物流の2024年問題とは?働き方や給料への影響を解説
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物流業界では、2024年前後に施行される働き方改革関連法案により、従業員への待遇が改善します。しかし、この法改革が「2024年問題」と言われるほど、物流業界で大きな問題になっています。

目次

  1. 物流の2024年問題で抑えておきたいポイント
  2. そもそも2024年問題とは?ポイントをわかりやすく解説
  3. 2024年問題が物流企業・ドライバー・荷主・消費者に与える影響
  4. 2024年問題で物流業界が直面する3つの課題
  5. 物流の2024年問題への対策案
  6. まとめ|2024年問題は物流業界全体で改善すべき問題

物流の2024年問題で抑えておきたいポイント

物流の2024年問題で抑えておきたいポイントは、主に以下の2つです。

・月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が25%から50%に引き上げられる
(2023年4月~)
・時間外労働の上限が年960時間に制限される
(2024年4月~)

これらが適用されることにより、物流企業やトラックドライバーは以下のような影響を受けます。

労働時間の上限規制が適用されることにより、一人当たりの労働力は低下すると予測されています。物流企業はこれまでと同様の条件で稼働しても、従来通りの利益を上げることができないため、結果的に運賃を上げなくてはならないでしょう。

そもそも2024年問題とは?ポイントをわかりやすく解説

2024年問題は、物流業界の働き方改革の実施に伴って起こる問題のことです。

物流業界の長時間労働を改善するための法改正が実施される

まずは、物流業界に働き方が実施される背景について解説していきます。これまで、物流ドライバーが属する自動車運転者には、時間外労働の条件が制定されておらず、長時間労働になりやすい傾向にありました。

全日本トラック業界「トラック運送業界の2024年問題について」
(出典=全日本トラック業界「トラック運送業界の2024年問題について」)

実際に、トラックドライバーの労働時間は長いことが調査によって明らかになっています。全産業平均と比較すると、大型トラックドライバーの労働時間は月36時間程度長く、中小型トラックドライバーの労働時間は月32時間ほど長くなっています。

このような背景から、物流業界は3K(きつい・汚い・危険)の悪いイメージがつき、直近5年間の物流業界の求人倍率は、全職業の2倍程度となっています。

全日本トラック業界「トラック運送業界の2024年問題について」
(出典=全日本トラック業界「トラック運送業界の2024年問題について」)

これらの問題を解決するため、働き方改革関連法で以下2つの制度が導入されます。

・月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が25%から50%に引き上げられる
(2023年4月~)
・時間外労働の上限が年960時間に制限される
(2024年4月~)

自動車運転業務にも時間外労働の上限規制が導入される

これまで、トラックドライバーが属する自動車運転業務には、法律による時間外労働の上限が制定されておらず、長時間労働になりやすい環境にありました。その状況を改善するため、2024年4月より自動車運転業務にも時間外労働の上限が設けられます。

しかし、自動車運転業務は多くの職種と別の扱いとなるため、一般則の時間外労働の上限である720時間は適用されず、年960時間までの時間外労働が可能です。しかし、時間外労働が年960時間を超えると、一般則と同様に罰則(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)が科される恐れがあります。

しかし政府は、将来的に自動車運転業務も年720時間以内の時間外労働である一般則の適用を目指しているため、今後も引き続いて時間外労働を減らす努力が必要になるでしょう。

月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が50%に上がる

2023年4月より、月60時間以上の時間外労働の割増賃金率が50%に引き上げられました。これまで大企業にのみ適用されており、中小企業への適用は猶予されていましたが、今後は全ての企業において適用されます。

時間外労働の割増賃金率は、深夜労働の割増賃金率と合算して計算されます。そのため、深夜帯(22:00~5:00)に月60時間以上の時間外労働をすると、深夜労働の割増賃金率(25%)と時間外労働の割増賃金率(50%)の合計である75%を基本給に加算して支払わなければなりません。

