平成20年「中小企業経営承継円滑化法」という法律が施行されました。この法律は、中小企業の事業承継をスムーズに行えるよう、遺留分に関する民法の特例、金融支援、課税の特例を柱に整備されたものです。日本の企業の9割以上が中小企業です。また中小企業は、雇用全体の7割を担っていて、日本経済の基盤となっています。政府はこれらの雇用の確保に加えて、企業の持つ高い技術力やノウハウなどが散逸するのを防ぐため、支援策を法整備して打ち出しました。
税負担の問題や遺産分割といった、相続時に発生する問題を軽減するための施策が盛り込まれたのが、経営承継円滑化法です。今回はこの経営承継円滑化法を中心に、相続税の納税猶予制度などをみていきたいと思います。
相続税のしくみ
相続税は被相続人の残した財産や生命保険などから、葬式費用、債務、基礎控除額等を引いた課税遺産総額を、各法定相続人に分配し、各々が取得金額に応じて課税されるようになっています。法定相続分に応ずる取得金額の税率と控除額は以下のようになっています。
取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下の金額 | 10% | なし |
3,000万円以下の金額 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下の金額 | 20% | 200万円 |
1億円以下の金額 | 30% | 700万円 |
3億円以下の金額 | 40% | 1,700万円 |
3億円超の金額 | 50% | 4,700万円 |
3億円を超える課税遺産がある場合は、控除の4,700万円を差し引いた金額の50%が相続税として課税されます。従来まで自社株式を含む遺産も同様に課税されましたので、事業を引き継ぐ際は大変な負担となりました。
中小企業経営承継円滑化法の納税猶予制度と適用要件
平成20年10月に中小企業経営承継円滑化法が施行された後では、適用要件を満たした場合、相続で取得した自社株式の80%部分の相続税の納税が猶予されるようになりました。これは相続開始前からの譲渡も含めて、その会社の発行済み議決権株式の総数の3分の2に達するまで適用されます。施行当時の適用要件をまとめてみました。
(1)会社の要件
- 会社法の定める非上場の中小企業であること。
- 資産管理会社ではないこと。
- 従業員が1名以上いること。
(2)被相続人(先代経営者)の要件
- 会社の代表者であったこと
- 同族関係者で総議決権数の過半数の株式を保有すること
- 筆頭株主であったこと
(3)相続人(後継者)の主な要件
- 会社の代表者であること
- 相続開始時に同族関係者で総議決権数の過半数の株式を保有すること
- 相続開始時に筆頭株主であること
- 先代経営者の親族であること ※
これらの要件を満たしている場合、相続税の納税猶予についての手続をとれば、相続税の猶予が受けられます。また主に以下の要件を満たせば、継続して納税が猶予されます。
(4)納税猶予の継続要件(申告期限後5年間)
- 後継者が会社の代表であること
- 毎年以前の雇用の8割以上を維持していること※
- 相続した自社株を引き続き保有し、後継者が筆頭株主であること
5年を経過した後は、相続した自社株式を譲渡せず保有していれば猶予が継続されます。そして後継者が死亡した場合などは、猶予されていた税額の納付が全額免除されます。
※は平成25年の法改正で要件に変更があります。
平成25年改正ポイント
中小企業経営承継円滑化法は、平成20年に骨組みが出来ましたが、その適用条件は厳しくハードルが高いものでした。リーマンショックによる不況もあり、企業は事業承継対策よりも、業績悪化対策に追われていました。そうした現状を見据え、新たに平成25年に事業承継税制の改定が行われ、適用要件もかなり緩和されたものとなりました。改正ポイントをまとめてみました。施行は平成26年1月からになります。
○ 経済産業大臣への「事前確認」の廃止
事業承継税制の適用を受けるためには、これまで経済産業大臣への「事前確認」が必要でしたがそれが不要となりました。
○ 親族以外の後継者の選任が可能
これまで後継者は親族である必要がありましたが、社員など親族以外も後継者として選べるようになりました。
○ 代表者の役員の退任要件の緩和
これまで先代経営者は代表と役員を退任する必要がありましたが、役員として残ることが可能になりました。(贈与税の納税猶予の場合)
○ 雇用の維持要件を緩和
適用要件として、5年間毎年以前の雇用の8割を維持する必要がありましたが、5年間の平均でみて8割を維持すればよくなりました。
○ 要件適用外になった際の利子税の負担の軽減、免除
これまでは要件を満たさなくなった際は、猶予されていた相続税に加え、利子の支払いも必要でしたが、事業を5年間継続していれば利子が免除されるようになりました。また税率も2.1%から0.9%に下がりました。
○ 納税猶予額の免除の適用要件の緩和
納税猶予額の全額免除は、後継者の死亡または会社の倒産にのみ適用されていましたが、民事再生・会社更生などの事業再生の際も猶予額の一部免除が受けられるようになりました。
○ 経営者の債務・葬式費用の控除の変更
経営者の債務・葬式費用はこれまでの自社株からの控除(相殺)ではなく、自社株以外の相続財産から控除に変更になりました。これにより相続税の猶予額が多くなります。
早めの事業承継対策を
2012年に野村総合研究所が行った中規模企業30,000社を対象にしたアンケートでは、ここ4年間の経営者の平均引退年齢は67.7歳という結果が出ています。30年以上前のデータと比較すると、6.4歳も引退年齢が上昇しています。
現在高度成長期時代に起業した経営者が還暦を超え、世代交代は否応無しに迫られています。このような状況でも、事業承継対策を十分にしていると回答した経営者は20%程度ですので、早急な事業承継対策が求められています。中小企業庁も警告しているように、経営者の高齢化と後継者難は、業績悪化や廃業に直結する問題であると認識しておきましょう。