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自分の死後に生じる相続問題や遺言の効力に興味・関心を持つ人が増えています。「遺言信託」は、自分の財産を信頼できる受益者に譲渡し、自分の指定した受益者の利益のために管理・運営・処分させる事で、信託行為の信託契約・遺言・公正証書等の3つのうちの1つです。事業承継における遺言信託の活用には、どんなメリットがあるのか調べてみました。

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事業承継でも遺言信託を使うのか、それは相続開始とともに後継者を受益者とする事により、「経営の空白期間」のリスクを避けるためです。信託での遺言だと「契約」になる為、オーナーが勝手に受益者を変更することを避ける事もできます。そこに遺言信託をする価値があります。


遺言作成のポイント

3つのポイントがあります。

①遺言代用信託

遺言信託は、遺言の中で信託の内容を決めたものですが、「遺言代用信託」とは信託契約の中で現経営者が亡くなった場合、他の人が受益権を取得する方法です。

現経営者が、自社株式を生前に信託設定し、生前中は自分を受益者に死亡したら後継者を受益者とする事を定めた事業承継をする事が出来ます。また、経営者が意思決定を欠く状態になった時にも、受益者の裁量で議決権を行使できるようにもできるので、経営者不在の期間は生じません。これにより後継者の地位安定と、事業を円滑に遂行する事が可能になります。

②他益信託

生前から自社株式を対象に信託し、現経営者以外から後継者に受益者を移行し、指定する信託方法です。これにより後継者への財産価値を承継させ地位を安定させる事が出来ます。もちろん遺言でも後継者に承継させる事は出来ますが、遺言はいつでも「撤回」出来ます。信託は「契約」なので、勝手気ままに内容を変更できないので、後継者の地位をより安定させる事が出来るのです。

現経営者が後継者に株式を生前贈与したいが、まだ現時点では経営権を完全に譲ることはしたくない、という場合がありますが、拒否権付き株式を発行し、現経営者が株式を保有する方法があります。拒否権付き株式を発行する場合、定款変更決議を経たうえで、会社の登記簿にもそれを反映させる必要がありますが、定款変更には、株主総会の特別決議が必要になります。現経営者が株式を100%所有している場合は問題ありませんが、もし親族や従業員・取引先等に株式が分散している場合、種類株の導入が難しい場合がありますのでご注意ください。

③後継ぎ遺贈型受益者連続信託

受益者の死亡などで、第一候補の受益者が消滅した場合に他の人が順次、受益権を取得する信託です。次の後継者だけでなく、他の候補をたてることで、相続順位に関係なく承継順位を選択出来ます。現経営者が後継者の「経営能力」を判断し、順次受益権を承継させる事が可能なので、心情を考慮しなければ、長男だから次男だからという争いは生じない事になります。

自分の死後にも意思反映できる制度の活用方法で、信託法の改正に伴って創設されました。信託内容をシンプルにし、こういう場合には終了させ、こういう場合には変更して継続、なども明確にし、遺留分も考慮する事も忘れないようにしましょう。


遺言信託のメリット・デメリット

≪メリット≫

①遺言承継の確実性と円滑性がある。
②後継者の地位の安定がはかれる。
③議決権の分散を防止できる。
④財産管理の安定性をはかる事が出来る。

≪デメリット≫

①受益者との契約になり、報酬も払う事になる。
②税務や信託業の法律規制に配慮しなければならない。


誠意ある遺し方とは

残された家族や法定相続人に自分の意思をはっきりと伝える事が出来るのが「遺言」です。感情に任せて後悔する事のないように、残される家族の将来や心情に思いをはせて遺言を作成しましょう。事業の承継に際して、経営者不在の期間は避けたいものです。現経営者のビジネスマンとして「選択力」「実行力」が遺言書に現われます。後継者に事業承継を計画的かつ確実・円滑に実施されるよう準備しておきましょう。

自分の遺す資産状況・遺産相続人の状況をきちんと冷静に判断し、自社を内外的に把握している会計士や税理士と今後の後継問題への対策をとるようにしましょう。会社議事録の作成に至るまでに、必要な事項の資料作成をする事について相談するのです。現経営者にとっても、後継者にとっても満足のいく事業承継になるように配慮・調整していきながら実現化していきましょう。

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