本記事は、電通若者研究部 ワカモン氏の著書『フラット・マネジメント 「心地いいチーム」をつくるリーダーの7つの思考』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。

タイムパフォーマンス(タイパ)志向を理解する。

納得
(画像=beeboys / stock.adobe.com)

コスパよりタイパを意識して接する。

あなたは「タイムパフォーマンス(タイパ)」という言葉をご存知でしょうか。これは「コストパフォーマンス(コスパ)」をもじった言葉で、コスパが投下した費用に対してどれだけのリターンがあるかという「費用対効果」を表すのに対して、タイパは投下した時間に対してどれだけのリターンがあるかという「時間対効果」を表しています。われわれ電通若者研究部 ワカモンでは、数年前からこの概念を提唱してきましたが、最近になって、Z世代の象徴的な価値観としてさまざまなメディアで取り上げられるようになり、2022年12月に三省堂が発表した「今年の新語2022」の大賞にも選ばれるほど一般的な言葉になりました(*8)。

*8:辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2022」/三省堂(https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/shingo/2022/)

若者の「タイパ志向」にもっとも影響しているのが、情報流通量の増大です。インターネットやSNSの普及によって、情報流通量がこの20年で激増(一説には、1日の情報量が江戸時代の数年分に匹敵するという話も!)する一方、人間の情報処理能力には限界があるため、情報消費量はそれほど変化がなく、処理できない情報が増え続けていきます[図01]。

こうした背景から、いまの若者は「情報スルー力」がとても高く、もはや情報は「自ら探しにいくもの」ではなく、「届いたなかから選んで捨てるもの」になっているといえます。

それゆえ、当然1つのコンテンツに使う時間の占有率は低下しており、1日24時間という限られた時間のなかで膨大な量の情報やコンテンツを取捨選択して消費しなくてはならないため、若者の貴重な可処分時間をめぐって、時間の奪い合いが起きています[図02]。

『フラット・マネジメント』より引用
(画像=『フラット・マネジメント』より引用)

こうしたことを背景に、若者の間では「イントロのない音楽」が好まれたり、動画の再生速度を上げて視聴する「倍速視聴」や第三者が要点だけまとめた「切り抜き動画」が流行ったりしています。いまの若者は、いまの上司世代が若かったころよりも多くの情報を浴びて処理をしており、実態として、とても忙しいのです。

『フラット・マネジメント』より引用
(画像=『フラット・マネジメント』より引用)

そんな忙しい若者である部下の時間を拘束するときには注意が必要です。

たとえば、部下を労うために「今日はオレが奢るからメシに行くぞ!」と言って、なかば強制的に誘っている上司を目にしたことはないでしょうか。

これはまさに「奢り」が「驕り」につながってしまっている典型的なNGパターンです。たしかに、奢ってもらえるなら部下にとってはコスパが良い話ではありますが、それだけで彼らが喜ぶと思ったら大きな間違いです。

あなたとの食事は、部下にとってタイパが良いものなのでしょうか?

部下は貴重な時間を割いてあなたと食事に行くことになるので、その時間に見合ったリターンが必要になります。昔は、そのリターンが上司に奢ってもらえるタダメシだったわけですが、若者の時間価値が向上したいまの時代において、そのリターンだけでは釣り合いが取れなくなってきています。貴重な時間を無駄にしてまで、気を遣わないといけない上司とご飯を食べに行き、そこでまた仕事の話や聞きたくもない過去の武勇伝のような話を聞かされるのだとしたら、部下からしたら苦行以外の何物でもありません……。

では、どうしたら部下は上司であるあなたと食事に行ってもよい、さらには行きたいと思ってくれるのでしょうか。大事なのは、「対等な水平目線」を忘れずに、部下の意見を尊重しながら、あなたの話を聞かせるのではなく部下の話に興味関心をもって聴くことです。そして、部下の抱えている悩みや課題意識を引き出すことができれば、信頼関係を築けているといえるでしょう。

部下の話を聴く際に大事な3つのポイント

① 部下の意見を尊重すること……部下の意見を尊重して、頭ごなしに否定しないことが大切です。

② 感謝の意を示すこと……悩みなど仕事中には話しづらい話を打ち明けてくれていることに対して、感謝の意を示すことが大切です。

③ 質問すること……部下が話すことに興味があることを示し、彼らのことをよく理解するためにも質問することが大切です。

リモートワークが増加している昨今、社内コミュニケーションが減って、悩みを共有できずに苦しんでいる若手社員が増えているという問題が、多くの企業で課題となっています。部下との食事は、そうした課題を解決するチャンスでもあります。部下がタイパを気にしているといっても、自分の悩みを解決しようと気にかけてくれている(=費やした時間以上のリターンをくれる)上司であれば話は別です。

「奢ってやるだけありがたいと思え」という古い考え方は捨てて、「部下に対して、食事の時間で与えられるタダメシ以外のリターンは何があるだろうか?」ということを意識したうえで食事に誘うとよいでしょう。

まとめ

  • 費やした時間(タイム)に対して、どれだけの効果(パフォーマンス)があるかが重要
  • 若者にとって、情報は「自ら探しに行くもの」ではなく「届いた中から選んで捨てるもの」
  • 部下との食事では、相手に「自分の話を聞いてもらえる貴重な時間」と感じてもらう
=『フラット・マネジメント』より引用
電通若者研究部 ワカモン
「若者から未来をデザインする」というビジョンを掲げ、高校生・大学生を中心に10〜20代の若者(=最初に新しくなる人たち)の実態にとことん迫り、半歩先の未来のスタンダードになり得る新しい価値観の兆しをいち早く捉えることを目指したプランニング&クリエーティブユニット。若者と社会の間に立ち、双方とフラットに向き合いながら企業のビジネス創造や日本社会の活性化に向けた活動を推進。

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