月60時間以上の時間外労働をしている従業員が多い物流企業は、支払う給与がかなり増えてしまうため、対策が必要になるでしょう。

2024年問題が物流企業・ドライバー・荷主・消費者に与える影響

2024年問題は、物流企業やドライバーだけでなく、荷主や消費者にも影響を与えます。

<2024年問題が各方面に与える影響>
・【物流企業】売上・利益が減少し、勤怠管理の徹底が求められる
・【ドライバー】労働環境は改善されるが収入が減少する
・【荷主】運賃が増加し、消費者への配達速度が低下する
・【消費者】送料の負担が増加し、迅速な配達が受けられなくなる

ここからは、2024年問題がなぜ消費者にまで影響を及ぼすのかを解説します。

【物流企業】売上・利益が減少し、勤怠管理の徹底が求められる

2023年4月には月60時間以上の時間外労働に対して支払う給与が多くなり、2024年4月には時間外労働の上限が設定されます。企業からすると、雇用している社員一人当たりの労働量が減り、条件によってはこれまでより高い給与を支払わなければならないため、売上や利益の減少は避けられないでしょう。

2024年問題は、従業員の働き方改革の一環で行われることにより引き起こされる問題のため、企業が経済面でプラスになる面はほぼありません。特に、月60時間以上の時間外労働が常態化している企業は、対策を打たなければかなりの痛手となるでしょう。

また、月60時間を超える残業に対して50%の割増賃金を支払わなければならないため、勤怠管理を徹底しなければ、本来支払わなくても済んだ給与を支払う必要が出てきます。

図のように、一部に労働量が集中した場合、企業全体で同じ労働力を使ったとしても給与を多く支払わなくてはなりません。加えて、年960時間以上の時間外労働をさせてしまうと罰則(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)が科されるため、これまで以上に勤怠管理を徹底する必要があります。

【ドライバー】労働環境は改善されるが収入が減少する

2024年4月に自動車運転業務の時間外労働が年960時間に制限されるため、これまで長時間労働をしていたドライバーの労働環境は改善されます。将来的には一般則(年360時間以内の時間外労働)の適用が目標となっているため、今後もドライバーの労働環境は改善されていくと予想されます。

全日本トラック業界「トラック運送業界の2024年問題について」
(出典=全日本トラック業界「トラック運送業界の2024年問題につい」)

しかし、トラックドライバーの年間所得額は、全産業平均と比較して低い傾向にあります。そのため、労働環境が改善されて労働時間が減ってしまうと、さらに給与が低くなり、生活が苦しくなるドライバーが出てくる可能性があります。

基本給が上がらない限り、給与はさらに低くなる可能性が高いです。給与面が改善されなければ、転職や離職などを選択する方が増え、全職業の2倍近くある求人倍率がさらに悪化するでしょう。

【荷主】運賃が増加し、消費者への配達速度が低下する

月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が上がるため、時間外労働の多い物流企業は従業員に支払う賃金が高くなります。それに伴い、荷主が物流企業に支払う運賃も高くなるでしょう。

2021年に行われた調査では、物流企業全体で見ると27.1%、長距離運送業界に限ると48.1%もの企業が、月80時間相当の時間外労働をしているドライバーを抱えています。月60時間以上の時間外労働をしているドライバーが在籍している企業はさらに多いと考えられるため、運賃の上昇は必須と言えるでしょう。

また、時間外の労働時間が年960時間に制限されるため、運べる荷物の数が少なくなります。これまでドライバーの時間外労働によって配達できていた荷物が届けられなくなるため、消費者への配達が遅くなる可能性が高いです。

さらに、ネットショップや通販などの物販系EC市場規模は拡大しているため、今後も運送業界の需要は拡大していくと予想されます。その中で届けられる荷物が少なくなれば、消費者への迅速な配達は、より難しくなっていくでしょう。

