本記事は、電通若者研究部 ワカモン氏の著書『フラット・マネジメント 「心地いいチーム」をつくるリーダーの7つの思考』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。
「押しつける」でも「すり寄る」でもなく、「すり合わせる」。
上司という立場にいるあなたには、何年もかけて積み重ねてきた経験があり、若者には及ばない知恵や技能があることは紛れもない事実でしょう。しかし、それを部下に一方的に押しつけてしまうと、自身の知らないところで「老害」として認定されてしまう危険性があります。
「自分はまだ老害と呼ばれる年齢じゃない」と思った人もいるかもしれません。しかし、老害となってしまう人は必ずしも年長者だけとは限りません。「思考の硬化」によって知らず知らずのうちに形成された固定観念、つまりは「偏見」や「先入観」「ステレオタイプ」といったバイアスを一方的に押しつけることによって、部下からまったく信頼されずに疎まれる人、これこそが「老害」と呼ばれてしまう人なのです。
あからさまに強い言葉づかいで押しつけなくても、けっきょくのところ「いいからやれ」「文句を言わずに黙ってやれ」といった意識が透けて見え、合理的な説明が一切なく、一方的な押しつけで部下に仕事をさせようとする上司も同様です。こうした上司は、たとえ年齢的にはまだ若かったとしても、すでに「老害」や「老害予備軍」である可能性が高いので注意が必要です。
上司の指示なのだから部下はつべこべ言わずに聞くべきだと思う人もいると思いますが、上司と部下の関係は、あくまで組織運営における指揮命令系統の話であって役割が違うだけの話です。指揮命令をする立場だからといって、態度が偉そうになってもよいというわけでは決してありません。そうした勘違いをしている上司がいたら、間違いなく部下から陰で老害認定されていることでしょう。
しかし、年長者の経験にもとづいた知恵や技能を伝達してもらうことによって得られることもたくさんあるはずで、それこそが上司の役割であるともいえます。そもそも、経験値のある上司からの合理的なアドバイスを欲している部下は多いという調査結果もあります。ただし、部下から問いかけられた場合でさえも、回答の態度によっては「押しつけ」と捉えられてしまう危険性があるので注意してください。自分のやり方や考え方が絶対的な正解だと思って一方的に押しつけてしまわないように意識しながら、部下の選択肢を増やしてあげる感覚で伝えることが大切です。そうすれば、自分の預かり知らないところで「老害」と揶揄されることなく、部下からの信頼も得ることができるでしょう。
誤解してはいけないのは、決して部下や後輩の価値観に「すり寄る」のがよいというわけではないということです。近年では、上司が部下にどう接してよいかわからず、とりあえず褒めておこうといった表層的なコミュニケーションを取ってしまうケースも多く見られます。とくに最近は「Z世代」という言葉だけを覚えて、「すごい!すごい!」と、とりあえず褒めるといった傾向があるのも事実です。これは本当にすごいと思っているわけではなく、「否定してはいけない」といわれすぎている結果であって、世の中の流れの反動とさえいえるでしょう。
典型的なNGパターンとしてよくあるのは「さすがZ世代だね!」といった褒め方です。これでは素晴らしい理由が「Z世代だから」というその年代の人だったら誰にも当てはまる理由になってしまっていて、部下自身の素晴らしい点を何も指摘できていません。そうではなく、その部下ならではの具体的な「性格」や「行動」、「成長」や「変化」をピックアップして褒めてあげることが重要です。そのときは大げさにもち上げすぎることなく、冷静に伝えてあげましょう。
インターネットやSNSの普及によって情報収集が容易になり、多様な視点や考え方を知ることができるようになったZ世代は、コロナ禍で自分にとって本当に価値のあるものを見極めて選択していく「本質回帰」が加速したこともあって、あらゆる「理不尽さ」に敏感です[図03]。
一方的な「押しつけ」も、根拠に乏しい「賞賛」も、彼らにとってはどちらも理不尽であり、それでは若い世代の部下には受け入れてもらえず、信頼を獲得することもできません。
上司の価値観を押しつけるのでもなく、部下にすり寄るのでもなく、大切なのは、お互いの価値観の「違い」を認識して「すり合わせる」ことです。
