本記事は、和田秀樹氏の著書『70歳からのボケない勉強法』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

好奇心
(画像=heFarAwayKingdom/stock.adobe.com)

脳内にいる「好奇心」旺盛な生徒を目覚めさせる

「アレ、なんだろう?」
「この人、何が言いたいんだろうか」
「○○○って、なんのこと?」

誰でも普通に暮らしていれば、頭の中で数えきれないほどこういう経験をします。

けれども、差し当たって仕事に無関係であったり、暮らしに支障をきたしたりすることでもないかぎり、ほとんどの場合は、こうした疑問はおざなりにされてしまいます。

ひと言でいって「どうでもいいこと」ならばこれでいいのですが、年を重ねると「どうでもいいこと」の範囲が広がってしまい、とくに新しい情報、新しいことへの関心が薄れていってしまいます。なぜなら新しさの理解には、「脳を悩ませる」ことが必要であり、それがめんどうくさくなってしまうからです。

新しいことへの好奇心は、脳を老化させないための原動力といってもいいでしょう。

しかし、その同じ自分の脳の中で好奇心を押さえつける力が働いているわけですから、脳という臓器は厄介といえば厄介です。脳という学校の中には、好奇心旺盛な生徒もいれば、すぐにあきて居眠りをしてしまう生徒もいるのですから。

老年精神医学に長く携わってきた私の立場からいえば、この新しいことに対して「めんどうくさい」で片づけることが習慣化すると、認知症発症のリスクを高める可能性があることは間違いありません。

ラクをさせれば、前頭葉の萎縮は止まらない

認知症にはさまざまなタイプがありますが、もっとも多いアルツハイマー型認知症の場合、脳の前頭葉から萎縮が進んでいきます。

この前頭葉は人の記憶や意欲と深く関わっている部位ですが、脳のほかの部位に比べて、もっとも老化が早いといわれています。

一般的に40代から、早い人では30代から前頭葉の萎縮ははじまります。しかし、問題となるような記憶障害、問題行動といった症状は、その時点では見られません。ただし、萎縮は確実にはじまっています。

では、その萎縮を進行させないためにどうすればいいのでしょうか。

とにかく前頭葉の血流を増やすことです。そのためには、新しいこと、新しい情報、新しい人との交流に関心を抱き、積極的にアプローチして「へえ」「なるほど」「おもしろい」など、感情面での刺激を経験することがきわめて有効です。

こうした自発的なトライが、前頭葉の働きを活性化していくのです。

ですから、街で変わったものを見かけたり、誰かの言葉にふと興味を抱いたり、聞いたことのない言葉に出合ったりしたとき、「どうでもいい」とスルーしてしまったのでは、脳にラクをさせてしまうことになります。ラクをさせると前頭葉の老化をストップさせることはできないのです。

なによりも、「!?」とサインを送ってくれた脳の中の好奇心旺盛な生徒に失礼です。

居眠り好きであきっぽい生徒の声に惑わされてはいけません。脳が求める「勉強の機会」、つまり、せっかく芽生えた好奇心を無駄にしてしまうことになるのですから。

会話は脳を活性化するアウトプットの大切な場

「変わった人だな。おもしろそうだ」

初対面の人にそのように感じることはありませんか。

しかし、ときには「変わった人だから、好きになれない」という印象をもって距離を置いてしまうこともあるでしょう。

このちょっとした違いで、人間関係の広がりで大きな差が生まれます。

自分の経験則や常識にかなわないからと人を遠ざけてしまっていては、脳はどんどん固くなっていくばかりなのです。

最近では、仕事のシーンでもプライベートのシーンでも、他人との接触を避けたがる人が増えているようです。

私自身も超多忙な日々を送っていますから、仕事の用件であってもできることなら人に会わずにすませたいと思うこともあります。ただそう思うだけで、実際に他人との接触を拒むことはありません。

私はワイン好きで、ワイン仲間の集まる会が開かれるとなれば、無理やりでもスケジュールのやりくりをして参加します。たとえ仕事が入っていても、早めに切り上げたりします。

そこではワイン談議が中心になりますし、ときにはかなり真面目なテーマについて議論が交わされることもありますが、たわいもない会話がほとんどです。

しかし、予期せぬ「副産物」もあります。

それは、新しい人との出会いです。そして、そこでの会話のなかで生まれるさまざまな驚き、感動、発見、疑問、そして仕事や趣味に関するプランやヒントです。

人間の脳はじつに不思議なものです。人と話をしていると、なんの脈絡もなく「!」や「?」や「!?」が頭に浮かびます。まさに、言語化された理性的認識ではなく、言語化される以前の感性的認識と表現できる現象です。

じつは、これが勉強の「きっかけ」になることが少なくないのです。

「入力と出力」こそが記憶を定着させる

こうした「!」や「?」や「!?」のインパクトには強弱があります。

それが強ければ、とくに意識しなくとも脳に残りますから、後になってそれを明確に言語化することが可能です。しかし、インパクトが弱ければ、放っておけばあとかたもなく消えてしまいます。

ただ、インパクトの強弱にかかわらず、言葉にして発することで脳に定着させることができるのです。

つまり、感性的認識として入力(インプット)された情報を、出力(アウトプット)することによって記憶として留めることができるのです。

もちろん、会話ですから、きちんとした文章ではありません。それでもいいのです。

キーワードになるような単語を1つ、2つ他人に対して口にしておくだけでも、その認識のアウトラインは脳に残ります。

こうした認識のなかには、仕事や趣味のほか、自分の考え方や生き方に対して生産的に反映できる情報も含まれます。

「上司への提案はAさんのようにやればいいのか」「あの馬は休み明けに勝つタイプなのか」「ベジタリアンとビーガンは同じだと思っていた」「血圧に神経質になる必要はないんだな」といったように、会話のなかでアウトプットしておけば、ほとんどの場合、忘れてしまうことはないでしょう。

「!」「?」「!?」と脳の活性化の関係

こうした情報の入力と出力は、直接人と会って会話することでのみ可能です。

「人に会わなくたって、そんなことはできるだろう」

そう考える人嫌いの人もいるかもしれません。

たしかに、読書などでのひとりでやることでも「!」や「?」や「!?」は生まれます。ただ、他人との会話のなかで生まれるそれとは異なりますし、ひとり言でも続けないかぎり、出力行動は限定的です。単なる頭の中での「自問自答」にすぎないでしょう。

メモによる出力も有効ではあります。しかし、そのことと人との直接コンタクトをかたくなに避けようとすることとは、別の問題です。

また、会話による発語は脳の活性化には欠かせません。とくに高齢者の場合、発語機会の減少は脳の劣化につながります。

ひとり暮らしの高齢の親に久しぶりに会ったら、発語がスムーズでないことに驚いたという話はよく聞きます。

さらに、高齢者専門の病院に長く勤務していた私の経験として、気難しくて見舞客の少ない患者さんは、社交的な患者さんに比べて、認知症の進行が速いというのも事実です。これも発語機会の減少が大きく影響していると考えられます。

いずれせよ、他人との会話による「!」「?」「!?」の入力、そして言語化というプロセスは、勉強のきっかけであるだけでなく、認知症発症のリスクを軽減することにもつながるのです。

私自身、群れるような人間関係は好みません。とはいえ、本来、人間は社会的間接性のなかで生きているのですから、かたくなな人間嫌いは賢明な生き方ではないのでしょう。

70歳からのボケない勉強法
和田秀樹
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。ベストセラー『80歳の壁』(幻冬舎)、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)など著書多数。

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