ニュースなどを見ていると、「AIによって〇〇を解析」「AI搭載の〇〇」など毎日のようにAIという言葉が目や耳に入ってきており、特にChatGPTの登場によりその頻度は急速に上がってきています。今や私たちの生活に欠かせない存在となったAI(Artificial Intelligence/人工知能)ですが、「AIがどういった技術なのか深く理解できていない」「AIの進化が自分たちの生活や仕事にどう影響するのか分からない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本コラムでは、AIとはそもそも何なのか、そして機械学習や深層学習がどういった仕組みなのか、を改めて解説いたします。
AIの定義とは?
「AIとは何か?AIの定義は?」という議論はこれまで活発に行われてきました。ここでは、最もイメージしやすいであろう定義をご紹介します。
“AIとは人工的に作られた人間のような知能、ないしはそれを作る技術” ― 東京大学 松尾豊 教授
いかがでしょうか?AI(Artificial Intelligence)がArtificial(人工的な) Intelligence(知能)を意味することは見れば分かりますが、“人間のような知能”という表現がしっくりくるのではないかと思います。
松尾教授は、“人間のように知的であるとは、「気づくことのできる」コンピュータ、つまり、データの中から特徴量を形成し現象をモデル化することのできるコンピュータという意味である”とまとめています。(引用元:松尾豊「人工知能は人間を超えるか」)
コンピュータが計算をただ早く行うだけでなく、人間のように「気づくことができる」知能を持つこと、これが人工知能だと定義されているのです。
機械学習とは?
AIとともによく聞く言葉に、「機械学習」があります。この機械学習とはどのようなものでしょうか?
“人間のような知能”を実現するためには、まずは人間がどのように知能を獲得しているかを考えなくてはなりません。結論としては、人間は経験から学習することで知能を獲得します。数多くの経験を積むことで「Aという行動をするとBという結果につながる」といった知能を獲得しているのです。
では、コンピュータに色々な経験をさせるためにはどうすれば良いのでしょうか?その答えは、「経験の代わりに大量のデータを与える」ことです。大量のデータから学習し、その中に潜んでいる一定の法則を見つけることが、機械学習となります。
データから法則を見つける作業を「学習」あるいは「訓練」と呼びます。見つけ出した法則を、未知のデータに適用することにより「予測」をします。
*ここでは法則を表現するアルゴリズム(問題を解くための一連の手続きのこと)を、「予測器」と表現します。
機械学習の目的は、テストデータに対して正しい予測を行うこと
機械学習の精度を高めるためには、おおまかに以下2つのプロセスが必要です。
- 訓練データ:training dataを使ってさまざまな訓練を繰り返す。
*十分に訓練ができたら、訓練を終えるタイミングを決めたり、訓練に使うパラメータ(ハイパーパラメータ)を決めるために検証データ:validation dataを使います。
- 訓練後の予測器で、テストデータを使って精度の評価を行う。
機械学習の目的は、テストデータに対して正しい予測を行うことにあります。ただし、注意が必要なのは「過学習」を起こさないようにすることです。
機械学習を行っていると、訓練データに対する予測精度は高いのに、テストデータに対しては予測精度が低くなることがあります。これは、予測器が訓練データに過度に適応してしまったために起こる現象であり、「過学習」と呼ばれています。過学習を人間にたとえると、暗記した問題は解けるものの、未知の問題になると解けないという状況に似ています。
機械学習の種類
機械学習は、「教師あり学習」・「教師なし学習」・「強化学習」と3つの種類に大きく分ることができます。
教師あり学習
教師あり学習は教師データ(正解となるデータ)を用いて、その問題の正解・不正解を学習させ、そのパターンやルールに則ってアウトプットする手法です。例えば、自転車の画像と「これは自転車です」という教師データを学習させます。基本的に正解が明確にある場合は、教師あり学習が用いられます。教師なし学習
教師なし学習は、教師あり学習と異なり、明確な正解がない状態で学習させる手法になります。例えば、データの構造や関係性を学習し、特定のグループに分類するクラスタリングと呼ばれる手法などが用いられ、ビッグデータから人間には見つけにくい特定の傾向やパターンを見つけ出すことができます。例えば、新製品のターゲット市場を決める際やユーザーの購買傾向などに活用されます。
- 強化学習
強化学習は、エージェント(学習者)と呼ばれるAIが、試行錯誤を繰り返してデータの価値が最大化するように自分自身のアクションを学習する手法です。代表例は囲碁や将棋のAIになります。自らが学習しながら多岐にわたる最善手を導き出すのは強化学習の特徴で、身近な例では掃除ロボットが何度も部屋を掃除することによって効率的なルートを導き出しています。
機械学習の活用分野
機械学習はビジネスにおいて様々なシーンで活用されます。例えば不良品検査は従来、人の目視で確認する場合、検査の速度・精度にバラつきがあります。しかし画像認識の活用によって、検査の速度・精度ともに向上します。また、需要予測では、大量のデータがあっても、人の頭だけでは膨大な時間がかかり、主観的な判断を下してしまうこともあります。しかし、機械学習を用いれば、短時間で、客観的・統計的な予測が出力されます。
深層学習(ディープラーニング)とは?
