本記事は、和田秀樹氏の著書『70歳からのボケない勉強法』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

ポイント
(画像=taa22/stock.adobe.com)

勉強の効率を悪くする「記銘力低下」の対策はこれ!

「そういえば、知人の○○さんはタレントの××と似ている」
「鼻が詰まっているときにクサヤはどんな味なのだろうか」

誰でも経験することではないでしょうか。

会議のとき、街を歩いているとき、食事をしているとき、あるいはベッドの中で、突然、どうでもいいけれどおもしろいことやばかばかしいことを思いつくことがあります。

人間の脳はじつに不思議なもので、そのとき自分が考えていることとは無関係に、なんの脈絡もなく、さまざまなことに気づいたり、疑問が湧いたりします。

どうでもいいことは忘れてもいいでしょう。しかしときには、仕事や趣味に生かせそうなプラン、長年疑問に感じていたことの答えが、突然浮かんだりすることもあります。

ところが、自分の脳が喜ぶプランや答えですが、一夜明けるとまったく思い出せなくなっていることがしばしばあるのではないでしょうか。この傾向は、年を重ねれば重ねるほど顕著になります。いいことを思いついたということは覚えていても、その内容がまったく消えているのです。

自分の仕事に関することであれ、ライフワーク、あるいは趣味に関することであれ、これはじつにもったいないことです。

医学的には、新しい記憶を入力する力を「記銘力」といいます。脳の記銘力低下がなければ、新しい情報を次々と吸収して定着させることができます。そして、その新しい情報を保持し、整理して、必要なときに取り出して思考に役立てたり、コミュニケーションに利用したりできます。

しかし、この記銘力は加齢によって劣化します。

もちろん記銘力の低下は、健常者にもしばしば見られます。「記銘力低下」と呼ばれ、ほとんどが一過性のものです。

ただ、この頻度が増加したり、直前の出来事も覚えていられないほど低下が著しくなったりした場合には、アルツハイマー型認知症が疑われます。

記憶を出力する習慣で勉強を効率化

認知症が疑われるほどの記銘力低下は専門医の受診が必要です。記銘力が低下することは、スムーズな「勉強」の効率を損なうことは間違いないからです。

じつは、それを回避するための、じつにシンプルな方法があります。

  • メモする
  • 誰かに伝える

この2つをやるだけです。

自分の脳に浮かんだり、ひらめいた入力(インプット)情報を、文字化したり発語によって出力(アウトプット)することで、確かなものとして定着させるのです。

知人の出版プロデューサーはこれまで数々のミリオンセラーを世に出してきました。

85歳を過ぎたいまも現役で、メモする習慣はハンパではありません。雑談中、食事中であっても、閃くとすぐにメモをします。

ときには、街を歩いているときにも立ち止まってメモすることもあるといいます。そればかりか、家でもその習慣は徹底していて、リビング、寝室はもちろん、浴室、トイレにもメモ帳を置いているとのことでした。

なんでも、30年ほど前あるプランが閃いたのに、忘れてしまったことがあり、しばらくして同じコンセプトの本が出版され、大ヒットになったことがあったとか。「あの悔しさは忘れない」と、以来メモ魔になったのだそうです。

彼はいまだに手書きのメモですが、スマホのメモ機能やボイスレコーダーがあるので、その機能を活用するのもいいかもしれません。メモは効果的な勉強のための有力なメソッドです。

新現役時代の勉強では、「あれ、なんだっけ?」の時間はもったいない以外のなにものでもありません。

脳は「忘れっぽい」と肝に銘じておくべきでしょう。

「音読」はとっても優れた記憶定着法

「あれっ、私に話しかけているのかな?」

ところが、その人は誰に話しかけているわけではなく、ただひとり言を言っているだけ。医学的に考えて病気というわけではないのでしょうが、ときどきそんなひとり言を言う人を見かけます。

