『水を「使える水」に変え、スマートウォーターグリッド社会(効率的な水供給を実現する社会)を実現する』 株式会社Waquaの代表取締役社長、柳瀬善史氏はそんな途方もないビジョンを追い求めている。繊維からIT、経営コンサルティングと様々な経験を経て、MBAを取得。その後、スマートウォーターグリッド社会の構築と、それを通じたSDGsの達成を目指し、Waquaを創業した。今回は、彼の経歴、製品開発の背景、そしてWaquaが模索するESG経営の具体像について伺った。

株式会社Waqua
(画像=株式会社Waqua)
柳瀬 善史(やなせ よしふみ)
株式会社Waqua代表取締役社長
柳瀬 善史(やなせ よしふみ)――代表取締役社長 伊藤忠商事株式会社入社後、繊維カンパニーでブランドビジネス、宇宙・情報・マルチメディアカンパニーにてIT関連企業のM&Aを担当。その後アクセンチュアに転職し、経営コンサルティングに携わった。更なる知識を求め、International University of MonacoにてMBAを取得。その後、2012年に新たな挑戦として、現会社である「Waqua」を設立。以来、代表取締役社長として活躍している。
株式会社Waqua
株式会社Waquaの製品である水を循環させる小型装置は、持ち運び可能なサイズと省電力(100V)の性能を生かして、あらゆる現場で活躍している。その機器を繋ぎ、更に既設設備にセンサーを取り付けることでスマートグリッドの構築が可能となり、水の地産地消が実現できる。そうすれば、水を遠くから運搬する必要もなくなり、エネルギー削減と脱炭素につながる。Waquaはこの社会の実現に向けて国内・世界中に水のマイクロインフラの拡充を目指す。

インフラ事業の挑戦と変遷 - 既定を超えた新たな事業展望

-まず、創業から現在に至るまで変遷してきた事業についてお聞きして良いですか?

創業以前、海水を淡水化する装置を小型化する研究を進めている人と縁がありました。まだ技術としては完成していなかったのですが、ピンとくるものがあり、それがこの道を歩むきっかけとなりました。海水淡水化装置は、海水だけでなく、あらゆる種類の水を飲み水に変換できる装置で、この技術が一段と進化することで新しいタイプのインフラが誕生すると考えていました。そこで、マイクロインフラとも言えるこの新しいスタイルのインフラを実現できると確信し、会社設立に至りました。

-当初の製品としては、海水淡水化装置が中心だったということですね。

そうですね、当初は海水淡水化装置が主力商品でした。災害時の水確保や船舶の生活用水確保を重視して開発を進めていたのですが、残念ながら販路はかなり限られていました。なかでも災害時に備えて装置を購入する人は稀でした。そこで、現状の販売状況と難解な事情を直視し、方針の見直しを決断しました。その時に土木工事現場での水需要に気付き、これを新たなビジネスチャンスと捉えて注力し、その結果が現在の事業展開につながっています。 土木現場では「仮設インフラ」と呼ばれるものが多いのですが、その利用期間は数ヶ月から数年と長期化していて、もはや仮設とは名ばかりの状況です。この経験から、私たちがこれまでに蓄積してきたインフラのノウハウを生かし、次の世代への指針として国内外のインフラ市場に広げていきました。 以上が、私たちの事業の変遷と、今後の展望についての説明となります。

水を創造する技術力 - 株式会社Waquaの多様な事業展開-

株式会社Waqua
(画像=海水淡水化装置)

-株式会社Waquaでは、特に技術に着目されているというお話が伺えましたが、それはなぜでしょうか。

水と言うと、多くの人が飲料水を思い浮かべますが、水は飲む以外にも洗う、流す、温める、冷やす、発電するなど、産業の資源として重要な役割を果たしています。しかしながら、水の発揮する多様な機能についての具体的な意識はあまり広まっていないと感じています。このことから、飲料水の供給だけでなく、水の多面的な活用を通じての新たな価値創造が可能だと考えました。

-つまり、株式会社Waquaの事業は飲料水事業だけにとどまらず、幅広い範囲の水に対する取り組みという理解で良いのでしょうか?

はい、そうなります。我々は多様な水、生活用水から産業用水までを対象に事業展開をしています。これにより広範な領域での活用が可能となっています。

-地方都市の山梨県や長野県などから多くの精密機械企業が進出していますが、これは水資源の豊かさが影響しているのでしょうか?また、社会の一部で水が不足している地域はどのように改善できますか?

その認識は間違いないと思います。水資源の豊かな地域では産業が発展しやすく、逆に水が不足している地域では経済活動が難しくなります。我々の事業はそのような課題を改善することも視野に入れています。

水源問題を解決する画期的な技術:株式会社Waquaの強みを探る

-それでは、事業の強みについて教えていただけますか。

我々の事業の強みは、海水や汚れた水など、あらゆる水を真水に変換できる装置を小型化していることです。地球上の水の約98%は海水で、我々が利用できる淡水は僅か0.01%と言われています。残りの約2%は地下水や氷河、流氷といった形で存在し、常に利用できるわけではありません。

我々は0.01%の利用可能な水からさらに使えるようにすることを考えていて、小型かつ手頃な価格で低エネルギーな製品は、市場で活躍できる特性があると考えています。リサイクルは必要ですが、それだけでは水問題の根本的な解決にはなりません。使える水の総量そのものを増やさなければならないと考えています。

独自技術で世界の水問題を解決 - 柳瀬氏 衝撃のインタビュー

-御社の装置はどれくらい普及しているのでしょうか?またどのような装置なのか、その詳細を教えていただけますか?

