特集『隠れ優良企業のCEO達 ~事業成功の秘訣~ 』では、各地から日本経済を支える優良企業の経営トップにインタビューを実施。経営者たちは何を思い描いて事業を立ち上げ、ムーブメントを起こしてきたのか、また、どのような未来を思い描いているのだろうか。会社のトップである「オーナー社長」に疑問をぶつけ、企業のルーツと今後の挑戦に迫っていく。

株式会社スマートチェックアウトは、歯科医院領域で決済を中心としたサービスを提供するヘルステック企業だ。本インタビューでは、代表取締役社長である玉井雄介氏に同社の概要や日本経済の展望、今後の事業展開などについて伺った。

(取材・執筆・構成=山崎敦)

株式会社スマートチェックアウト
(画像=株式会社スマートチェックアウト)
玉井 雄介(たまい ゆうすけ)――株式会社スマートチェックアウト 代表取締役社長
1977年生まれ、愛媛県出身。2000年に日商システムに入社したことをきっかけにファイナンス事業に携わる。2005年、保証会社AGIを設立。金融事業における多くのマネジメント業務を経験。カード決済や信販事業などの事業立ち上げにも従事し、金融業におけるさまざまな分野を経験。2017年8月にスマートチェックアウトの代表取締役社長として就任。
株式会社スマートチェックアウト
2013年設立。2020年から歯科医院向けのクレジットカード決済サービス「Pay Light」の提供を開始する。全国1万の歯科医院に導入されている。現在では、スマートフォン上で歯科治療の申し込み、決済が可能な「Pay Light Plus」の普及に注力しており、歯科医院の経営改善ソリューションとして展開している。

目次

  1. 決済サービスを通じて歯科医院領域の健康増進を図る
  2. 顧客から得た知見をもとに歯科医師の抱える課題の解決に挑む
  3. 多様性のある企業作りで、「心の通うビジネス」を実現する

決済サービスを通じて歯科医院領域の健康増進を図る

――株式会社スマートチェックアウト様のカンパニープロフィールと、現在までの事業内容についてお聞かせください。

スマートチェックアウト代表取締役社長・玉井 雄介氏(以下、社名・氏名略):当社は2013年設立ですが私は創業オーナーではなく、2017年に経営のバトンを受け取りました。もともとはオンライン決済の事業を行う会社で、現在もその事業は行っています。私もスマートチェックアウトの代表になる前は、事業としての決済プラットフォームに勤めていました。そんな中で、やはり社会性や公共性、人のためになる事業を会社の中に取り入れることは大切だと気付き、歯科の領域でオンライン決済から自由診療の決済までを行う事業を2017年に始めました。

「保険の効かない自由診療の比較的高額な診療費には分割払いのニーズがあるのではないか」という仮説のもと、診療費の分割払いのサービスをとある信販会社様の代理で始めました。

当時は私を含めて社員が2人しかいなかったため、アポイトメントが取れたら私が直接伺い、加盟店を開拓していました。現在の当社の考え方は「決済を通じて健康増進を図る」というものですが、当時は多くの歯科医師さんや患者さんのお話を聞く機会があり、それが現在の事業における貴重な体験と企業ビジョンの礎になっています。

私は半年間歯科医院を回り、決済サービスを通じて歯科医院に貢献すれば口腔内の健康増進に寄与できるのではないか、それによって大きな疾患や疾病を防ぐことができるのではないかと考え、2018年頃から自社事業のビジョンを確立し始めたところ、さまざまな企業様や金融機関様にご賛同いただけるようになりました。

2020年に業界でも手数料がかなり低い歯科医院向けの決済サービス「Pay Light」をリリースし、おかげさまで現在は1万院にご利用いただいております。ただ、当社はずっと決済という事業を行ってきましたが、やみくもに取引先を増やしたいわけではなく、歯科医院さんとのやり取りの中で見えてきた課題を、私たちの弊社の決済サービスを通じて解決していきたいと考えています。

そして、私たちはPHR(パーソナルヘルスレコード)をいつでもどこでも見られるようなプラットフォームを4年以内に構築し、世に出すことを目指しています。PHRは、例えば病院で書く問診票を病院側が書き写す手間をなくす、他の病院で撮ったレントゲンを参照できるようにするといったことで、診療の無駄を減らすものです。現状は患者さんがご自身の治療履歴を管理するものがなく、歯科医院側でも患者さんの治療履歴を共有して治療方針を立てられるような環境を構築したいと考えています。これが実現すれば、おのずと日本全体のデンタルIQが上がり、口腔内の健康維持や全身の疾患の抑止につながると考えています。現在は決済事業として一定のシェアを持って取り組ませていただいていますが、今後は歯科医院全体のソリューションを提供したいと考えています。

顧客から得た知見をもとに歯科医師の抱える課題の解決に挑む

――スマートチェックアウト様の事業における成功の秘訣は、何でしょうか?

