味の素

世界36ヵ国に展開し、約3万4,000人の従業員が働く味の素グループ。サステナビリティを根幹に据えた経営は各方面から高く評価され、気候変動に関する取り組みと情報開示に最も優れた企業として英CDPの「気候変動Aリスト」や、ダウ・ジョーンズなどのSRI(社会的責任投資)インデックスに選定されています。

同グループでは2030年に向けて「50%環境負荷を削減」「10億人の健康寿命を延伸」というアウトカムを掲げています。この2つのアウトカムを別々ではなく、セットで取り組むことを重視しているとのことですが、その理由とは――?

ESGやDXの最前線について、東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリストの福本勲氏が各企業にインタビューする本シリーズ。第6回の今回は、味の素の執行役常務サステナビリティ・コミュニケーション担当である森島千佳氏に、グループのサステナビリティ推進について詳しく話を伺いました。

東芝の福本勲氏、味の素の森島千佳氏
(左から)東芝の福本勲氏、味の素の森島千佳氏(2023年7月12日、東京都中央区の味の素本社で)
森島 千佳氏
味の素株式会社 執行役常務 サステナビリティ・コミュニケーション担当
お茶の水女子大学文教育学部卒業後、味の素に入社。調味料部、食品部などで商品開発を担当後を経て、健康事業開発部でダイレクト事業の立ち上げに参画。2015年より執行役員。家庭用事業の担当を経て、サステナビリティ・コミュニケーションを担当。
福本 勲氏
株式会社東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト
アルファコンパス代表

1990年3月、早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。1990年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRMなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、現在はインダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の編集長を務める。また、企業のデジタル化(DX)の支援と推進を行う株式会社コアコンセプト・テクノロジーのアドバイザーも務めている。主な著書に「デジタル・プラットフォーム解体新書」、「デジタルファースト・ソサエティ」(いずれも共著)がある。主なWebコラム連載に、ビジネス+IT/SeizoTrendの「第4次産業革命のビジネス実務論」がある。その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。
*2人の所属およびプロフィールは2023年7月現在のものです。

目次

  1. 創業の志が受け継がれたASV経営
  2. アミノ酸を強みに食品会社の枠を超えた企業へ
  3. 中期経営計画の作成を廃止、バックキャスト型の経営にシフト
  4. 2030年のアウトカム実現へ「メビウスの輪」
  5. ダブルバーデンの解消に向け「妥協なき栄養」を追求
  6. 小さなリスクから大きなリスクまで確実に対処
  7. 利益の追求と社会価値の創出を両立させる道筋を描く

創業の志が受け継がれたASV経営

福本氏(以下、敬称略) 御社は食品や調味料の会社として広く知られていますが、その成り立ちを含めて概要をお聞かせください。

森島氏(以下、敬称略) 当グループは、1909年に「味の素®」が発売されたことから始まりました。化学者の池田菊苗(きくなえ)博士がドイツに留学した際、ドイツ人と日本人の体格差に驚き、「日本人も栄養状態を改善して健康的になるべきだ」という想いから、味がよく廉価な調味料の開発に着手します。その想いに共感した実業家の二代鈴木三郎助が調味料事業を開始し、味の素株式会社の基礎を築きました。創業時の「おいしく食べて健康づくり」という志は現在にも引き継がれています。2023年4月にはそれをさらに進化させた新たなパーパス、「アミノサイエンス®で人・社会・地球のwell-beingに貢献する」を策定しました。

「うま味」を発見した池田菊苗博士
「うま味」を発見した池田菊苗博士
(味の素ホームページより)

また、当グループは2014年から「ASV経営」を推進しています。ASVとは「Ajinomoto Group Creating Shared Value」の略で、社会課題を解決する社会価値、そして利益を生み出す経済価値を両立させていくことを目的とした経営の基本方針です。

アミノ酸を強みに食品会社の枠を超えた企業へ

福本 ありがとうございます。グループ全体では食品以外にも非常に幅広い事業を展開されていますね。

森島 はい。当社はアミノ酸の活用を起点とし、食品系事業とアミノサイエンス系事業と(アミノ酸系の事業)いう2つの柱で事業を展開しています。

アミノ酸は、私たちの生命そのものを生み出す重要な物質です。人体の約20%はアミノ酸でできており、、髪や皮膚などのたんぱく質はもちろん、血液や消化器、各種ホルモンや酵素、抗体となって体を維持・調整する役割も果たしています。

