本記事は、和田秀樹氏の著書『70歳からのボケない勉強法』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

勉強
(画像=sutadimages/stock.adobe.com)

「まずは暗記」こそが70歳からの勉強の必須課題

「苦手意識」の克服には、どうすればいいのでしょうか。パソコンを例にとって話をしましょう。

あなたが右手の親指1本でしかキーボードの文字を打てないとしましょう。でも、それは気にすることはありません。たとえ1本の指だけでも、インターネットでの検索はできます。それよりも、大切なことがあります。

それは「遊び心」です。

かりにあなたが、東京在住で何年も郷里に帰ったことがないとしましょう。そして「○○県××郡▲▲町」の出身だとします。

まず、あなたはパソコンに向かい、インターネットをつなぎます。そして「▲▲町」と入力してみましょう。

画面には「▲▲町」に関連した項目がたくさん出てきます。とりあえず、いちばん目立つ「▲▲町役場」が作成しているホームページがあるので、そこをクリックしてみましょう。

そこには現在の町の様子、観光スポット、特産品、行事などが紹介されています。ほかにも「町長のメッセージ」もあるでしょう。そこであなたは発見するかもしれません。

「えっ。落ちこぼれだったあの同級生が町長なのか!」

さらに関連する項目をクリックしていけば、さまざまなおもしろい情報を見つけることができるでしょう。

このように遊び心でパソコンに接していれば、たとえ1本の指だけでキーボードを叩いていても、インターネットの便利さやおもしろさに気づくはずです。

「四の五の言わずに」覚えなければならないこともある

とにかく、勉強でなんらかの成果を得るためには、ラクなことばかりしていてはダメです。

ときには脳を悩ませるプログラムもこなさなければなりません。

70歳になってからの新現役時代であっても、それは、若いころの勉強と同じです。

とくに必要なのが、自分がトライするジャンルの基礎的知識を、四の五の言わずに身につける覚悟です。

たとえば、趣味の将棋においての勉強を例にとりましょう。

将棋の実力を本当にアップさせたいと考えるなら、「居飛車」「振り飛車」をベースとした〝定跡〟をできるだけたくさん覚えなければなりません。

私自身、将棋にはそれほど詳しくはありません。それでも「居飛車」なら、「矢倉戦法」「角換わり」「横歩取り」、「振り飛車」なら「四間飛車」「三間飛車」「向かい飛車」ほか、いくつもの戦法があることは知っています。

将棋のセンスを持っているような人でも、これらの基本的戦法を、プロ棋士たちの対戦した記録である「棋譜」を見ながら覚えなければなりません。

こうしたプロセスにおいては、楽しいだけではすまされないそれなりの基礎学習が必要です。とりわけ大切なのが必要な基礎的知識を「詰め込む」こと。つまり「暗記」です。

趣味のことですから、それほど苦にならないことかもしれませんが、人によってはこの段階でイヤになって上達の道を閉ざしてしまうことがあるでしょう。

これは、囲碁、マージャンはもとより、音楽、料理、家庭菜園、盆栽など、ほかの趣味のすべてにも共通することです。

「暗記なんて、本当の勉強じゃない」

よく、したり顔でそんなことを口にする人がいますが、その人は本当の勉強をしたことのない人です。勉強は、まず暗記からはじまります。

考えてみれば簡単なことです。数学でいえば、九九のできない人が微分、積分などはもちろんのこと、因数分解さえできません。スポーツも同様です。野球でキャッチボールや素振りをいいかげんにやっていたら、うまい選手になれるはずもありません。

暗記で基本知識を頭に定着させる、反復練習で基本動作を体に覚えさせるということが、あらゆる勉強の必須条件です。

「基礎知識の詰め込み」のどこがいけないのか

1980年代、日本では「ゆとり教育」が脚光を浴びました。

当時の文部省が「知識量偏重型を是正し、思考力を鍛えることに重点をおく」という教育方針に舵を切ったのです。それまでは「詰め込み教育」であり、間違っているとの判断のもとでの決定でした。

その結果、日本の児童、生徒の著しい学力低下が生じました。2011年以降、その方針は見直されました。しかし、残念なことにその内容は当時批判された「詰め込み教育」時代の水準には戻されていません。

国際的に見ても、日本の児童、生徒の学力は低下傾向のままです。思考力の上昇を裏付けるデータもまったくありません。

こうした事実を考えてみても、勉強にとって「四の五の言わずに暗記する」というプロセスがいかに重要であるかがわかります。

新現役時代においては、仕事のシーンであれ、プライベートの趣味のシーンであれ、怠けず、余計なことを考えずに覚えなければならない知識、セオリーがあることを忘れてはなりません。

そうした勉強の先にしか、自分独自のものなどあり得ないのです。新しい自分に出会うために必要なプロセスです。

「型があるから型破りが出来る」
「型が無ければ単なる形無し」

18代目中村勘三郎さんの言葉です。

どんな世界であっても基本的知識を「詰め込むこと」の大切さは共通するのでしょう。私は、この考えこそ豊かな新現役時代を生きるための必須課題だと考えています。

70歳からのボケない勉強法
和田秀樹
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。ベストセラー『80歳の壁』(幻冬舎)、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)など著書多数。

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