本記事は、電通若者研究部 ワカモン氏の著書『フラット・マネジメント 「心地いいチーム」をつくるリーダーの7つの思考』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。

「伝える」だけでは「伝わらない」。

伝える
(画像=ant / stock.adobe.com)

「伝える」と「伝わる」は別物だと認識する。

「伝える」と「伝わる」は別物だ。と聞いて、あなたはピンとくるでしょうか。「伝える」とはまさしく、伝える主体(この場面ではあなた自身)が、相手に対して何かを発信する行動を指しています。一方で「伝わる」というのは、自身が発信した情報が相手に受け取られ、理解される状態を指しています。「伝えた」ことが、相手に「伝わる」というのは当たり前に感じるかもしれませんが、事はそうかんたんではありません。上司と部下のコミュニケーションに限らず、人間のコミュニケーションの難しいところは、自分が「伝えた」ことが、必ずしも自らの意図や想いどおりに相手に「伝わる」とは限らない、ということが多々起こり得るからです。

しかし、90年代くらいまでの日本企業の職場においては、「上司がいうことは絶対」「会社からいわれたことは(自分の中に多少の違和感や疑問があっても)とにかくやるもの」といった風潮が強かったため、40~50代以上の上司の人で「伝えたことが伝わらない」という実感をもっている人は少ないかもしれません。そういう感覚の上司は、「自分が伝えたことは部下には伝わっている」と思い込みがちですが、実態は「伝わっていないが、とりあえず言われたことを遂行していた」だけなのではないでしょうか。

ですが、いまの若者は「自身が納得できるやる意味=納得解」を重視します。きちんと伝わらず、納得もできないままでは仕事に前向きに取り組むことができないでしょう。「伝えた」ことが部下にしっかりと「伝わる」状況をつくるためには、「伝える」と「伝わる」は必ずしもイコールの関係ではなく別物であると認識することが、コミュニケーションの第一歩だといえます。

たとえるなら、「伝える」というのは、いわば相手に対してボールを投げ込んでいるだけで、そのボールが相手に当たっているだけだったり、後ろに逸らしたりしているかもしれず、きちんとボールをキャッチできていない可能性がある状態です。ちゃんと「伝わる」ためには、相手側にもしっかりとそのボールを受け取ってもらい、それをしっかりと確認する必要があるのです[図01]。

『フラット・マネジメント』より引用
(画像=『フラット・マネジメント』より引用)

では、相手にしっかりと「伝える」ために、具体的にはどうしたらよいのでしょうか。何より重要なのは「どのように話したら相手がわかってくれるか」と、相手のことを想像しながら伝えることです。相手がこちらの意図を受け取れるように自ら工夫する、想像力を働かせるということが、しっかりと「伝える」ためには欠かせない視点となります。

あなたが部下に指示を出したとき、「言ったことが伝わっている気がしないな」と感じることがあるのなら、それはまさに一方的に伝えているだけであって、相手は受け取れてない=伝わっていない、という状況が生まれている可能性が高いのです。そうしたとき、ついつい部下に対して「なぜ俺の指示がわからないんだ」と思ってしまいがちですが、まずは自分自身の伝え方に問題があるのではないか、と考えるようにするとよいでしょう。

まとめ

  • 「伝える」は、一方的にボールを投げつけているだけ
  • 「伝わる」には、相手がボールをキャッチすることが必要
  • 相手にどうしたら伝わるのか、想像力を働かせることが重要
  • 伝わらないのは自分のせい

「伝わる」言葉とタイミングを意識する。

部下が指示どおりに動いてくれないのは、上司であるあなたの伝え方が悪いせいだとしたら、そもそもどのように伝えれば、ちゃんと部下に「伝わる」のでしょうか。それには「言葉の選択」と「タイミング」が重要です。

まず言葉の選択で重要なのは、変えられない過去の事象へのダメ出しではなく、変えられる未来に向けた現在の事象の改善アドバイスになっているかどうかです。また、そのためにも伝えるタイミングが大事になってきます。

たとえば、部下が作業している途中で急に上司が様子見に現れて「なんでここまでしかできてないの?」「もっとこうできたんじゃない?」などと言ったところで、もちろん部下には何も伝わりません。「すみません、たしかに(上司である)〇〇さんのおっしゃるとおりです。ご指摘いただきありがとうございます」といった表面上の謝罪と感謝の言葉を引き出したところでまったくの無意味です。