現在、海外で16カ国に普及しているという実績があります。私たちの装置は、コンパクトでリーズナブルな価格設定により、一部を除く地域まで簡単に持ち運びが可能です。導入先の中にはパプアニューギニアのような地域も含まれています。 通常、海水淡水化装置はエネルギー消費がかなり大きく大規模な発電設備が必要です。しかし、私たちの装置は家庭用100Vコンセントでも使うことができます。供給源としてソーラーパネルも利用可能な非常に低エネルギー型です。これにより、洋上にも設置が可能となり、水のインフラがない地域でも直接私たちの製品を利用することが可能です。

-なるほど、船上やインフラが整っていない地域でも、海水淡水化装置を用いることでシャワーが浴びられたり、水道から水を出せるのですね?

そうです。私たちが提供するこのマイクロインフラを世界中に展開することで、どんな場所でもシャワーを浴びられ、飲み水を得ることが可能となります。具体的には、ソーラーパネルや一般家庭用のコンセントでも使えって頂いている実績があります。

-大きな発電機やガソリンエンジンなどの高出力の装置が必要だった従来に比べ、一般家庭用の電源でも使えるというのは驚きですね。それによって、インフラが整っていない地域でも水の供給が可能となるわけですね。

その通りです。 今「Waqua」というアプリを作っています。我々の機器の状態をリアルタイムでモニタリングすることが可能です。これにより、世界中のマイクロインフラの運用状況を瞬時に把握することが可能となっています。 当社のミッションは「スマートウォーターグリッド社会」の実現です。このグリッドという言葉は電力供給を指す言葉ですが、当社は次世代の水供給にその概念を適用しようと考えています。予想される社会の変化として、大規模なプラントとパイプラインが維持できなくなる一方で、インフラの規模は小さく、分散的になっていくと思われます。その中で、私たちは小型分散型の機器をIoT化し、プラットフォームを通じてそれぞれを結びつけ、効率的な水供給を実現する社会を目指しています。

テックベンチャーと製造業、投資家が目を向けるベンチャー企業の未来について

-社長として現在特に注目している社会的なトピックは何ですか?

二つあります。一つは現在のテックベンチャーの動向です。日本は物作り大国と言われていますが、製造業に資金がぜんぜん回ってこない状態です。 もう一つのトピックは、経済産業省のJ-Startupに当社が選出頂いた影響です。今後、どのようにスタートアップへの支援が進行していくのかを楽しみにしています。

-資金とは具体的にどのようなものを指していますか?

投資家の投資です。多くの投資家がITやSaaS、バイオなどに投資を行っており、製造業には投資が集まりにくい状況にあります。 多くの投資家が有望な事業への投資や社会的意義を掲げていますが、ファイナンシャルリターンを重視し、製造業に対する投資は減少傾向にあります。最近ではテックベンチャーという言葉が流行り、テスラやSpaceXなどの企業も注目を集めています。それらと同じように日本の製造業にも投資が流れてくることを期待しています。

日本の水インフラと未来構想について

-御社の未来構想についてお聞きしたいのですが、3年後から5年後、またはそれ以上の長期視点でのビジョンをお聞かせいただけますか?

先ほども言及した通り、構想としては、スマートウォーターグリッド社会の更なる展開と共に、当社のIoT化した小型分散型機器を使って、世界中にマイクロインフラを広げていくことで、水インフラ分野にも影響を与えていきたいと考えています。

-日本の水インフラについては、表面的には問題がないように見えるかもしれませんね。現状はどうなのでしょうか?

確かに、「日本の水インフラは安定している」と考えている方は多いかもしれません。しかし、人口の半分以上が65歳以上の高齢者で成り立つ限界集落と呼ばれる地域も存在しています。このような集落は増えており、「先進国でありながら人口が減っている」というのが現状です。それと連動して、日本のインフラも劣化しはじめています。例えば、年間に2万件以上の漏水事故が発生しております。 また、皆さんがそれほど意識していない、こうした限界集落の増加やインフラの老朽化問題は、我々にとっては重要な課題となります。

-未来構想を実現するために、特に力を入れて取り組んでいらっしゃることが何かございますか?

我々は最初から施設設置に力を入れてきましたね。既に一部は結果を出しており、仮設だったものが恒久的なものとなるでしょう。本当の意味でのグリッド社会を実現すべく、我々は国内外のインフラ事業を一層強化する必要があります。さらに、データを取得できる形に変換することも重要だと認識しています。

-スマートグリッドがどんどん広がっていくイメージが湧いてきました。本日はありがとうございます。

氏名
柳瀬 善史(やなせ よしふみ)
会社名
株式会社Waqua
役職
代表取締役社長