玉井:ここ数年で1万院の取引先が増えましたが、歯科業界においては新参者の当社が短期間でここまで取引先を増やせたのは、明確なビジョンがあったからだと思います。当社が取引先を増やすには単に決済サービスをお勧めするだけではなく、歯科医院向けのカスタマージャーニーに歯科医院の先生たちを乗せなければいけません。その際には単に決済端末をばら撒くのではなく、当社が半年間で得た歯科医院の課題と、当社が目指すべき姿をお取引を通じて営業担当者が先生方にしっかりと伝えていきました。これは強みとしてあったのだと思います。

サービスの強みですが、「Pay Light」に関して言えば圧倒的に手数料が安いというコストダウンソリューションです。これは他社様にはなかなかできないと思っていまして、当社はサービスを通じて社会を変えたい、歯科医院が抱える問題を解決したいという思いで活動していますので、リソースこそ小さいですがコストダウンの優位性という強みによって、ここまで頑張ってこられたのではないかと思います。当然ながらサービスのアップデートは随時行っていきますが、気持ちの部分での強みは常にあったのではないでしょうか。

このような気持ちを全社員に浸透させる必要がありましたが、社員との交流の中で私の思いを伝えていくとそれが伝播していき、同じ思いのメンバーがリファラル採用で10人、15人と増えていきました。今でも、新しいメンバーが入ってくるとすぐに意識の共有を行っています。

昔は所得が高いイメージがあった歯科医さんですが、現状はそうではありません。虫歯も昔に比べて少なくなっている中で、歯科医院が保険診療だけでやっていくのはなかなか難しいと思います。そうなると、どうにかして自由診療を増やさなければなりません。例えば補綴にジルコニアが使われることがありますが、その安全性を説明する際のコミュニケーションでつまずくと、既存の患者さんを粛々と治療するしかなくなります。そういった歯科医院の実情の中で経営を成り立たせるためには、これまでやり方だけではいけません。自由診療を増やす必要がありますし、先生自身のスキルも上げなければなりません。

一方で患者さんは、口腔内のことに詳しいわけではありません。アメリカでは9割の人が1年に1度は歯科医院でメンテナンスを受けますが、日本では1割くらいです。メンテナンスを通じて歯磨きでは取りにくい汚れや歯石を取り、口腔内のコンディションを整えることの大切さを日本の患者さんは知らないのです。それでも、どこかで知れば必要だと思ってもらえるはずなので、もっと啓蒙していくべきだと思います。

蛇足ですが、日本ではなりたい職業ランキングにおける歯科医師の順位は130~140位ですが、アメリカではデンタル関係が上位を占めています。その所得に関しても、アメリカは約3,000万円ですが日本は約500万円です。さらに、労働時間を比較すると日本の歯科医師はアメリカの歯科医師の6倍も働いています。その理由は、日本のデンタルIQが低いからです。デンタルIQをしっかり上げていけば、患者さんは歯に問題がなくてもメンテナンスに通ってくれます。誰のために何をするのかを整理し、業界全体でしっかり考えていかなければ、うまくいくものもいかなくなるでしょう。

――スマートチェックアウト様がパートナー様とともにビジネスを進める上で、特に重視するポイントは何でしょうか。

玉井:当社は「Pay Light」をさらに進化させた「Pay Light Plus」に注力して展開していますが、これらはゆくゆくはSFA・CRMや予約機能など、決済という領域を超えて歯科医院のオペレーションを変えていくと思っています。「Pay Light Plus」はその機能を一部担っていますが、私たちが考える「Pay Light Plus」におけるカスタマージャーニーやカスタマーサクセスは、歯科医院が地域住民にメンテナンス診療をしっかり勧めて、例えば親子3世代にわたってその医院に通ってもらえるような関係を構築することです。暇があれば歯科医院に寄ってもらえるような関係ですね。

ただ、患者さんのデンタルIQを上げることは一朝一夕にはできないので、例えばサブスクのような仕組みを作ってLTVを上げていったり、カスタマーサクセスのような部分を強化したりしなければなりません。ほとんどの歯科医にはその意識がありませんが、患者さんに繰り返し通ってもらうためには、その仕組みを整える必要があります。私は、自由診療を増やして経済的な基盤を作るためのツールとして「Pay Light Plus」を使ってほしいと考えています。

すべての自由診療を推奨しているわけではありませんが、まずは自由診療の割合を高めることが肝要だと考えているので、「Pay Light Plus」を通じて決済のソリューションを図り、患者さんをしっかりリードして自由診療につなげましょうとお伝えしています。私が半年間見てきた中で、歯科医院の先生に足りていなかったコミュニケーション能力を補完するようなサービスだと思っています。

そして、「自由診療が増えて経済的な基盤ができたら、必ずメンテナンスを啓蒙してください」とお伝えしています。この世界観がないと効果が弱まると考えており、先生方に足りなかった部分を当社のサービスによってサポートするという考えで活動しています。