機械学習と並んでよく聞く言葉に、「深層学習(ディープラーニング)」があります。深層学習がどういったものなのか解説します。
深層学習は、機械学習の一つの手法となります。少し難しい話になりますが、深層学習とは、ニューラルネットワークを用いて学習することです。ニューラルネットワークとは、たくさんのニューロンが結合して作られるネットワークのことです。
従来の機械学習では、特徴量の抽出器や識別器を人間が頭を捻って作り出していましたが、深層学習ではその必要がありません。
深層学習では従来の手法を超える精度を出すことができますが、大量の学習データと潤沢な計算機リソース(GPUは必須)が必要でした。また、内部のロジックがブラックボックス化しているため、結果の理由付けが難しいという課題もありました。hoh
しかし、昨今ではAI向けのGPUでも高性能化・低コスト化が進んでおり、以前に比べると深層学習を活用しやすくなっています。また、AIによる予測の根拠を探る技術も開発されているので、ブラックボックス化も徐々に解消されていくことでしょう。
深層学習の事例と活用分野
世界中の企業が自動車の自動運転の実用化にむけて取り組んでいますが、深層学習が活用されています。自動運転車は時速数十キロで走行するため、センサーが捉える画像はすべて異なります。しかし深層学習では、抽象的な画像データでも自動車の輪郭・色を学習し、解析が可能です。
また、医療業界では、レントゲンなどの画像をAI診断に活用する流れもあります。がんの早期発見などに期待が寄せられています。さらに、部屋の温度・湿度が適切になるように自動で設定するエアコンのようにスマート家電でも活用されています。IoTとディープラーニングの組み合わせた「DoT(Deep Learning of Things)」という概念も生まれています。
機械学習と深層学習の違い
深層学習は機械学習の一種です。そして機械学習と深層学習の大きな違いは、「データの特徴を誰が判断するか」です。機械学習では人間、深層学習ではニューラルネットワークによって判断します。
機械学習では、AIアルゴリズムが不正確な予測をアウトプットした場合、人間が調整を行う必要があります。また、深層学習では機械学習よりも複雑な処理で、高度な分析が可能です。しかし、深層学習では学習のために多くの時間を要し、膨大な量のデータが必要になります。それに対して、機械学習は深層学習よりも少ない時間で、少ないデータ量で処理が可能です。したがって、どちらかに優劣があるわけではなく手段や目的に応じて使い分けると良いでしょう。学習のために用意できる種類が少なかったり、早期の分析が求められたりする場合は機械学習、膨大なデータを用いて高度な分析が求められる場合は深層学習を使うことになります。
製造業におけるAI活用とは
昨今の製造業では、AIの活用が積極的に進められています。人手不足や生産性向上といった課題を抱えている製造業において、AIによる業務の自動化・効率化は大きなメリットがあるためです。
Googleが2021年に7か国で 1,000 人を超える製造業の上級幹部を対象に調査したデータによると、64%の企業が日常業務でAIを使用していると報告しています。また、多くの企業がAIへの依存度が高まっていると報告していることから、AIは製造業にとっても欠かせない存在になっているといえるでしょう。
製造業におけるAI活用には、次のような種類があります。
- 品質検査の自動化
- AIを搭載したロボットによる作業の自動化
- 設備の故障予測・予知保全
- 需要予測
- サプライチェーン管理
- 熟練技術者の技能継承
製造業におけるAI、機械学習、深層学習の事例
ここまででご紹介した機械学習や深層学習を繰り返すことで、AIは“人間のような知能”を獲得します。では、実際にAI・機械学習・深層学習はどのように活用されているのか、いくつかの事例をみていきましょう。
AIを活用した製造業の事例
たとえば、ある金属加工メーカーでは製品の目視検査をAIで自動化しています。従来は6名の検査員で約10日間かけて行っていた目視検査をAIに置き換えることで、約170時間/月の検査時間を削減することができました。また、顕微鏡を見ながらの神経を使った検査から解放されたことで従業員のストレスを軽減でき、空いた時間で人にしかできない改善作業に専念できるようになったといいます。
また、ある化学メーカーではAIによる需要予測に取り組んでいます。これは、ある製品の過去数年間の在庫データや工場の稼働率、販売数量などのデータをもとにAIが学習し、法則を導き出すことで需要予測を行うというものです。従来は担当者の知見や経験にもとづいて需要予測を行っていましたが、近年では市場ニーズが急激に変化しており、予測が難しくなっていました。しかし、AIは膨大なデータから人間が気づかなかった新たな知見を得られるため、高精度な需要予測が可能となり、最適な販売計画・生産計画ができるようになったといいます。
機械学習の活用事例
ある非鉄金属メーカーは、製造業における研究開発の効率化を機械学習により支援するシステムの導入によって、年間600時間の工数削減を実現しています。業務フローの整理や最適モデルの構築をし、最適パラメータの提示が可能となりました。その結果、従来の目視による確認が不要になったため、製造ラインの人的工数を削減できたとのことです。
深層学習の活用事例
ある輸送用機械器具メーカーは、ディープラーニングによって、自動車等に使われる部品の不良品検知を実現しています。判断基準の明文化が難しい外観検査の工程に、ディープラーニングによる画像認識技術を活用しているようです。それだけでなく、開発した検知技術・検査設備の他社への提供も行っています。
まとめ
AIは機械学習や深層学習と密接に関係しており、学べば学ぶほど奥が深い分野です。一朝一夕で理解することは難しいかもしれません。しかし、目まぐるしく状況が変化する予測困難な状況において、AIの力が必要となるシーンがくるでしょう。まずはそのテクノロジーに触れてみることが重要ではないでしょうか。