【消費者】送料の負担が増加し、迅速な配達が受けられなくなる

月60時間以上の時間外労働の割増賃金率が上がりドライバーの給与が増加すると、物流企業や、依頼主である荷主の経済的な負担が増加します。それと同様に、配達の依頼主である消費者の負担も増加する可能性が高いです。現在は送料無料の運送サービスが多く見られますが、今後はほとんどの商品に送料がかかるかもしれません。

また、2024年4月以降はドライバーの時間外労働が年960時間に制限されるため、物流企業が配達できる荷物は減るでしょう。物販系EC市場規模が拡大している中、届けられる荷物の量が減るため、即日配達などの迅速な配達サービスは今後受けられなくなるかもしれません。

このように、2024年問題に関わる法規制は、ドライバーや物流企業だけにとどまらず、最終的には消費者の負担増加にまで影響すると考えられます。

2024年問題で物流業界が直面する3つの課題

2024年問題に関わる法改正はドライバーの労働環境を改善しますが、その負担を直接負う物流業界は苦しい状況に立たされることが考えられます。本章では、物流業界が2024年問題に関わる法改正で直面する3つの課題を解説します。

<2024年問題で物流業界が解決すべき課題>
・ドライバーの労働環境改善
・物流業界の人手不足
・増加している需要への対応

ドライバーの労働環境改善

トラックドライバーの平均給与は、全産業よりも5~12%ほど低いです。その状況下で時間外労働が規制されると、労働環境は改善される分給与が減り、生活が苦しくなる方が増える可能性があります。そのため、労働時間の削減に加え、基本給を上げる必要もあるでしょう。

また、トラックドライバーが属する貨物自動車運転者は、求人倍率が高く人手が足りていない状況です。時間外労働が制限される2024年以降も、給料や福利厚生などの労働環境が改善されなければ、さらに年収が下がり「稼げない職業」というイメージが定着してしまいます。

稼げないイメージがついてしまうと、人手不足がさらに深刻化し、物流が鈍化する可能性があります。物流業界が発展するためには、長時間労働や給与の低さを改善し、女性や高齢者でも働きやすい環境にする必要があるでしょう。

物流業界の人手不足

2024年問題に関わる法改正により、労働環境が半強制的に改善されるため、これまでより物流業界で働くハードルは下がるでしょう。しかし、すぐに人手不足が解消するとは限りません。2024年の法改正が施行されてから人手を確保できるまでの間は、労働力が不足する可能性が高いです。

特に、長距離ドライバーの労働力不足は深刻になると予想されます。2024年4月から時間外労働は960時間に制限されますが、48.1%の長距離運送業者が960時間以上の時間外労働をしているドライバーを抱えています。

一人当たりの労働量が制限されるため、労働力を確保するには新たに人を雇うしかありません。物流業界は、待遇の強化や労働環境を改善することで、人材不足を解消していく必要がありそうです。

増加している需要への対応

物流業界の顧客である物販系EC市場は拡大傾向にあり、2021年までの8年間で市場規模が約2.2倍にまで成長しています。新型コロナウイルス拡大防止のための外出規制がEC業界を急拡大させ、ネットショッピングが一般的になりました。その流れもあり、今後もEC業界の需要は拡大すると見込まれています。

しかし、ドライバーの運転手は不足すると予測されています。株式会社 NX総合研究所の試算によると、営業用トラック運転者の需要は拡大すると予測されていますが、供給量(トラック運転手)の数は減少するとされており、2030年には約21万人の人手不足が発生すると算出されています。

株式会社 NX総合研究所「物流の2024年問題」の影響について(2)」
(出典=株式会社 NX総合研究所「物流の2024年問題」の影響について(2)」)

少子高齢化や人口減少は高確率で避けられないため、今後の人材確保はさらに難しくなると予測されます。どのように人材確保をするかが、拡大する需要へ対応できるかを左右する要因となるでしょう。

物流の2024年問題とは?働き方や給料への影響を解説
(画像=キャプテンフック/stock.adobe.com)

