製造業のDXと深く関わるエンジニアリングチェーンとは
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昨今、製造業DXの観点からエンジニアリングチェーンマネジメントが重要視されています。エンジニアリングチェーンは企業の製品開発力に直結する重要な要素であり、ITの活用による効率化が求められています。本コラムでは、エンジニアリングチェーンとは何かを改めて紹介した上で、エンジニアリングチェーンマネジメントの重要性や実施する方法を解説いたします。

目次

  1. エンジニアリングチェーンとは?
  2. エンジニアリングチェーンマネジメントとは|なぜ重要なのか?
  3. エンジニアリングチェーンの課題と解決案
  4. エンジニアリングチェーンのDXを実現させるポイントと具体例
  5. まとめ|エンジニアリングチェーンマネジメントに取り組む企業様へ

エンジニアリングチェーンとは?

初めに、エンジニアリングチェーンの概要と、エンジニアリングチェーンマネジメント(ECM)とは何かについて解説します。

エンジニアリングチェーンとは

エンジニアリングチェーンは、製造業の設計部門を中心にしたものづくりの流れを指す言葉です。具体的には、企画・開発・生産準備までの一連の業務プロセスのつながりのことを指します。

エンジニアリングチェーン
  • 企画
    市場調査・研究開発・製品企画など
  • 開発
    製品設計・工程設計・設備設計など
  • 生産準備
    設備手配・ライン立ち上げ・品質の作り込みなど

エンジニアリングチェーンをどのようにつなげるかによって、製造業の価値は大きく変わります。企画・開発・生産準備はものづくりにおける上流プロセスであり、調達・製造といったその後のプロセス全てに大きな影響を与えるためです。

エンジニアリングチェーンとサプライチェーン、バリューチェーンとの違い

エンジニアリングチェーン

エンジニアリングチェーンによく似た言葉として、サプライチェーンやバリューチェーンがあります。これらの言葉の違いを覚えておきましょう。

・サプライチェーンとの違い
サプライチェーンは製品が顧客に届くまでの一連の生産・流通プロセスのことで、販売・生産計画・調達・製造・検査・出荷などの業務が含まれます。

サプライチェーンの特徴として、自社だけで完結するものではなく、社外の協力会社なども製品の流れに関わっていることが挙げられます。

エンジニアリングチェーンで決定した製品仕様や製造方法に従って、サプライチェーンが流れることになります。

・バリューチェーンとの違い
製品が顧客に届くまでのすべての活動を価値のつながり(連鎖)として捉える考え方です。製造・物流・販売といった直接的に価値を生み出す「主活動」と、管理・人事労務・技術開発といった間接的に価値を生み出す「支援活動」に分かれます。

ここまで見てきたエンジニアリングチェーン・サプライチェーン・バリューチェーンの関係をまとめると、次の図のようになります。縦軸がエンジニアリングチェーン、横軸がサプライチェーン、両者を含めた全体がバリューチェーンと考えるとイメージがしやすいのではないでしょうか。

エンジニアリングチェーンマネジメントとは|なぜ重要なのか?

エンジニアリングチェーンを最適化する、エンジニアリングチェーンマネジメントについて解説します。

エンジニアリングチェーンマネジメント(ECM:Engineering Chain Management)とは

昨今の製造業では、エンジニアリングチェーンマネジメントが重要視されています。エンジニアリングチェーンマネジメントとは、その名前のとおりエンジニアリングチェーン(製品の開発やプロジェクトの進行)のマネジメント(管理や最適化を図る手法)をいいます。企画・開発・生産準備からなるエンジニアリングチェーンを効率化しつつ、ものづくりのプロセス全体の最適化と製品開発力の向上を目指す取り組みです。

エンジニアリングチェーンマネジメントの目的

エンジニアリングチェーンを正確に管理することで、製造における全体の最適化と開発力向上を実現できます。各工程やタスクをつなぎ合わせることで、作業全体の流れや進捗を管理し、効率的な進行を実現することや、各工程やタスクが明確につながり、情報や意思決定のフローがスムーズになるため、関係者間の意思統一が容易になります。

エンジニアリングチェーンをマネジメントすることにより製品の根幹部分が定まるため、非常に重要です。製品そのものの根本にぶれがあると、その先の製品に関わる全てに悪影響をもたらすリスクが生じます。結果的に、当初見込んでいた利益は得られない可能性もあります。

エンジニアリングチェーンはサプライチェーン(後述)とも密接に関わるため、サプライチェーンをうまく機能させるためにも一元管理が重要となります。最終的には、業務効率化の達成、品質向上、コスト削減なども可能になります。

ただし、エンジニアリングチェーンうまく機能させるには、設計や製造だけでなく多くの部門が関わってくることから、組織間の連携が可能な「横断的な仕組み」を構築することが必須となります。そのためにはデジタルを活用し、情報共有がスムーズに行えるシステムの導入と全体の最適化が重要なポイントとなります。

エンジニアリングチェーンマネジメントのメリットと効果

リソースの最適化とコスト削減

エンジニアリングチェーンマネジメントは、各工程やタスクの依存関係、作業フローを明確にするため、リソースの最適化(必要なリソースの配分やスケジュール管理など)が可能になります。結果、無駄な時間やコストの削減につながります。

プロジェクト全体の可視化

エンジニアリングチェーンの最適化により、プロジェクトの全体像や進捗状況が可視化されます。各工程やタスクの進行状況や課題が把握しやすくなり、管理者や関係者はプロジェクト全体を把握しながら必要な調整や対策を行えます。

