェクト管理を実現するようにします。

チャネルエンゲージメント

Salesforceが提供する製造業界向けチャネルエンゲージメントは、メーカーの営業、カスタマーサービス、マーケティング機能を販売代理店や流通業者に展開できます。集中的に管理ができカスタマイズも可能です。

これは、販売代理店とメーカーの連携を促進し、最終顧客とのつながりを可視化する仕組みです。製造業の立場で、販売代理店や流通業者とコミュニケーションを密にして、顧客のために共同で作業を行うことができるようになります。

製造業は自ら商品を販売できる時代になっていますが、既存の販売代理店とその顧客とのつながりがある場合は、それを大事にしていかなくてはなりません。おのおのの立場で仕事をしていくと何か不都合があった場合に、責任を押し付けあうことにもなりかねません。

チャネルエンゲージメントの仕組みでは、顧客の何らかのニーズがあった場合、販売代理店に伝わると同時に、メーカーもそれを共有できます。顧客の動向を販売代理店と共有することによって、商品の販売方法はもとより製造の仕様や、あらゆるサービスにも変化が生じてくるでしょう。

  • グローバルにおける品質対応の強化

グローバル展開する製造業にとって、品質の管理は重要課題です。万一問題が発生した場合、どのように対応しているでしょうか。各部署の連携がとれていない場合には、原因の究明がとても大変になってきます。

ロット番号や出荷実績がおのおのの部署でローカルに管理されていては、万が一の不良発生時、原因究明もままなりません。顧客のサポートをする観点からとてもまずい状況だといえます。顧客からの信頼が一度に喪失してしまう事態に発展することも考えられます。

そこで、スピーディーに問題を解決できるようにするには、ロット番号や品質対応ナレッジ、生産ロット情報などを共有し、営業担当、製造担当、品質管理担当が同じ情報を見られるようにしておく必要があります。

そこでの対応状況は、カスタマーポータルの画面で顧客に知らせることができ、誠実に対応しさえすれば、その様子が顧客に伝わり、謝罪や口頭での説明とは別に強力な信頼感を与えることができるのです。

品質管理担当が、Excelで管理しているのだとしたら、Salesforceに変えた場合にその生産性は向上するでしょう。また、原因の特定が迅速化され、各部門での協力やサポート体制が強化されるため、顧客も社内も安心できる体制になるはずです。

インテリジェントなフィールドサービス

製品のメンテナンスを担当するフィールドサービス部門は、営業担当よりも頻繁に顧客と接する部門だといえます。したがって、「顧客がメーカーに対して抱く印象は、フィールドサービス部門の印象である」と言ってもいいほどの影響力を持っています。

あるアンケートでは顧客の信頼を売るために必要なことは何かという質問に対してフィールドサービス部門の強化が最優先課題だと考えている大手メーカーの割合が90%にも達していました。

Salesforceのシステムはフィールドサービス部門の生産性を高め、顧客の印象をよくするのに役立ちます。製品に仕組まれたIoTから収集されるデータで故障の予知を行い、作業スケジュールの最適化に役立てます。

カスタマーサービスの連絡を受けるエージェントは、このシステムによって顧客の個々の事情が分かるため、より細かな対応ができるようになります。

さらに、各顧客それぞれ特有の事情に対応できるサービスのパーソナライズもCRMを得意とするSalesforceの領域です。故障時の修理サービスの場合早く訪問し、1回で問題を解決することが重要です。初回訪問時にその顧客が抱える問題を確実に解決できるならば、フィールドサービス、ひいてはメーカーは不変の信頼を得ることになるでしょう。

BtoB向けEコマース

Salesforceでは、BtoCのEコマースのような使い勝手で、顧客からネットで注文を受けることができるシステムを提供しています。すべての受注を受けるのは営業担当の仕事になりますが、小口の注文ばかりが多い場合はどうしても生産性が低くなります。

そこで、サンプル品や、繰り返しの注文に関してはネットで注文できるようにし、その記録はクラウドで共有してCRMに連携させるという方法を採ります。メールや電話、FAXなどに頼っていてはリモートワークもできません。顧客にとっても注文する手間はできるだけ少なくしたいのです。

顧客は画面で、スペックを比較したり、図面を見たり、返品、在庫、予定納品日などを確認できるので営業担当が対応する手間は大幅に減ります。顧客ごとに価格が違っても対応可能で、支払方法についてもいろいろなパターンに対応できるようになっています。

操作も簡単であり、最短2クリックで注文が完了します。顧客にとっても利便性の上がるこのシステムは、CRMと連携し注文履歴は他の担当者からも共有されて顧客管理に役立てることができます。

ソリューション・製品紹介

ここで、製造業向けのSalesforceのソリューションや製品を紹介しておきましょう。

Rebate management

Rebate Managementは、Salesforceのシステム上で、販売代理店や顧客にたいする金銭的な払い戻しやポイント還元などのインセンティブプログラムを高度化させるソリューションです。一般に、リベートとは、支払い代金の一部などを、支払人に戻すことを言います。割り戻しや手数料、世話料などと言ったりします。リベートの種類や、実施期間を設定、社内や販売代理店に対し目標を設定する機能を備えています。販売代理店は目標を達成するよう努力をすることでインセンティブを得ることができ、また、それを通じてメーカーとの適切なコラボレーションができるようになります。

メーカーの販売活動をつかさどる営業の責任者にとって、こうした販売代理店に対するリベートの効果を把握することは重要です。いかに効率の良いリベートプログラムを実施できたか、リベートプラグラムの投資対効果を計りながら実施していくことができれば、ただ漫然と実施する場合と比べて、営業的な効果には雲泥の差が出てきます。

