本記事は、和田秀樹氏の著書『70歳からのボケない勉強法』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

勉強は人生を豊かにしてくれる最高の道具

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(画像=BillionPhotos.com/stock.adobe.com)

年とともに「知能」も「記憶力」も落ちたりはしない

これから年齢とボケについて話をしようと思いますが、その前に、よくある誤解を解いておきましょう。

まず、「年をとるほど知能は下がる」というのは誤解です。

1980年代に行われた「小金井研究」という調査があります。正確には、小金井市の一般住民への「WAIS成人知能検査」ですが、この調査よると、73歳の段階ですら動作性知能(目の前の要求に対応できるかという知能)は平均で100を超えています。これは40〜50代の水準とさほど変わりません。

つまり、「年をとるほど知能が下がる」のは誤解です。

それから、「年をとるほど記憶力が低下する」というのも誤解です。

ドイツの心理学者、エビングハウスの実験によると、人は無意味な言葉を丸暗記した後、1時間後にはだいたい50%を忘れ、24時間後には約70%、1カ月たった段階では、ほとんど記憶に残っていないという結果になったといいます。これを「エビングハウスの忘却曲線」といいます。

エビングハウスの実験結果から「忘却は覚えた直後に進む」という法則を見いだすことができますが、ここで注目したいのは、暗記したものを忘れる期間に年齢差は関係ないという点です。

とはいえ、「実感として年をとるほど記憶力が落ちている」という人も多いでしょう。じつは、エビングハウスは、効率よく記憶するために復習することの重要性も述べているのです。

皆さんも、学生時代には寝る間も惜しんで勉強をして、大事なことを繰り返し復習して覚えていたはずです。ところが、大人になるにつれて学習意欲が落ちていきます。

よく「物覚えが悪くなった」ことを加齢のせいにする人がいますが、記憶力が落ちたのではなく、覚えようという「意欲」が低下しているだけなのではないかと思うのです。

加齢で低下するのは記憶力ではなく、むしろ意欲のほうです。だいたい50代から60代にかけて、男性ホルモンの分泌量が減少しはじめます。代表的な男性ホルモンである「テストステロン」は、意欲や気力、攻撃性、好奇心と密接な関係をもっています。

ですから、60代前後から「テストステロン」の分泌が減少し、意欲が低下しがちになるのは当然のことといえるでしょう。

さらに、そこに前頭葉の老化も加わります。前頭葉は、感情のコントロール、創造性、怒りや不安の処理をつかさどります。老化によって前頭葉が萎縮すると、意欲を維持することが難しくなってきます。

「新現役時代」は、新しい自分を発見する時間

最近、定年後の雇用延長期間を終えた知人が、「よく〝第二の人生〟なんていいますが、〝第二〟という割にはけっこう長いですよね」

と、ため息交じりに話していました。

けれども、このため息の背景には、先ほど述べたような「年をとるほど知能は下がる」「年をとるほど記憶力が低下する」という思い込みがあるのではないでしょうか。

年をとっても頭を使って学ぶことはできます。このことが世間の常識になったら、「第二の人生が長すぎる」としょんぼりする人は減って、逆に、胸がわくわくしてくる人が増えるだろうと思うのです。

ひと昔前は、55歳で定年を迎え、後は「余生」ということで、大過なくフェードアウトしていければ上等というのが、多くの人のライフプランでした。

ひと昔前を何年前とするかは曖昧ですが、読者のあなたが1955年生まれであったとします。

55年の時点での平均寿命は、女性67.75歳、男性63.6歳。その時代に定年を55歳で迎えたら、残りの約8年はたしかに「余生」だといえるでしょう。

その後、1990年には女性81.9歳、男性75.92歳、2019年には女性87.45歳、男性81.41歳と平均寿命は飛躍的に延びました(いずれも2019年厚生労働省発表の「簡易生命表」より)。

いま、男性が65歳で現役を退いた後、約16年を生きることになります。これはあくまで平均であって、大病をしたことがなく、深刻な持病もない男性なら、この後20年、30年を生きる可能性は高いでしょう。

この20年、30年の期間は「セカンドステージ」と呼ばれます。

しかし、その時間的な長さを考えれば、セカンドだからといって、「余生=余りの人生」と考えてしまうのは、この超長寿時代においては、決して賢い考え方ではありません。

「単なる言い方だ」といってしまえばそれまでです。でも、私はこの言葉に少しばかり抵抗感を覚えます。なぜなら、「ファースト=主」「セカンド=副」という意味が込められているように感じられるからです。

そこで、私はこの期間を「新現役時代」と呼んでみたいと思います。定年までの現役時代の次にくる新たな現役時代です。あえて〝第二〟とはいいません。

新現役時代のキーワードになるのが「新しい自分」です。

この「新しい自分」の発見、構築に欠かせないのが、「勉強」なのです。

新現役時代の「勉強」は、学生時代に経験したそれとはまったく異なるものです。義務として必死に丸暗記する必要はありません。日常生活のささやかなことであっても、進んでトライする。成功か失敗かは二の次です。努力するのはほんの少しだけ。なによりプロセスを楽しむこと。

年をとったからこそできる、新現役時代にふさわしい「勉強」があるのです。

勉強とは、あなたの人生を変える「道具」

私は27歳のときに執筆した『受験は要領』が大ベストセラーになったおかげで、これまでたくさんの勉強法の本を出してきました。多くの受験生を指導して、「受験の神様」と呼ばれたこともありました。

でも、勉強とはただ試験に合格するためだけのものではないと私は思っています。むしろ、勉強を通じて自分の強みを知り、工夫できるようになることが大切なのではないでしょうか。

勉強は自分自身を強くして、人生の選択肢を増やすものです。それは何歳になってもかわりません。勉強は、あなたの人生を豊かにしてくれる「最高の道具」なのです。

私はほかの著書で「健康脳寿命」の重要性を説きました。ただ生きているだけの「寿命」ではなく、自立した生活を送れる「健康寿命」です。

そして、70歳からは「脳の寿命」も大切だと思うのです。この「健康脳寿命」を維持するために忘れてならないのは「脳にラクをさせないこと」です。

特に「健康脳寿命」の維持に欠かせない「勉強」の方法をおすすめします

「勉強」には、間違いなく「喜び」があります。けっして苦しさや辛さばかりを伴うものではありません。これまで知らなかった情報や新しい知識を得るのは、誰にとっても新鮮で楽しい経験です。

先ほど紹介した知人の言葉のとおり、新現役時代はけっこう長い。学んで、勉強して、楽しみましょう。ボケてしまっては、もったいないではありませんか。

70歳からは、新現役時代を楽しむことが大事です。豊かな新現役時代を楽しく、機嫌よく過ごしたいと願う読者の方々のお役に立つならば、著者としてうれしいかぎりです。

70歳からのボケない勉強法
和田秀樹
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。ベストセラー『80歳の壁』(幻冬舎)、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)など著書多数。

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