こんなひとり言は別として、勉強のプログラムに欠かせない知識の記憶に「音読」はきわめて有効です。

仕事であれ、趣味であれ、そのパフォーマンスを高めるために暗記などで頭に叩き込まなければならない基礎知識があります。

新現役時代の再就職でも、新たな職場で覚えなければならないことも数多くあるはずです。たとえば、これまでの職場では無縁だった総務部に配属になれば、労務に関する法律の資料、給与体系の資料、各種ハラスメントに関する資料などに目を通し、規則などを記憶しなければなりません。

また職種によっては、資格取得が求められるケースもあるでしょう。その場合も、否応なしに記憶しなければならない知識があります。

趣味、ライフワークなどにおいても、種類によっては同じように基本的知識の習得のために、教則本や入門書、あるいは関連した法令集などに目を通さなければなりません。

黙読よりはるかに効果がある

こうしたシーンでは、教科書、資料の音読が必要知識の習得に役立ちます。

記憶の定着には、情報の入力⇔出力の繰り返しがもっとも効果的です。なぜなら、視覚的に入力される文字情報を声に出して出力するわけだからです。そして、音読はまさに情報の入力⇔出力の典型ともいえるのです。

数値的な詳細なデータは把握していませんが、記憶の定着に関して、音読は黙読に比べておそらく数倍の効果があると私は考えています。

音読によって、脳の視覚野と聴覚野が活性化するほか、脳が広範囲に活動します。これによって記憶の定着が促進されるのです。

それだけではありません。

当たり前のことですが、音読の際には、まず文字情報を視覚でとらえるわけですが、写真的に文字情報が脳に記憶されます。

試験などで、英単語、年号、数式、元素記号などを「右ページの上のほう」とか「左ページの真ん中」というふうに思い出して、答えが見つかったという経験が誰にでもあるはずです。

もちろん黙読でも可能なことなのですが、音読のほうが間違いなく記憶の定着率は高いはずです。

考えてみれば、それは当然のことでしょう。

歌も、とにかく歌ってみることでうまく歌えるようになります。ただ聞いているだけだけではなかなか歌えるようにはなりません。発音、発語という出力が上達の近道なのです。

また、赤ちゃんは成長とともに、親の言葉を聞いて口真似することで話すことができるようになります。

この場合は、聴覚による情報の入力⇔口真似による発語と出力の繰り返しによるものです。音読の視覚による情報入力⇔発語による情報出力という行為は、優れた記憶術であり、勉強には欠かせないメソッドであることは間違いありません。

「見て、声を出して読んで、書く」

この音読による記憶の定着を高めるためには、発語だけではなく書くという出力行動も重要です。

たとえば、覚えなければならない専門用語などは、音読の繰り返しによって発語を重ねながら、紙に書くことで記憶の定着率がさらに向上します。

英語の勉強などで単語帳を作って覚える方法もあります。ただ、そのメソッドが間違っているとはいいませんが、単語帳をつくる手間を考えれば、その単語を忘れたら辞書を引いて発音記号を読みながら発語し、紙にその単語を5回書いて覚えるほうが効率的なメソッドだと私は思います。

そのほうが、辞書のページを写真的に記憶することができるからです。このメソッドなら、その単語の派生語、さらにはその周辺にある単語も覚えることもできます。

もちろん手作りの単語帳は電車のなかとかかぎられた場所での学習法としては有効ですが……。

いずれにせよ、音読の入力⇔出力は、勉強には欠かせない手法です。童心にかえって音読を学び=勉強のメソッドに加えることをおすすめします。

ちなみに、トロイ遺跡をはじめ数々の遺跡を発掘したドイツの考古学者ハインリッヒ・シュリーマンは、10カ国語以上話すマルチリンガルだったのでした。その彼の学習法の基本は音読だったそうです。

真偽のほどは定かではありませんが、あまりに大声で音読をしたため、隣人からの苦情が相次ぎ、幾度となく引っ越しを余儀なくされたというエピソードも伝わっています。

狭い家なら、家族のことを考えて、少しだけボリュームアップしたひとり言程度の音読がいいかもしれません。

70歳からのボケない勉強法
和田秀樹
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。ベストセラー『80歳の壁』(幻冬舎)、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)など著書多数。

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