アミノ酸が持つ呈味(ていみ)機能、生理機能、栄養機能、反応性を生かし、食品系事業のほかにもサプリメントや化粧品、医療品の中間体の開発製造を行っています。あまり知られていませんが、パソコンに使われる高性能半導体用の絶縁材も製造しており、実は世界の主要なパソコンのほぼ100%のシェアを獲得しているのです。

味の素グループが開発した層間絶縁材「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」(味の素ホームページより)
味の素グループが開発した層間絶縁材「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」(味の素ホームページより)

福本 食品から半導体の絶縁材まで、全てにアミノ酸の研究から生まれたテクノロジーが応用されているのですね。

森島 はい。利益ベースで見るとアミノサイエンス系事業は食品系事業の半分ほどですが、今後、食品系事業も拡大しつつ、2030年にはこの比率を1:1にする目標を立てています。将来的には食品会社の枠を超えた、世界に類のないユニークな企業として成長していきたいと考えています。

福本 ありがとうございます。続いて、森島さんの現在に至るまでのご経歴をお聞きかせください。

森島 私は入社から30年間、事業部門におりました。食品系事業で調味料や加工食品の商品開発に携わり、その後は健康開発事業部でアミノ酸の生理機能を使ったサプリメントの事業に携わりました。その後、食品系事業に戻り家庭用商品を担当したのち、コーポレート部門に配属され、現在はサステナビリティとコミュニケーションと担当しています。具体的には、グループのサステナビリティ推進、コーポレートコミュニケーション、ブランディング、統合報告書などを担当しています。

福本 サステナビリティを推進する上では、従業員や協業先、グローバルなどさまざまな関係先に説明する責任が出てきます。事業部を長く経験されたことで、説明を受ける側の視点を持っていることは大きな力になりそうですね。

森島 おっしゃる通りです。今、その経験がとても役立っています。事業部に長く携わった後に、その活動のベースとなるサステナビリティの推進役になったことには大きなやりがいを感じています。サステナビリティは「伝える」ことも非常に大切ですから、推進役と広報を同時に担当させていただいていることもありがたいですね。

中期経営計画の作成を廃止、バックキャスト型の経営にシフト

味の素 森島氏
「(中期経営計画の廃止を巡り)相当なエネルギーを注いで準備した計画が、時間の経過と共に使えなくなっていくという反省がありました」(味の素 森島氏)

福本 御社は細かく数字を積み上げる中期経営計画を廃し、パーパスからバックキャストしていく経営に転換されたとのことですが、この背景をお聞きできますか。

森島 当社も以前は、精緻に数字を積み上げた中期経営計画を3年ごとに策定していました。しかし、VUCAの時代ともいわれる現在は社会情勢の変化が目まぐるしく、計画策定時の前提条件が大きく変わってしまいます。相当なエネルギーを注いで準備した計画が、時間の経過と共に使えなくなっていくという反省がありました。

そこでパーパスを掲げ、そこに向けた一定の秩序を持たせたロードマップを作り、実現したい未来から逆算して個別の目標や計画を決めていくバックキャスト型の経営にシフトしたのです。

従業員の仕事の仕方もこれまでのような積み上げ型ではいけません。毎月の事業の状況を見てゴールへの道筋と現状のギャップをチェックし、その差を埋める対策を素早く打てる実行力をつけていけるよう、ローリング・フォーキャストを導入しています。

福本 バックキャスティング型の事業推進では、プロセスの実行と共に、目標達成に向けて決定すべきことや組織で共有すべきことが見えてくることが大きな利点ですね。

森島 そうですね。味の素グループが世の中に必要とされる組織として成長していくために必要なことは何か、その本質を考えながら事業活動をしていかなければいけない時代になったと思います。