物流の2024年問題への対策案

人材確保が困難である物流業界において、どのような策が2024年問題に効果的なのでしょうか。ここでは、2024年問題への対策案を3つ解説します。

<2024年問題への対策案>
DX化を進めて生産性を向上する
労働環境を改善して人手を確保する
荷主や消費者から「標準的な運賃」への理解を得る

DX化を進めて生産性を向上する

物流業界でもDX化を進めることで、ドライバーや作業員の負担を減らし、業務を効率化できます。物流業界はDX化が遅れている業界ですが、既に導入している企業はIT技術を自社に落とし込んで有効活用しています。ここでは、3つの例を紹介します。

<DXとは>
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

(引用:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」)

1つ目は、GPS装着による業務効率化です。GPSから収集したデータを活用することで、位置情報取得はもちろん、業務効率化も図れます。GPSは導入していても活かしきれていない企業が多いのではないでしょうか。

<GPSの業務効率化方法>
・配送計画の実績や遅れをダッシュボードで可視化
・着荷の自動判定・待機実績の可視化
・日報の自動生成
・蓄積データによる最適ルートの探索

2つ目は、AIによる自動配車クラウドシステムです。その日の配達場所に応じて配達ルートをAIが数十万通りシミュレーションし、最も配達効率の良いルートを瞬時に導き出してくれます。ドライバーがルートを考える手間を省けたり、土地勘のない地域でもスムーズに配達できます。

3つ目は、紙帳票読み取りツールです。手書きの帳票をAIが高精度かつ瞬時に読み取り、打ち込み作業にかかる時間を削減できます。文字読み取り機能は、帳票以外にも請求書や点検記録の読み取りにも応用できます。

この他にも、事務作業の労力を低減できる自動予約管理システムや、力仕事をサポートする荷下ろしシステムなどがあります。オーダーメイドシステムを利用すれば、各社の悩みに応じた機能を利用できるため、うまく活用すれば一度に複数の課題を解決することができるかもしれません。

労働環境を改善して人手を確保する

自動車運転業務に時間外労働の上限規制が適用されることにより、一人当たりの労働時間が制限されるため、労働力を確保するためには新たな人手を確保する必要があります。そのためには、労働環境を改善して魅力的な職場にする必要があるでしょう。

特に、時間外労働が多い傾向にある長距離運送を行っている企業は、早急な対策が必要です。労働環境を整備することは、勤続年数の増加や新規雇用に繋がるため、結果的には企業の経済面にも良い影響を与えてくれるかもしれません。

荷主や消費者から「標準的な運賃」への理解を得る

ドライバーの賃金上昇に伴う負担は、物流企業だけでなく荷主や消費者も負うこととなるでしょう。そのためには、「標準的な賃金」への理解が必要です。

<標準的な運賃とは>
トラックドライバーの労働条件を改善しドライバー不足の解消を図り、安定した輸送力を確保するため、法令を遵守して持続的に事業を行う上で参考となる運賃を示したもの

(引用:愛知県トラック協会「標準的な運賃について」)

現在は送料無料サービスなどが多く見られますが、配達コストはもちろんかかっており、ドライバーや物流企業、荷主のいずれかが負担しています。今後は、ドライバーの給料上昇に伴い配達コストが上昇するため、消費者もこれまで以上の送料を支払わなければならないでしょう。

そのためには、標準的な運賃への理解が必要です。配達というサービスに対しては送料という対価が必要ということを物流企業や荷主が協力して消費者に伝え、適切な料金を受け取れる体制にしていく必要があります。

まとめ|2024年問題は物流業界全体で改善すべき問題

2024年問題に関する法改正で、物流企業がドライバーに支払う給与は高確率で増加します。その負担を補うためには、荷主や消費者への理解が不可欠です。

物流企業は営利企業ですので、価格競争が起こることは仕方がありません。しかし、標準的な運賃を確保し、ドライバーに適切な給与を支払った上で競争しなければ、人材確保ができなくなり、物流業界全体が苦しい思いをすることになります。

2024年問題に関わる法改正が、ドライバーにとっても物流企業にとっても良いものとなるよう、物流業界全体で協力していければ良いですね。