上司はアドバイスしているつもりでも、部下の本心では「いまさら言ってくるのやめてほしいんだけど……」「言うならもっと早く言ってよ」と思っていることでしょう。このような指摘を「いまさら指摘」といい、過去の変えられない事象へのダメ出しの代表的な例だといえます。変えようのない過去のことなので、部下はただただ責められているだけになってしまい、その場を逃れるためにも謝るほかありません。これではモチベーションは上がらず、本質的な改善にはつながりません。

『フラット・マネジメント』より引用
(画像=『フラット・マネジメント』より引用)

また、指摘するタイミングも重要です。タイミングが遅ければ遅いほど、結果として伝える言葉も過去に向いてしまいがちです。

たとえば、年度始めに計画した目標に関する進捗確認などでも、年度末が近づいてきたタイミングで「なんでできてないの?」「やらないといけないって言ったよね?」と言ったところで、それは「いまさら指摘」でしかなく、部下には何も響かないし、なんの解決にも改善にもつながりません。そもそも、そのタイミングまで部下の状況を把握できていなかったのであれば、それはすべて上司の責任です。

そうならないために、上司は日々、部下に寄り添って伴走する意識が必要です。メインで走るのはあくまでランナーである部下ですが、そのとなりで上司も伴走しながら状況を見守り、部下が困ったときにはいつでも手を差し伸べられるようにしておくことが、伝わるタイミングを逸しない重要なポイントです。

適切なタイミングで「いまさら指摘」にならないように助言する、その際にもうひとつ大切なのが、いつもチームに貢献してくれている部下への感謝の気持ちを忘れないことです。ましてや「怒り」などの負の感情は一切不要です。その感謝の気持ちを最初に少し加えるだけでも、伝わる度合いが変わってきます。

また、助言の際の注意点として、「正解を教えてあげる」というスタンスは絶対にNGで、あくまで「選択肢のひとつを提供してあげる」という意識が大切です。そもそも部下は上司の主観的な正解を押しつけられたくないですし、それがちゃんとした正解だったとしても、指示されたことだけやっていればいいんだという気持ちにさせてしまい、部下が「指示待ち人間」になってしまう危険性もあります。上司には、部下の自律性を保ちながら改善アドバイスをすることが求められているのです。あなたは部下とこんな会話をしたことがないでしょうか?

上司: ○○さん、おつかれさま。さっき共有してくれた資料について少し話せますか。

部下:はい、大丈夫です。どこか気になるところがありますか?

上司: ○○ページのこの部分なんだけど、この資料じゃなくて、○○を入れてください。あと、ここで書いている結論はちょっと違うと思うから、○○に変えてください。

もちろん、時間がないときや明らかに間違えているときは明確に修正を指示することも必要です。しかし、基本的にはこのような指摘の仕方は部下の成長につながらず、指示を受ければよいというスタンスに部下が陥るリスクがあるので気をつけましょう。

たとえば、次のような会話になるとよい助言になっています。

上司: 〇〇さん、おつかれさま。さっき共有してくれた資料について少し話せますか?

部下:はい、大丈夫です。どこか気になるところがありますか?

上司: 〇〇ページのこの部分なんだけど、初見だと少し理解しにくい表現になってるので、もう少し平易な表現に変えてみたり、スライドを2ページに分けてみたりしたらどうだろう? そのへんも踏まえてブラッシュアップをお願いできますか?

部下: アドバイスありがとうございます。自分なりにもう少し考えてみてブラッシュアップしてみます。

部下と伴走しながらタイミングをしっかりと捉え、いまからできる改善アドバイスを心がける。そうすればきっと、部下にちゃんと「伝わる」ことでしょう。

まとめ

  • 「いまさら指摘」はやめる
  • 遅すぎる指摘にならないよう、日々伴走しながら指摘のタイミングを意識する
  • 指摘する=「正解を教える」ではなく選択肢のひとつとして提示する
=『フラット・マネジメント』より引用
電通若者研究部 ワカモン
「若者から未来をデザインする」というビジョンを掲げ、高校生・大学生を中心に10〜20代の若者(=最初に新しくなる人たち)の実態にとことん迫り、半歩先の未来のスタンダードになり得る新しい価値観の兆しをいち早く捉えることを目指したプランニング&クリエーティブユニット。若者と社会の間に立ち、双方とフラットに向き合いながら企業のビジネス創造や日本社会の活性化に向けた活動を推進。

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