2030年のアウトカム実現へ「メビウスの輪」

福本 では、御社が経営の根幹と位置付けているサステナビリティの取り組みについて、ご説明をお願いできますか。

森島 はい。当社では2030年に向けて、「50%環境負荷を削減」「10億人の健康寿命を延伸」というアウトカムを掲げています。この2つを個々ではなくセットで進めていくのが当グループの大切なスタンスです。

人々が栄養バランスの良い食事を摂るためには、肉や野菜など多彩な食材が必要になります。そして、アミノ酸の生産において、その原料となるキャッサバ芋やトウモロコシ、サトウキビのような農作物を潤沢に収穫できなければ、当グループの事業活動は成り立ちません。つまり、豊かな地球環境の上に、我々の健康や栄養改善に向けたアクティビティは成り立っており、両方を一緒に進めていく必要があるわけです。

味の素グループの2030年アウトカム実現に向けたサステナビリティの考え方(味の素ホームページより)
味の素グループの2030年アウトカム実現に向けたサステナビリティの考え方(味の素ホームページより)

福本 なるほど。それでこの途切れることのない“メビウスの輪”(上図の中央)で括られているわけですね。

森島 はい。環境負荷50%削減へのアプローチとしては、特に「気候変動対応」「プラスチック廃棄物の削減」「フードロスの低減」に重点的に取り組んでいます。

当社は40年ほど前から、環境負荷低減に関する取り組みを進めていました。というのも、アミノ酸は発酵法で作られるのですが、実はこの発酵過程で多量のGHG(温室効果ガス)が排出されるのです。よって従来から環境負荷の少ない製法を追求してきた歴史があります。また、省エネ活動はもちろん、燃料転換や再生エネルギーの調達なども実施してきています。例えば、ASEANでは、もみがらを原料にしたバイオマス発電を行うなど、さまざまな取り組みを進めています。またアミノ酸の発酵プロセス自体も、使う菌や工程でなるべく環境に負荷をかけない製法の研究を積み重ねています。

タイ味の素社カンペンペット工場では、工場で使用する全ての蒸気をバイオマス由来の蒸気に置き換え、同時に蒸気タービンで発電も行なっている(味の素ホームページより)
タイ味の素社カンペンペット工場では、工場で使用する全ての蒸気をバイオマス由来の蒸気に置き換え、同時に蒸気タービンで発電も行なっている(味の素ホームページより)

Scope 1(*1)、Scope 2(*2)については、燃料転換や再生エネルギー調達によって、GHG排出量削減の目標達成がある程度の目処が立ちました。しかし、Scope 3(*3)は難しい。アミノ酸の発酵原料を中心とした原料製造と物流工程で排出されるGHG削減が最大の課題です。原料製造で排出されるGHGの削減についてはサプライヤーと二人三脚で取り組んでおり、一緒に汗を流しながら取り組んでいます。

*1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出
*2:他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出
*3:Scope1とScope2以外の間接排出

福本 第一次産業に近いところでは、GHG排出量の把握は難しい面があるのではないでしょうか。

森島 そうですね。将来的には、生産者である農家の支援にも踏み込む必要が出てくると感じています。またアミノ酸生産工程の活動でいえば、アミノ酸の結晶を抽出した後の発酵液などの副生物もまだまだ栄養が豊富ですから、家畜の飼料や農業の肥料に使うなど、ほぼ100%現地に戻す取り組みを行っています。

福本 副生物を有効利用することで肥料を買わずに済めば、GHG削減や循環型農業の取り組みにも繋がりますね。プラスチック廃棄物の削減についてはどのように取り組んでいますか。

森島 プラスチック廃棄物をゼロにする目標を掲げています。またもう一つの重点施策であるフードロスの削減とのバランスも難しいところです。フードロス低減のために食べきり型の商品を作ると、包材に用いるプラスチックが増えてしまうように、一見両立できない部分が出てくるのでホリスティックな視点が必要です。

欧州では、2025年までに包装廃棄物のリサイクル率を重量ベースで65%に引き上げるなど、地域全体で複数の目標に向けて取り組みを進めていますが、こうした動きに日本は大きく出遅れており、リサイクルの社会実装の遅れも感じています。