高品質な成果物の提供

製品の品質が横方向の情報連携により高まります。この結果、製品の性能や機能に対する信頼性も向上します。

エンジニアリングチェーンマネジメントが重要視される理由

エンジニアリングチェーンマネジメントが重要視されている背景には、製造業を取り巻く事業環境の変化があります。

  • 製品ニーズの多様化に伴って、多品種少量生産が求められている
  • 製品ニーズが短期間で変化するため、開発サイクルが高速化している
  • 安全や環境への配慮が厳しく求められるようになり、要求品質が高まっている
  • グローバルでの競争が激化しており、低コスト化が進んでいる

これらの課題を解決するためには、ものづくりにおける上流プロセスにあたるエンジニアリングチェーンの見直しが不可欠です。実際に「2022年版ものづくり白書」では、製品の品質とコストの8割は設計段階で決まると言われていることや、エンジニアリングチェーンに資源を集中投下する「フロントローディング」によって、問題点の早期発見・品質向上・後工程における手戻りのムダを少なくすることが重要であることも述べられています。

エンジニアリングチェーンの課題と解決案

ここではエンジニアリングチェーンのよくある課題と、それらの課題を解決する方法について解説します。

エンジニアリングチェーンの課題

エンジニアリングチェーンでよくある課題は、情報の管理や共有がうまくいかないというものです。たとえば多くの製造業では、次のようなムダやトラブルが発生しがちです。

  • 過去の設計情報が蓄積・共有されておらず、似たような製品であっても一から設計し直している
  • 設計時に発見した懸念事項が共有されておらず、生産準備の段階で品質不良が発生する
  • 設計変更がリアルタイムに共有できておらず、最新情報を確認する手間や手戻りが発生する
  • エンジニアリングチェーンとサプライチェーンがつながっておらず、調達や製造の観点からムダの多い製品仕様になっている

特に、情報伝達や共有(情報の一元化)がうまくいかない結果のトラブルが懸念されます。これは、設計段階は各技術者のスキルに頼っている=属人的になりがちで、他部門に情報が共有されない傾向があることも一因です。そのため、作業プロセスで出戻りが発生して余計なコストがかかるリスクが存在します。成果物のバージョンが部門間で共有されないがために、タイムラグが発生して手戻りが発生することもあります。

部門間の連携・情報共有の最適化が行われていると、設計と製造で情報共有が十分となり、結果的に成果物にもよい影響を与えられます。

課題の解決とDXの活用

エンジニリングチェーンはより重要になり、製造業では欠かせないプロセスといえるでしょう。製品の付加価値向上には欠かせなくなっています。課題は情報伝達にかかわる部分が大きいため、この点を改善していく必要があります。

これらの課題を解決するためには、ITの活用、そして組織全体のDXを進めることが不可欠です。まずは設計情報のデジタル化に取り組んでデータを一元管理し、役割や部門を跨いでデータを共有できる仕組みを構築するとよいでしょう。

エンジニアリングチェーンのDXを実現させるポイントと具体例

エンジニアリングチェーンにおいて、DX(デジタルトランスフォーメーション)を実現させるポイントと、具体例(3Dモデルの活用)について解説します。

設計諸元および設計成果物のデジタル化が重要

エンジニアリングチェーンにおいて、設計諸元(製品の寸法や重量、仕様や要件など)をデジタル化することは重要です。詳細設計の前段階としての構想設計、さらに構想設計の中で求められる要件を満たす設計諸元を確定させます。

設計諸元をデジタル化すると、デジタルデータの共有や容易なアクセスが可能となり、部門間や関係者間での情報共有が促進されます。また正確な情報の共有と迅速な意思決定を可能にし、プロジェクトの効率性を向上させ、製造プロセス全体の最適化につながります。

同時に、設計成果物(図面、CADデータなど)のデジタル化も重要なポイントです。デジタル化により製品のバージョン管理やデータ共有などが容易になり、リアルタイムの共同作業や変更管理が可能となります。さらにデジタルデータを活用することで、シミュレーションや分析もコストをかけずに進められ、設計品質の向上や効率的な製品開発が実現するでしょう。

デジタル化の具体例|3Dモデルの活用とメリット

IT導入の際、製造業におすすめなのが、「3Dモデルの活用」です。設計情報の3Dモデル化が進めば、設計意図を盛り込んだパラメータを活用して短時間で設計を終えられるようになります。繰り返し行われる設計については、自動化することも可能です。また、3DモデルからBOM(部品表)への展開を行う際にも、パラメータを活用すれば類似品の設計や検索を簡単に行えるようになるため、できるだけ新規設計を行わないようにできます。

3Dモデルを活用するメリットは、設計の効率化だけではありません。たとえば、3Dモデルのシミュレーション機能を活用すれば生産計画や製造方法の最適化に役立ちます。また、3Dモデルから重要寸法値を抽出し、設備のパラメータを自動で設定するといった使い方も可能です。

このように、設計情報を3Dモデル化して役割や部門を跨いで共有することで、エンジニアリングチェーン全体の効率化が実現します。2Dでの設計が中心という企業は、3Dへの切り替えを検討してみるのが良いでしょう。その上で、PDMやPLMといったデータ管理ソリューションの導入を進めていくのがおすすめです。

まとめ|エンジニアリングチェーンマネジメントに取り組む企業様へ

今回は、製造業のDXと深く関わるエンジニアリングチェーンについてご紹介しました。エンジニアリングチェーンを理解し、エンジニアリングチェーンマネジメントに取り組むことで、企業の製品開発力は大きく向上するでしょう。また、サプライチェーンの領域も含めて、ものづくりのプロセス全体の最適化も期待できます。本コラムを参考にしつつ、自社のエンジニアリングチェーンのあり方を見直してみてはいかがでしょうか。