本記事は、和田秀樹氏の著書『70歳からのボケない勉強法』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。
高齢者でもできる大人のための記憶術
記憶力が低下している要因には「余計なことを覚えている」という一面があります。逆にいえば「余計なことを覚えない」ことで記憶力は上向きます。
心理学の世界には「逆行抑制」という言葉があります。これは「新しい情報が脳に入ると、それ以前に覚えていたことを忘れる傾向にある」ということです。
個人差はありますが、これは誰にでも経験のあることではないでしょうか。
試験勉強が煮詰まったとき「脳がパンパンで記憶しようにも隙間がない」という非論理的な思いにかられた人も少なくないはずです。
試験対策の勉強法では「覚えることを最小限にすることが合格の鉄則」という指摘もあります。試験に備えるには、まず出題傾向を分析し、必要な情報と不必要な情報を取捨選択する必要があります。それは記憶すべき情報と不要な情報の峻別作業だからです。
成績が上がらない生徒のひとつの特徴は、この分類が不得手なことで、不要な情報も含めて「丸暗記」に全精力を注いでしまう傾向が強いのです。
「新現役」の勉強には、もちろん「丸暗記」など必要ありません。
自分が必要な情報を覚えることと、やみくもに情報を入手することとは根本的に違うのです。
私が理想的と考える記憶のテクニックは「入力情報は少なく、それでいて頭に残る情報は多い」ことです。そのためにも、入力段階における情報の取捨選択がことのほか重要になってきます。
「起きがけの復習」で記憶の定着率が高まる!
先に述べた逆行抑制への対処法として有効なのが復習です。
「復習? そんな当たり前の方法では」
そう思われるかもしれません。しかし、まさに学問に王道なし。繰り返し、脳に情報をインプットすることで記憶力がつき、それは脳の機能をも若々しくしていくのです。
記憶を保持する方法に関しては、古くからさまざまな心理学者が実験を試みてきました。しかし、際立った効果が認められた事例は認められていません。その中で、唯一、高い評価を得ているのは、反復による記憶法です。
たとえば、ドイツの古典的な実験心理学者のエビングハウスは、時間とともに変化する記憶の保持状態の推移を実験によって明らかにしています。その実験は、理解をともなわない事柄の記憶保持率の推移を観察したものですが、忘れないうちに復習をすることによって、記憶保持率が大幅に改善されることが明らかになっています。
もうひとつ、眠っているときと目覚めているときの記憶保持率の比較に関する実験も過去に行われています。その実験データでは「眠っているときは余計な情報が入らないので、寝る前に覚えたことは忘れない」と解釈されています。
しかし、そもそも「眠っているときにはいろいろなことを忘れている」と、この説を真っ向から否定する精神医学者もいます。
私は、この両論を踏まえたうえで「起きがけの復習が効果的」との立場をとっています。
なぜならば、眠ることで忘れずにすんだものを記憶として保持することと、眠ることで曖昧になりかけた理解を回復させることの2つを達成させるには、翌朝にアクションを起こす「起きがけの復習」が重要だと思うからです。
その理由には、記憶力アップの極意として、私自身が受験生にそれを伝授していた経緯があります。さらに併せて週末の復習練習を行うことで、記憶の定着率がさらに上昇したことが認められています。
復習の時間は長くても短くても大差ない!?
「復習」と聞くと、学生時代を思い出して暗い気持ちになる人が多いかもしれません。しかし、「新現役」にとっての復習は学生時代とは大きく異なります。
なによりも大きく異なるのは、「歯を食いしばってまで暗記する」ほどの切迫感が不要なことです。
試験の点数を取るための記憶ではなく、自分が好む情報を「もう一度、おさらいする」復習ですから、楽しみや喜びの気持ちがなければ継続できません。
気になるのは復習に要する時間ですが、これに関してクリューガーという心理学者が興味深い実験を行っています。
その実験は、一定の数の単語を暗記する際の復習時間を比較したもので、1つ目の方法は、単語を覚えるのに費やした時間の半分を復習の時間に使います。たとえば、単語を記憶する時間が1時間だとしたら、30分をその復習に使います。
2つ目の方法は、記憶する時間と復習の時間を同じ長さにします。1時間、記憶の時間として費やしたら、復習にも1時間かけます。
その結果、記憶の保持率に大差のないことがわかりました。つまり「復習の時間は長ければいいというものではない」ということです。
それよりも短時間に、効率よく復習することが効果的だということです。つまり朝のちょっとした時間を利用した「起きがけ復習」を実行するのが、とても効率的といえます。