本記事は、電通若者研究部 ワカモン氏の著書『フラット・マネジメント 「心地いいチーム」をつくるリーダーの7つの思考』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。

等身大で対話する。

対話
(画像=taka / stock.adobe.com)

「きれいごと」ではなく「本音」を丁寧に伝える。

「うわべコミュニケーション」はメンバーとの関係性を築くのに妨げになるのです。そもそも、なぜこうしたコミュニケーションが生まれてしまうのでしょうか。その原因のひとつが「ハラスメント問題」だといえるでしょう。

昨今では多くの言動が「〇〇ハラ」だといわれ、さらに「ハラスメントだ!」と過剰に主張することにまで「ハラハラ(ハラスメント・ハラスメント)」という名称がついているほどで、コミュニケーションを取る双方にとって扱いの難しい問題となっています[図03]。

『フラット・マネジメント』より引用
(画像=『フラット・マネジメント』より引用)

リーダーからすれば、何かあればすぐにハラスメントだといわれてしまう世の中では、メンバー(とくに新入社員)を腫れ物に触るかのように扱ってしまうのも無理はありません。しかし、ハラスメントを恐れるあまりに嫌われないよう「きれいごと」だけを並べて建前をいう「うわべコミュニケーション」をしていては、いつまで経っても心理的安全性の高い居心地のいいチームをつくることはできません。

「作成を頼んだ資料へのフィードバック」を参考に、「うわべコミュニケーション」にどのような危険が孕んでいるのかを考えてみましょう。

作成を頼んだ資料に修正の指示を入れること自体は、もちろん何ら問題のない行為ですが、より良くなるように修正を指示しても「細かく指摘をされて不愉快な思いをした」とか、言葉を選んで指導をしても「あの発言はパワハラだ」などといわれてしまうかもしれない、そんな不安からお礼だけを伝え、自身で資料の手直しをしたとします。しかし、それを後からそのメンバーが見たら「なぜあのとき何も言ってくれなかったのか」「自分を指導して成長させてくれる気はないのか」と感じてしまうかもしれません。よかれと思って「うわべコミュニケーション」になり、また、保身から自らの考えをちゃんと伝えなかった結果、相手の不信感を買ってしまう危険があるのです。

こうした負のスパライラルから脱却するためには、相手にしっかりと自らの「本音」を伝える必要があります。そのためにはお互いに何でも言い合える関係性が築かれ、「本音」を言える環境が整っていることが前提になります。

そうはいってもどのように本音を伝えればよいのかわからない、という人も多いはずです。コロナ禍のコミュニケーションに関するある調査では、約6割の人が「会話の減少」を実感していると回答しており、チーム内での会話不足を感じている人も少なくありません。そうしたなかでハラスメントにならないよう、メンバーに誤解されないようにあなたの「本音」を届けるためには、意識的に「本音の伝え方」を磨く必要があります。

この「本音の伝え方」を磨くのに有効なのが、「アサーティブ・コミュニケーション」です。アサーティブ・コミュニケーションとは、1950年代にアメリカで開発された心理学療法の一種で、自分と相手の双方を大切にしながら自己表現・自己主張を行う、自他尊重のコミュニケーションのことです(*14)。

*14:『アサーティブ・コミュニケーション』戸田久実 著、日本経済新聞出版、2022年

アサーティブ・コミュニケーションでは、自己表現は次の3つのタイプに大別されています。

  • アグレッシブ(攻撃的な自己表現)……相手よりも自分を優先した自己中心的な自己主張。
  • ノンアサーティブ(非主張的な自己表現)……自分よりも相手を優先した受け身的な自己主張。
  • アサーティブ(主張的な自己表現)……相手と自分の両方を尊重した自己主張。

自分自身の権利や感情を大切にする一方で、相手の権利や感情にも配慮することができるアサーティブな人になるためにはどうすればよいのでしょうか。それを知るためにも、まずは「本音の伝え方」をこの分類に当てはめてタイプ別に整理してみましょう。

● アグレッシブな人の本音の伝え方

「上から目線」「理詰め」「命令的」「一方的」「威圧的」「感情的」「権威的」であり、相手を萎縮させてしまって信頼関係を築くことができません。このタイプにはプレイヤーとしては優秀だった人が多く、悪気がないことが多いので「ナチュラル暴君タイプ」といえます。

また、アグレシッブの人のなかには、直接、攻撃的な自己主張はせずに、大きなため息をつく、舌打ちをする、意図的に目を合わせない、無視をするなど、「無言で察しろ殿様タイプ」も含まれています。こうした人は言葉ではなく不機嫌な態度で本音を伝えようとするため、なぜ不機嫌になっているのかが正確に伝わらず、言わずもがなですがナチュラル暴君タイプ以上に相手との信頼関係を築くことができません。

● ノンアサーティブな人の本音の伝え方

まさに「うわべコミュニケーション」になってしまう人です。相手に率直に自己主張することができない「きれいごと仮面タイプ」のため、ストレスを溜め込みがちで心の底では相手に不満を抱いてしまい、こちらもまた信頼関係を築くことができません。

● アサーティブな人の本音の伝え方

「誠実」「率直」「丁寧」「建設的」「客観的」「具体的」であり、そして「横から目線」な「フラットマネージャータイプ」です。

では、それぞれのタイプのリーダーが実際のビジネスシーンにおいてどういう対応を取るのか、「メンバーに作成を依頼した資料が期日までに提出されなかった」という事例でみてみましょう。

① アグレッシブな「ナチュラル暴君タイプ」

昨日までに資料送れって言ったよね? やる気ある? ちゃんとやれよ。いますぐ送ってくれる?