包材の一部を紙に置き換えることでプラスチックの使用量を減らせます。また、複数の素材が何層にもなっているパッケージから、プラスチックでもリサイクル可能なモノマテリアル(単一素材)包材への切り替えも進めています。

福本 ある包材メーカーの方から、リサイクルのしやすさでいえばモノマテリアルが良いが、物流の効率を上げるには複合材料の方が軽くて良いという話を聞いたことがあります。サステナビリティの推進には多くのジレンマがありますね。

森島 おっしゃる通りです。全体を俯瞰し、包括的な判断をしていくことの大切さ、難しさを常に感じています。

東芝 福本氏
「リサイクルのしやすさでいえばモノマテリアルが良いが、物流の効率を上げるには複合材料の方が軽くて良いという話を聞いたことがあります。サステナビリティの推進には多くのジレンマがありますね」(東芝 福本氏)

ダブルバーデンの解消に向け「妥協なき栄養」を追求

福本 次にESGのS(Social:社会)の部分についてもお聞かせください。

森島 当社が重視しているのは、栄養課題の解決です。地球の人口は2050年に100億人になるといわれており、1つの地域内でも十分に食べられない人と、栄養過多で生活習慣病になる人のダブルバーデン(栄養不良の二重負荷)が存在します。これを解消し、「すべての人々が栄養価の高い健康的な食事を摂れる社会」をつくることが大きな挑戦です。当グループでは、「10億人の健康寿命を延伸する」というアウトカム実現のため、「妥協なき栄養(Nutrition without compromise)」という考え方を提唱しています。

福本 どのような考え方なのでしょうか。

森島 「妥協なき栄養」の中には、「おいしさを妥協しない」「地域や個人の食生活を妥協しない」「食へのアクセスを妥協しない」という3つの柱があります。

「おいしさを妥協しない」は、健康を実現するためにおいしさを犠牲にしない方針です。健康的な食事を追求すると、必ずと言っていいほど減塩という選択肢が出てきますが、味が二の次になってしまいがちです。そこに当グループが得意とする「だし」や「うま味」を利かせると、おいしさを犠牲にせず減塩できるのです。

「地域や個人の食生活を妥協しない」は、世界の多様な食生活を尊重した商品提供を目指す考え方です。当グループは世界中で同一商品を売り込むのではなく、各地域で長く受け継がれてきた味に着目し、その土地に最も適した風味調味料を作り販売してきました。人々が食べ慣れた味を通じて栄養改善を行っていくことが、未来のウェルビーイングにつながるのではないかという考えですね。

「食へのアクセスを妥協しない」は、だれひとり取り残さないという考え方にも通じるもので、手ごろな価格、だれでも手軽に料理を作れる商品、EC販売などの取り組みです。商品としては、メニュー用調味料の「Cook Do®」も例として挙げられます。

海外で推進している「学校給食プロジェクト」もこれに当たります。東南アジアの子ども達を中心に、栄養バランスの良いおいしい食事を摂ってもらい、各地域で抱える栄養不良の解消につなげようという試みです。

人権に関してはサトウキビ農家やエビの養殖業者など、サプライチェーンの上流までさかのぼって現地に足を運び、積極的にデューデリジェンスを実施しています。

福本 非常に重要な取り組みだと思います。環境(Environment)や社会(Social)の話題は、グローバルにも認識をしてもらわなければならない部分ですが、どのように浸透を図っているのでしょうか。

森島 サステナビリティについては、推進・執行の中核になるサステナビリティ委員会が設置されています。これは経営会議に紐づいており、定例会議には各事業部長と、ASEAN・北米・中南米・欧州のトップが参加しています。またカジュアルな情報共有を促すために、社内SNSをグループ全体に導入しました。

そこでは、従業員が自部門の取り組みを発信したり、「いいね」をつけたりすることもできます。同時翻訳機能がついているので、海外の投稿も読めます。魅力的な内容が国内外からアップされており、一度見始めると時間を忘れて読みふけってしまうこともあるほどなんですよ。

福本 社内SNSの導入で生まれた変化はありましたか?