多様性のある企業作りで、「心の通うビジネス」を実現する

――今回のテーマである「隠れ優良企業」は「経営状況や待遇が良い、市場における注目度がまだ高くない、離職率が低い」といった評価を得ている企業を指すとされていますが、成長目覚ましい企業の代表の目線から見て、現在の日本経済が直面している課題は何でしょうか。また、今後の日本経済の動向をどうお考えでしょうか。

玉井:私がよく思うのは、日本とアメリカのような国を比べると、日本にはビジネスを育む場が足りないということです。やはり、多様性を許容する社会になる必要がありますし、ベンチャーのような企業が成長しやすい環境も必要です。ビジネスを育む場が足りない原因は、教育だと思います。

日本はアメリカなどに比べて、クリエイティブな発想を育むという発想が乏しいのではないでしょうか。そのため、日本企業は多様性のある人材をもっと雇用することでカバーしなければなりません。社会や企業が多様性を許容することで良い人材が多く入ってきますし、クリエイティブなことが起こると思います。「普通に大学を卒業した人よりも、大学を途中で辞めて海外でさまざまな経験を積んだ人材のほうが面白い」と評価されるような環境も必要ではないかと思います。

社会が多様化すると、ニーズも多様化します。そういう部分に関して日本はまだまだ疎いと思うので、これまではいなかったような人材をしっかり取り入れていくことが大切だと思います。

――スマートチェックアウト様の今後の目標や、5年後、10年後に目指すべき姿についてお聞かせください。

玉井:当社のビジョンは「コアバリュー、パーパス、大胆な目標」という三要素で形成されていて、4年以内にPHRがいつでもどこでも見られるようなプラットフォームを構築しようとしています。PHRを作ることで救われる命があると考えていますので、これを実現すれば当社のバリューは上がるでしょう。

プロダクトに関しては、「Pay Light Plus」はまだまだ序盤のフェーズですが、積極的にアップデートしていく方針です。年内に大きなアップデートを行う予定で、さらに歯科医院にとって革新的なサービスになると思います。

私たちは決済領域以外でも歯科医院の未来を変えたいと思っていますが、それとは別軸で医院向けの金融ビジネスやリースビジネスも行っています。例えば、歯科医院さんが「新たな機材を入れたいがキャッシュを支払うのは厳しい」という場合、当社がその機材を買い上げて貸し出し、リース料をお支払いいただくといったものです。

歯科医院の開業には1億円くらいかかりますが、その資金を準備するのは簡単ではありませんし、担保がなければ銀行側は融資ができません。私たちはそこにリースビジネスの需要があると考え、ゆくゆくは自社でのサブリースなども視野に入れ、金融ビジネスを拡大していこうと考えています。

――目標に向けて重点的に取り組んでいることと、現在の事業課題をお聞かせください。

玉井:課題は、やはり人材ですね。事業内容をアップデートしていくためには、社員も知識を始め、さまざまなものをアップデートしていかなければなりません。同時に、良い人材も確保する必要があります。良い人材を採用するのは簡単ではありませんが、一生懸命取り組んでいます。

また、私は「心が通うビジネス」をやりたいと考えています。優秀な社員がいる会社さんは、そういった部分も真剣に考えているはずです。お客様の気持ちやニーズを汲み取る場で感性を磨くことで、良い人材が育つと思います。今後はプロダクトの良さはもちろんですが、そこに人の気持ちがあるかどうか、ビジョンあるかどうかは非常に重要だと思います。

――最後に、弊媒体の読者層である投資家や資産家を含めたステークホルダーの皆様へ、メッセージをお願いします。

玉井:近年は「フィンテック」という言葉が浸透してきましたが、当社は「ヘルステック」という領域にいると考えています。今後ヘルステック領域では企業のバリエーションが上がっていくと思いますし、むしろヘルステック領域では日本企業が世界にどんどん出ていくべきだと思います。医療は大きく進歩しており、今後は多くの人が健康を享受する世の中になると思いますが、その時は医療の現場だけでなく当社のようなビジネスも注目されるでしょうし、やれることもたくさんあるのではないでしょうか。

ただ、生かされるだけの人生では面白くありません。医療が発達すれば死亡リスクも低くなるので、どのように人生を全うするのかということも重要になるでしょう。これは多様性というキーワードにもつながる部分だと思いますが、できるだけ多くの経験を積み、その経験に魅力を感じてもらえるような若者に支えられて、健康な身体でやりたいことをやっていたいではないですか。そういったことを、当社のようなヘルステック企業は提唱していかなければならないと思っています。

これからは有形資産ではなく、生き方に価値を感じる時代になると思います。生き方や考え方、経験が資産になっていくのではないでしょうか。私自身もさまざまなことにチャレンジし、生き方に価値を見出していきたいと思います。