自分の思いどおりにならなかったことでいきなり感情的になり、ろくに現状把握もせず強い口調で一方的に不躾な本音を伝えてメンバーを追い詰めます。「やる気ある?」といった余計な一言も言ってしまいがちです。メンバーにとって心理的安全性がもっとも低く、居心地が悪いパターンです。

② ノンアサーティブな「きれいごと仮面タイプ」

依頼した資料っていまどんな感じかな? 忙しいなか、対応してくれてありがとう。できているところまででいいから送ってもらえるかな?
(面倒な人だと思われたくないから最悪自分でやっちゃうか……)

率直に自分の本音を伝えることができず、きれいごとを並べて「うわべコミュニケーション」になってしまうことで、本人はストレスが溜まりがちです。最終的に自分でやろうとするあまりキャパオーバーになってイライラが爆発して突発的にアグレッシブになる危険性もあります。

また、とりあえず褒めたり感謝したりしておけばよいだろうという考えが透けて見え、メンバーにも本音で話してないのが伝わってしまうので、そこから不信感が芽生える可能性もあります。

③ アサーティブな「フラットマネージャータイプ」

昨日までにお願いしていた資料がまだ来てないけど、状況はどうなってるかな? もし不明点があってまだできてないのなら、クリアにして今日中に資料作成を終わらせちゃいましょう。あと、期日に間に合わないようであれば事前に一報を入れてほしいので、次回から気をつけてくださいね。こちらもできるだけ事前にアラートするように心がけるので。よろしくです。

感情的にならずに冷静に現状確認・把握を行い、メンバーと一緒になって直面している課題を解決しようとします。また、改善してほしい点については率直かつ具体的に伝えて、メンバーの主体的な改善と成長を促します。本音を伝えているのでストレスも溜まらず、メンバーにとっても心理的安全性が高いうえに成長を実感できるもっとも居心地のよいパターンだといえます。

これらの対応からもわかるように、説明が短かったりコミュニケーションが少なかったりすると良い結果につながりません。かつて阿吽の呼吸で仕事を進めていた優秀なビジネスパーソンほどそうしたコミュニケーションに陥りがちですが、コミュニケーションの機会や会話が減少した現代においては、少し面倒に感じるくらいの丁寧な説明が必要なのです。

また、アサーティブ・コミュニケーションを実践するときのコツとして、YOU(相手)を主語にした「YOU MESSAGE」ではなく、I(私)を主語にした「I MESSAGE」にする方法がよく挙げられます。さきほどの例では、アグレッシブな暴君タイプの解答にある「ちゃんとやって」というのは相手主語ですが、アサーティブなフラットマネージャータイプの解答にある「事前に一報をいれてほしい」というのは自分主語になっています。

「I MESSAGE」で伝えることで、自分の発言に自己責任が伴うようになり、相手を責めるニュアンスも軽減して柔らかい表現になりやすい傾向があります。ぜひ実践してみてください。

ところで、「そもそも自分の本音とは何なのか?」と疑問に感じたことはないでしょうか。じつは、多くの人が日ごろの会話や意識のなかで「本音」を認識することができていません。たとえば、ライバル視している同僚が大きな成果を出したと聞いたとき、あなたが「あんなの大したことないのに!」「別にすごいと思わない」と感じたとします。しかし、その根底にあるのは「嫉妬」であり、心の奥底では「うらやましい」「自分も結果を出して認められたい」と思っているのかもしれません。表面的な言葉の裏にある「本心」と向き合い、自分に嘘のない言葉を見つけ出すための「本音のろ過」を行って、自分自身の本音と向き合うことが大切です[図04]。

『フラット・マネジメント』より引用
(画像=『フラット・マネジメント』より引用)

自分自身の本音を見つけることができたら、それをまた隠してしまうのではなく、「I MESSAGE」を意識しながら、相手と自分の双方を尊重して自己主張をするアサーティブ・コミュニケーションを実践して、あなたの「本音」を丁寧に伝えていく。そうすることで、はじめてメンバーとのフラットな対話ができるのです。

まとめ

  • 自分と相手の双方を大事にした自他尊重のコミュニケーションを目指す
  • 攻撃的もしくは非主張的な自己表現にならないように注意する
  • 「本音」で話すために、自分の本心と向き合うことが大事
=『フラット・マネジメント』より引用
電通若者研究部 ワカモン
「若者から未来をデザインする」というビジョンを掲げ、高校生・大学生を中心に10〜20代の若者(=最初に新しくなる人たち)の実態にとことん迫り、半歩先の未来のスタンダードになり得る新しい価値観の兆しをいち早く捉えることを目指したプランニング&クリエーティブユニット。若者と社会の間に立ち、双方とフラットに向き合いながら企業のビジネス創造や日本社会の活性化に向けた活動を推進。

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