森島 冒頭でお話ししたASV経営では、「自分ごと化」がとても重要なキーワードです。従業員一人一人に、「自分の仕事が社会価値の創造につながる」という意識を根付かせる必要があり、社内SNSはここに対して大きな役割を果たしています。

例えば、総務や知財業務担当のような、パーパスとの関連性が一見分かりにくい業務を担当している従業員もいます。そうしたメンバーも、社内SNS内の「私のASV」というコーナーで、「これが私のASVだ」と感じた活動を発信しているのです。これは部門長などに限らず、一般職の若い従業員も含めてです。従業員が自分にとってのASVとは何かを考える上で、非常に効果的なのではないかと思います。

小さなリスクから大きなリスクまで確実に対処

東芝の福本勲氏、味の素の森島千佳氏

福本 社内SNSの導入は従業員エンゲージメントの向上にもつながりそうですね。続いて、ESGのガバナンス(Governance)に関する取り組みについてもお聞かせいただけますか。

森島 サステナビリティの観点で言うと、先ほどお話ししたサステナビリティ委員会を中心とした執行での取り組みを監督するのは取締役会ですが、その取締役会に紐づくサステナビリティ諮問会議という会議体があります。社外のさまざまな領域の有識者で構成されており、2021年に第1期がスタートしました。第1期では2050年まで見据えた長期的な方向性やマテリアリティについて議論し、2023年から始まる第2期では執行のサステナビリティ活動のモニタリングをしていただくことになっています。

リスクマネジメントについては、経営会議の下部組織として設置されている経営リスク委員会が、リスクを特定し、事業部門での対応策の策定に繋げます。サステナビリティ委員会とも連携し、小さなリスクから、近年のパンデミックや戦争などの大きなリスクまで確実に把握して備えを進めています。

福本 ESGスコアを意識すると透明性の確保も重要になるかと思います。その取り組みについてはいかがでしょうか?

森島 当グループは、非財務情報を「いずれ財務になる未財務情報」とも言っています。、情報開示はサステナビリティにおいても非常に重要度が高く、今後さらに強化していく方針です。サステナビリティは短期的に実現できるものではありません。その時々の課題認識も含め、プロセスの開示はとても重要だと考えています。

利益の追求と社会価値の創出を両立させる道筋を描く

福本 今後、長期的な視野に立ちサステナビリティを推進していく上で、経済価値と社会価値のバランスをどう取っていきますか。

森島 利益の追求と社会価値の創出は必ずセットで進める方針です。

例えば、アジア・アフリカ地域で栄養改善事業を行っている公益財団法人 味の素ファウンデーションがあります。大きな社会価値を生み出しているものの、経済価値を追求しようとすると、その事業の意義が一部削がれてしまうのです。よって公益財団法人として独立させました。社内では徹底して両方の価値共創にコミットしていますが決して簡単なことではありません。

例えば、燃料転換に伴う設備投資などは、どうしても短期的に損益計算書上でマイナスが生じます。いかに付加価値を向上させて事業全体で利益を出していくかということを、ビジネスモデルの転換まで含めさまざまなことを網羅的に検討していく必要があると考えています。社会価値の創出のための施策がどこかで必ず経済価値に転換するよう、その道筋をどう描いていくかは、皆がそれぞれに苦心しながら現在進めているところです。

福本 まさにこれから実現に向けて取り組んでいくところですね。最後に、今後サステナビリティ推進に取り組んでいくにあたって今の気持ちをお聞かせください。

森島 私自身としては、まずは新しいパーパスを従業員、グローバル全体に浸透させていくことがこれからのテーマの一つです。従業員みんなが、我々の強みでありユニークネスでもあるアミノサイエンス」を人々のウェルビーイングに貢献できる素敵なものだと実感し、誇りに思えることが大事だと思っています。

また、コーポレートコミュニケーションやブランディングにおいては、“料理をする人に支えられている味の素”というイメージから、サステナビリティやウェルビーイングにも注力している会社というイメージに刷新していきたいです。Z世代を筆頭に若い方々の価値観はどんどん変化していますから、そうした新しい世代と共に未来を創っていける会社にしたいですね。

福本 楽しみにしております。本日は貴重なお話をありがとうございました。

東芝の福本勲氏、味の素の森島千佳氏

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