たとえば、上司には「仕事を最優先にするのが当たり前である」という価値観があったとします。でも部下にとっては「プライベートの時間がいちばん大事である」ことはよくあります。まずこの「違い」を正確に認識することです。そうすれば「仕事を最優先にすべきであるという価値観を押しつける」のではなく、「部下のプライベートの時間を充実させるために生産性を上げて仕事をしてもらう方法を考える」といった考え方ができるようになるでしょう。
普段の会話や1on1などの対話のなかから部下の価値観を見つけ出し、その価値観を尊重したうえで、あなたの価値観で譲れない部分を残して指示を出していくのが「すり合わせる」という姿勢になります。
まとめ
- 「老害」は必ずしも年長者とは限らない
- 自分のやり方や考え方が絶対的な正解ではない
- 部下の選択肢を広げるという視点をもつ
- 思考停止で「すり寄る」のではなく、まずは部下に興味関心をもつ
リスペクトを忘れない。
お互いの価値観を「すり合わせる」姿勢で部下と向き合う。そのためには、上下ではない「対等な水平目線(部下を見下ろさない目線)」で接することが大切であり、また彼らに対する「リスペクト」の気持ちを忘れてはいけません。
「部下」という言葉を辞書で調べてみると、「ある人の下に属し、その人の命令を受けて行動する人」だと定義されています。しかし、その定義のとおりに、あなたの「下」にいるだけの人だと捉えてしまっては絶対にうまくいきません。上司と部下の関係はあくまで組織運営における指揮命令系統の話であり、役割が違うだけです。決してあなた個人が偉い人になったわけではないのです。
また、「リスペクト」の気持ちをもつことは、ハラスメント防止にも有効です。Netflixの制作現場では、撮影前に作品に関わるキャストとスタッフ全員が参加する「リスペクト・トレーニング」を行っているそうです(*1) 。これは対話型のトレーニングで、互いの「尊敬・尊重し合う気持ち」をチームの共通認識としてもつことを目的に導入されています。
*1:リスペクト・トレーニング/ピースマインド株式会社(https://www.peacemind.co.jp/service/training/respect_training)
たとえば、「ハラスメント」と断定できないようなケースを例に、「それは相手にリスペクトをもって接していることになるのか」といったテーマをチーム全員で議論します。このトレーニングでは、具体的にこの発言はOK、この言葉はNGといったルールを学ぶことがゴールではなく、「相手に敬意をもって尊重するということはどいうことか」を、つねに全員が意識することによって「リスペクト」の力を養うことが重要になります。
また、近年、年功序列や終身雇用を前提とした「メンバーシップ型」雇用ではなく、職務内容を明確にして専門性を重視する「ジョブ型」雇用が注目されてきています[図04]。
「ジョブ型」では、業務遂行において過度な上下関係は必要とされず、個々人のスキルがいかに発揮されるかが重要になってきます。欧米では「ジョブ型」が主流なのに対し、日本では「メンバーシップ型」の企業が多いのが現状ですが、こうした選択肢が普及していくことで、古い上下関係はどんどん崩壊していくことでしょう。
こうした変化のなか、いつまでも従来の上下関係に固執していてはいけません。そこからいち早く脱却するためには、部下のことを上も下もないフラットな関係にある「チームメンバー」であると捉えることが重要です。
それだけでも「対等な水平目線」で接しやすくなり、彼らと「向き合う」姿勢が変わります。
多くの上司と部下は上下の関係から脱却できず、上司は部下を見下ろし、部下は上司を見上げる関係性になりがちです。一見すると目線は合っているように見えるかもしれませんが、それでは決して対等にはならず、ちゃんと向き合えているとはいえません[図05]。
部下に敬意をもってしっかりと尊重し、「対等な水平目線」で接することによって、はじめて本当の意味で「向き合う」ことができるのです。いま一度、あなたは本当の意味で部下と向き合えているのか、考えてみるとよいでしょう。
互いの価値観にズレがあることを認識してバイアスを“意識的に”取り除き、「対等な水平目線」で部下をリスペクトしながら、お互いの価値観をすり合わせる。
心地いいチームづくりのための「フラット・マネジメント」は、まずここ から始まります。
まとめ
- 立場に囚われず、相手をリスペクトする
- 上下に囚われず、一緒に働く「チームメンバー」と捉える