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相続や事業承継なんて、まだ先の事…となかなかピンとこないけど、漠然と「息子に引き継がせたい」と願っている経営者が、まだまだ多い日本社会。しかし、現実には親の希望通りに同じ道に進んでくれる親族が見つからなかったり、「経営」を考えると、素質が備わっていなかったりと理由は様々ですが、後継者選びはスムーズにいくとは限りません。

企業と家業が密接な経営風土を持つ事が多い中小企業は、大企業とは違った企業特性を持っています。中小企業の事業承継においては、その「特性」が大きな影響を与えるのです。20年前から比べると、M&A(企業への買収・合併)の活用増加により、親族内承継は減少しており、6割ほどになったと言われています。事業継続や、事業の存続をかけた親族内承継が「当たり前」でなくなった現在、選任の注意点に的をしぼって考えていきたいと思います。


後継者と先代社長が一体となった承継

信頼関係を構築し、後継者としての役割を理解し、承継を契機に先代社長と一体となり確信を推進していくタイプ。自ら望んで入社・承継に至るケースです。

【引き継ぎの要件】

①後継者自身のブレーンを造ることを奨励し、人事や労務面での権限委譲を全面的に行う。
②学生の頃から自社の仕事を体験させ、早期に後継者路線を敷く。
③公私混同せず、仕事の取り組み姿勢も社員より厳しい行動を率先して実行する。
④入社後に生産現場はもちろんの事、営業や財務会計、人事労務を経験させる。


後継者の革新タイプ

後継者が先代社長の経営を尊重しつつ、新たな環境変化に対応するべく強い精神面と行動を示し、確信していくタイプ。家業を継ぐ事を前提に、他の会社へ就業させ、自社へ入社させる。他社を体験する事で、比較しやすく、効率・合理的な企業経営につなげやすくなる。

【引き継ぎ要件】

経営革新にはやりぬく勇気が必要です。改革の裏付けと、成果を出せる仕組みを作り出せる努力が必要になります。


別の事業を展開させるタイプ

後継者が先代社長の負の遺産を承継し、それを新規事業の開発や経営革新につなげ乗り切っていくタイプです。社外の専門家の力をかり、客観性・公平性・説得性を確保しながら経営再建できるエネルギーが必要です。

【引き継ぎ要件】

会社存続の危機に飛び込み、不本意なスタートをきる事になるが、経営の安定と回復で意欲を燃やしていくには相当な覚悟が必要になります。公的機関の活用・外部専門家の指導を受けながら、マネージメント力を発揮していけるかがカギになります。


親族内承継で注意する事

最もスムーズに事業承継が行われやすいと思われる親族内承継の場合でも、事業用資金の後継者への集中移転や相続税の納入への対応といった課題が存在します。親族内承継にもメリット・デメリットがある事を列挙しておきます。

≪メリット≫

①一般的に、内外の関係者から心情的に受け入れられやすい。
②一般的に、承継者を早期に決定し、長期の準備期間を確保できる。
③他の方法と比べて、所有者と経営者の分離を回避できる可能性が高い。

≪デメリット≫

①親族内に経営者能力と意欲がある人がいるとは限らない。
②相続人が複数いる場合には、後継者を決める事や、経営権の集中が難しくなる。


社内外への根回しの必要性について

家族内で承継者が決まったら、取引先や金融機関など、社内外の関係者にも根回しをします。会社に長く貢献している従業員との関係は重要ポイントですので、良好な関係が築けるようにしておきましょう。

経営者が後継者と信頼関係を持ち、時間をかけて計画的に事業承継を進める事、親族だからわかりあえる事、親族ゆえに難しい事が出てきます。しかし、家族を含めて全面的に後継者をバックアップしなければ、円滑な事業承継は望めません。経営者は後継者と共に事業計画を策定し、後継者が取り組む経営改革を後方でサポートする事で、承継に向けての環境作りに役立ちます。

もうひとつ、後継者への権限委譲は思い切って実行する事。早期に「人事・労務面」「新事業」を委譲する事で、社員や取引先への周知に繋がり、将来展望も早まります。後継者に積極的に次期後継者としての心構えや、経営理念の明確化と承継への計画的な実行に取り組んでいくことが、承継の円滑化には不可欠な要素です。

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