また、インセンティブは販売活動だけではなく、研修会への参加や、新製品の販売活動への参加など各種能力向上の行動に対しても提供すれば、販売代理店のエンゲージメントは向上するでしょう。

こうした、販売実績に伴う金銭的インセンティブと優良な行動につけるインセンティブの両方を管理して、これらの施策が売り上げに与える影響を可視化できるのが特徴です。

これら多彩な機能を用いて、さまざまな販売促進策を策定することができ、メーカーにとっても販売代理店にとっても有益な結果を導くことができます。

Manufacturing Cloud

Manufacturing CloudはSalesforceの製造業向けCRMプラットフォームです。前述のRebate Managementも内包されています。Manufacturing Cloudは、AIを活用しているところに最も大きな特徴があります。これは、営業チームからの報告や主要なKPIの追跡などから正確な売り上げ予測ができるというものです。

また、卸業者や顧客のニーズに素早く対応するため、工場内の必要な情報にアクセスして速やかな問い合わせ対応に生かします。このほかに契約期限の管理、売り上げ予測機能による営業投入量の確保、目標値と売上予測から組織としてのパフォーマンスを分析して測定可能な目標に落とし込む機能もあります。

販売代理店とのコラボレーションに便利な各種機能も備え、AIを活用してチームをガイドしていくことができます。取引先の安全性や価格はこれでよいのか、その商品をおすすめしたらいいかなどの情報が出力されます。

いわば、営業のDXともいえる機能群で、メーカーとしての営業オペレーションに変革をもたらす各種機能です。分析と予測とそれを生かした営業施策で顧客側としてもあたらしい顧客体験を得ることができるでしょう。

導入事例

ここで、製造業におけるSalesforceの導入事例のうち、成功した例をご紹介していきます。

rassco/shutterstock.com
(画像=rassco/shutterstock.com)

シュナイダーエレクトリック

シュナイダーエレクトリックは、フランスの電気機器・産業機器メーカーです。「エネルギーとデジタルへのアクセスは、基本的な人間の権利」との理念を持ちます。同社の配電製品とエネルギー管理コンポーネントは、主要都市の建物の40%~ 60% に採用されており、「世界最大の隠れブランド」などとも評されることもあります。

シュナイダーはM&Aを繰り返して企業規模を急激に拡大させてきました。このためシステムが多数になって、しかも分散しており、統一化が課題となっていたのです。当初別の企業のCRMを導入してみましたが、社員が使いたがらずに失敗しました。Salesforceのクラウドを導入したところ、わずか 2 年で世界 70ヵ国、3万人の従業員が利用するようになり、世界中で営業やサービスの成果が向上したのだといいます。

同社最高経営責任者(CEO) のJean-Pascal Tricoire氏は「当社のサービスは、Salesforce によって機能している」と断言するほどSalesforceを評価しています。「顧客の課題発見から解決するまでの品質管理プロセスも、デジタルチャネルの管理も、Salesforce により成り立っています。また、各種製品との連携が進むにつれて発生する、パートナーの管理にも Salesforce が役立っています」と手放しで称賛しているのです。

荏原製作所

荏原製作所は大正元年創業の歴史あるポンプや風力・水力機器のメーカーです。全世界に販売拠点とサービスセンターを持ち、その技術力は世界的に定評があります

歴史の古い企業が世界的な規模になったという経緯があるだけに、その営業方法は独自の進化を遂げてきました。かつてはカリスマ的な力を持つ営業統括がノウハウを伝授し、結果的に高い営業成績を得られていた時代もありますが、世界各地に営業拠点を持つ今となってはその方法も通用しません。結果的に各拠点でそれぞれの営業ノウハウが発達し、仕事のやり方が多岐にわたるという、社内業務の分断化が発生していたのです。

こうなると営業の生産性は落ちてきます。営業担当者の働き方を分析したところ、実際に営業できていたのは1日のうちわずか1時間で、そのほかの時間は見積もりの作成などに費やされていたという衝撃の結果が分かりました。

そこでSalesforceを採用し、Sales Cloudを使った業務改革と効率化を実施しました。営業担当と営業事務担当を分け、すべての営業所の仕事方法を統一、営業担当者はそのスキルを伸ばすことに専念できる体制にしたのです。

結果として、約900人だった営業部門を、約700人の体制にスリム化することに成功しました。同社の製品は多い時で7万種類にも上ります。社内業務や営業のスキルを覚えるのも時間のかかるのが当たり前だったのですが、「高いスキルを標準化して、共有する」ことをSalesforceで可能にしたのです。

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(画像=Gorodenkoff/shutterstock.com)

SalesforceでDXを実現

これらSalesforceのソリューションと導入事例を見てみると、製造業にかかわらず大事なことは、顧客を中心にしたものの考え方であることに気が付きます。DXは生産性を高めるために行っていることですが、製造の効率をいかに高めようとも、究極的に言えば、販売できなければ生産性が上がったとは言えません。

モノを売る行為、つまり営業という仕事の効率を上げることは、製造のプロセスの効率を上げることと同じか、それ以上に大事なことです。製造担当者も顧客のことをよく知って、営業担当者と同じ視点で同じ情報を共有するところがほかのソリューションとSalesforceの異なっているところです。このことによって、企業全体の生産性が高まり、企業運営そのものが加速していくのが、事例を見ても分かります。

これからの製造業が直面するのは、少ない資源で多くの生産をすることを良しとした従来の生産性の考え方から脱却し、顧客のニーズを的確につかみ、それに合致した製品を作っていけるかを競う時代であり、そこでいかに生き残るかが課題と言えるでしょう。それを支援するソリューションとして、Salesforceへの注目度がますます高まっているのです。