本記事は、小田全宏氏の著書『頭がいい人の脳の使い方』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

メンタルヘルス
(画像=SewcreamStudio / stock.adobe.com)

制御が難しいからこそ、起きたあとが大事になる「怒り」のマネジメント

人は「怒り」によって発奮し、行動エネルギーが湧くこともあります。

ですから、一概に「怒り」がすべてダメだというわけではありません。

むしろ、「怒り」はやる気の源にもなるため、まったくなくなってしまうと、その反動で「やる気」もなくなってしまうことがあるからです。

それだけ、「怒り」のパワーは強力だということです。

しかし、そうは言っても人生の中で怒りの感情は少ないに越したことはありません。

「怒り」は「自分の意志に反する事態が発生することによって、自分の価値が貶められた」と感じた時に引き起こされる感情です。そのため、自分では抑えられなくなってしまいます。

イライラしたり、怒りで体が震えたりという状況において、脳が正常に機能して、よい結果が生まれることはまずありません。

「怒り」の制御は必要です。アプローチの仕方は次の4つです。

1. 人は自分の思うように自分を扱ってくれるものではないことを理解する

「怒り」は、心理学的に分析すると「自尊心の低下」によってもたらされます。「本来、自分が他者から扱ってほしいと考えているレベルを下回った時に起こる感情」です。

たとえば、タンスの角に足の小指をぶつけたら、とても痛い思いをしますが、自分の不注意だけに、自分に対してイライラしても、タンスに怒りをぶつける人はそうはいないでしょう。自分の足をタンスにぶつけても、自己存在の価値が低下したようには感じないからです。

では、誰かに足を踏まれたとしたら、どうでしょう? さらに、相手が謝罪すらしなかったとしたら、思わず、相手に対して怒りをぶつけるのではないでしょうか。

怒りやイライラが発生した時には、「人は、自分の思う通りには動かないのが当たり前」と3回口に出して、自分に言い聞かせることです。耳から自分の言葉を聞くことで脳が冷静さを取り戻し、怒りのレベルが下がります。

2. 心を客観視して、自分がどれだけ怒っているのかを把握する

「怒り」で心や頭がいっぱいの時こそ、自分がどれだけ怒っているのか、客観的に意識します。

「君は、○○のことで腹を立てているんだね。大丈夫だよ」と自分に静かに語りかけるのです。

たとえば車を運転している時に、横から割り込まれると、ついイラッとしてしまいます。その時は、「君は今、車に割り込まれてイラッとしたね。大丈夫だよ」と声に出して言うのです。さらに、その時感じている怒りの感情を、あるがままに受け止めます。そうすると、怒りのレベルが一瞬にして下がります。

「怒り」は、細かな感情が次々に連鎖して大きくなっていくという特性があります。

はじめは些細なことで怒っていただけのはずなのに、「あの時もそうだった」などと、どんどん怒りが増した経験はありませんか?

これが、怒りの連鎖です。

しかし、怒りの第一感情(最初に感じた怒り)は、ほんの6秒しか持ちません。この6秒の間に「自分の存在を客観的にみる」作業をすることで鎮火すれば、怒りの広がりを抑えられるというわけです。

もちろん、この方法で100%の怒りが消え去ることはないかもしれません。2、3回試してみて、怒りのレベルが下がったらしめたものです。それを習慣にしていくと、上手に怒りをマネジメントできるようになります。

3. 2、3回、大きく深呼吸をしてクールダウンする

人が怒りの感情を発する時、脳内ではアドレナリンが激しく分泌され、興奮して冷静ではいられなくなってしまいます。

言い換えると、この第一感情に襲われる6秒間さえやり過ごすことができれば、冷静さを取り戻せるということです。ちょうど、2、3回深呼吸をすると6秒くらいになります。

ゆっくり大きく深呼吸を繰り返していくうちに、まず、体のこわばりや怒りで震えていた状態が落ち着き、頭も心もクールダウン状態になります。

自分の呼吸に集中することで意識を平静に戻すのです。

4. 人が自分の思うように動いてくれないことを受け止める

「怒り」は、些細なことでも起きてしまいます。これは、自分でもどうしようもないことです。

ただし、自分の力の及ばないものに対して「怒りを持つことは無意味」です。

1でもお伝えした通り、人は自分の思うようには動いてくれないものだからです。「これはこれ」と受け入れることが必要です。

以前、「職場で隣の席に座っている女性が、いつも仕事をサボっていて、その姿を見るとイライラしてしまい、仕事に集中できません。どうしたらよいでしょうか?」と受講生の女性が質問してきました。

そこで私は、「本人に言うか、上司の人に注意してもらってはいかがですか?」とお答えしたのですが、「誰も真面目に取り合ってくれないのです」とのこと。

となると、彼女がとれる行動は2つしかありません。

1つは、これまで通り毎日イライラしながら何年も仕事をし続ける。もう1つは、「彼女はそういうものなのだ。私にはどうしようもないことだ」と一切気にしないと決め、自分の仕事を楽しくやることに集中する。

その旨を伝えると、彼女はハッとした様子で「そうですよね。隣の『サボり女性』は気にしません!」と宣言。早速翌日から実践したところ、イライラから解放されたそうです。

「自分の力で変えられないものは、それを受け入れる勇気を持つ」というのは、「ゲシュタルトの祈り(ゲシュタルト療法(セラピー)」の一部です。怒りだけでなく、様々なシーンで使えますので、活用してください。

以上の4つが、基本的な怒りのマネジメント方法になります。

「頭がいい人の脳の使い方」より引用
(画像=「頭がいい人の脳の使い方」より引用)

活用することで、きっとあなたの怒りのエネルギーは形を変え、目の前にあるものに意識が集中し、脳の動きも効率的になるはずです。

怒りのエネルギーによってある一定の成果が生まれることもないとは言えません。

しかし1つだけ確実なことは、誰かに対する怒りのエネルギーを自分のやる気の源泉にしていた場合には、どんなによい結果が生まれたとしても、最終的にはそこでは真の心の満足は得られません。そのことは、知っておいてください。

その意味で怒りのマネジメントは非常に重要なのです。

頭がいい人の脳の使い方
小田全宏
一般社団法人アクティブ・ブレイン協会会長。(株)ルネッサンス・ユニバーシティ代表取締役。1958年滋賀県彦根市生まれ。東京大学法学部卒業後、(財)松下政経塾に入塾。経営の神様、松下幸之助翁の薫陶を受け、人間学を研究。1986年より人間教育の研究所を立ち上げる。1991年(株)ルネッサンス・ユニバーシティを設立し、陽転思考を基本理念とした講演・研修活動を展開。2003年より画期的な能力開発の手法である「アクティブ・ブレイン・プログラム」を創始。また認定NPO法人「富士山を世界遺産にする国民会議(現在の「富士山世界遺産国民会議」)」を2005年に立ち上げ、運営委員長として2013年の世界遺産登録に尽力する。2019年より一般社団法人「ジャパン・スピリット協会」を創立し、日本の素晴らしい心を世界に発信する活動を開始。その他いくつものNPO法人を運営し、社会起業家としての活動を展開している。

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