ほめ育グループ 代表。Forbesアメリカ・評議員&連載中。2021年、2022年TEDxTALK 世界一(テデックス トーク)2023年、国連C3サミット スピーカー日本発の教育メソッド「ほめ育」を開発し、世界20か国、のべ100万人に広めている。大手コンサルタント会社から飲食店の洗い場に転職し、4年間住み込み、店長を経験した。そして、実際に現場で通用した教育に脳科学と心理学をミックスさせ、「ほめ育」という教育メソッドを完成させた。500社以上の企業や、幼児教育を始めとした教育機関にも導入され、また起業家支援も行っている。また、日本だけでなく、アメリカ、中国、インド、シンガポール、タイなどで活用されており、著書は30冊。(英語、中国語、韓国語、スペイン語、タイ語にも翻訳)テレビ朝日報道ステーション、NHK「おはよう日本」、The Japan Times、日テレ「午前0時の森」、FM岡山・FM福井 毎週土曜日「原邦雄のほめ育ラジオ」などの登場、アジア人唯一、海外TEDxに3回登壇。世界教育サミットにご参加。自ら財団法人を設立し、カンボジアやインド、宮崎、秋田の児童養護施設に寄付活動をしている。趣味はトライアスロン、ピアノ、モットーは「意志があるところに道はある」
―まずはこれまでのキャリアの変遷についてお伺いしようと思います。大手コンサル企業からラーメン屋さんに転職されたということですが、その経緯と想いについてお聞かせください。
当時28歳で、何かの分野で日本一になりたいという気持ちを持っていた私は、船井総研でそのまま出世することも視野に入れていましたが、より磨きをかけ、日本一のコンサルタントになるために、実際に現場の経験を積むことを決意したのがきっかけです。
船井総研の時は全国の経営者へのコンサルタントとして活動していました。しかし、現場の人々は、コンサルタントが提案する策が現場に合わないと感じることがあり、それが嫌悪感につながることや、コンサルタントが現場から乖離していると感じることもありました。
コンサルタントの負い目として、現場経験がないことがあげられます。そして、そのまま仮説や計画を作っていくため、現場の実状がわからず、提案が現場に合わないこともありました。私は、コンサルタントとして「経営者だけでなく現場のマネージャーやスタッフから共感や尊敬される必要がある」と感じていたため、優れたコンサルタントになるためには一度現場の経験を持つことが大切だと考えはじめました。
これが、ラーメン屋で働こうと考えた契機になります。
―コンサルタントとしての課題をしっかり捉えて、理想のコンサルタントになるために現場の経験を積んだのですね。
当時は、洗い場からお米の炊き方、注文の受け方まで、アルバイトと一緒に働きました。私は包丁も握ったことがなかったのですが、そこから4年間の経験を通じて店長になりました。
現場で直接働いたことで、なぜ経営者の思いが現場に届かないのかを理解しました。 経営者の思いや理念が直接現場に届くことが中々ありません。また、現場の方からすると、経営陣のいうことを考える暇もなく働かなければなりません。
―なるほど。その経験から何を学びましたか?
同じ日本で日本語を話していても、経営者の思いは現場には中々伝わらないことを学びました。逆に、現場の思いも経営陣には伝わらないことを実感しました。
―伝わらなかった原因はどういったところにあったのですか?
悩みの種類が全く異なっていたことが原因でしたね。経営者の悩みは主に資金繰りや人材育成、採用などですが、現場では資金繰りについてはほとんど悩んでいません。彼らの悩みは、飲食のお米の発注がうまくいかないといったように、現場で起こっている問題についてです。
―現場の悩みは具体的で日々の業務に直結しているということですね。現場と経営者のギャップが見えてきたとのことですが、その4年間の中で、現在の事業の構想はどのように生まれたのでしょうか?
それまで厳しく育てられたこともあり、店長になってから、自分も従業員に対して厳しくなりました。それが正義だと思っていましたが、ダメなものはダメと厳しく指導すると、パートさんが泣いてしまったり、人が辞めてしまうことがありました。 結果、最低でも五人いないと店が回らないのに、四人しか残らなくなってしまいました。八割がアルバイトで回る店だったため、そこで自分のマネジメントの失敗を痛感しました。 そんな中、あるアルバイトの男の子が、「今月のMVPは誰ですか?」と質問してきたんです。それまで、全員がダメと思っていた私にとって、一番頑張った人をMVPと認めるという発想は全くなかったので、衝撃を受けました。
そこで初めてスタッフの努力を評価することが足りていなかったと感じました。従業員がいなければ成り立たない仕事であるにも関わらず、マイナスな面しかみていないということに気付いたのです。そこで、一気に私は変わり、月に一回スタッフを集めて彼らのいいところを褒める会議を始めることにしました。
その結果、売上が160%ほど成長し、一人もスタッフが辞めなくなりました。私は雇われ店長で、予算を使って広告を打つなどの集客活動はできませんでしたが、このような内部の改善だけで売上が上がることを経験しました。
結果、店舗は大繁盛し、人手不足に悩むこともなくなりました。飲食業界では珍しいことですが、私はこの経験を持ち帰り、コンサルティング事業に生かすことを決意しました。
―内部の改善によって160%の成長をしたというのは驚きです。本当に素晴らしいことですね。その経験を経て、初めての顧客を獲得するなどといった、マーケティング戦略部分において、一定の実績を築くために何か工夫をされたことはありますか?
私たちは、自社の存在を広く知ってもらうために本を出版することを考えました。また、この業界では日本だけでなく、アメリカにも進出することが重要だと考えました。当時、アメリカ市場に挑戦していた企業はほとんどなかったのも要因の一つです。
アメリカの企業で認められた後に日本に再進出すると、注目を集めることができると考えました。そのため、私たちはすぐにアメリカ市場に進出する準備を始め、そのタイミングでメディアから声もかかり、運よくビジネスとしても成長することができました。
―アメリカ市場への挑戦が、会社のブレイクスルーにつながったということですね。そのようなブレイクスルーや成功に繋がった秘訣について教えていただけますか?
意志の強さを持つことですね。 アメリカ市場への挑戦については、まず最初にスターバックスに電話をかけたことがスタートでした。私たちは、アメリカで一番の企業を目指すと決め、スターバックスにコンタクトを取りました。
そして、その電話で、私たちが半年間で売り上げを120%にできるコンサルタントであると伝えました。もちろん、スターバックスとの契約が一本の電話で成立するとは思っていませんでしたし、「もう2度とかけてこないでください」とまで言われましたが、その電話をかけることで、自分自身がアメリカ市場において本気やろうと思っているかどうかという意志を確認したかったのです。その一本の電話がなければ、アメリカ市場への挑戦を諦めていたかもしれません。この電話をかけたことからアメリカへの挑戦が始まりました。
ロサンゼルスでは約20万人ほどの日本人が在住していたので、知人もいない状況から、現地のフリーペーパーを活用した集客活動や、日本から資料を送っていきました。
半年間の努力の結果、80人ほどのセミナー参加者を集めることができました。
その後は、アメリカでも事業が進展しています。その経験を活かして、日本市場にも力を入れていきたいと考えています。
―実際に行動してまで確かめた強い意志を持っているからこそ、ブレイクスルーを起こすことができたんですね。しかし、電話で断られたりと様々な困難があったと思いますが、それらを乗り越えられた理由や決意の源泉はどこから来ているものなのでしょうか?
困難を乗り越えられている理由の一つとして、会社員時代の経験があると思います。会社員として働いていた際、人間関係の悩みから半年間、社会から離れる経験がありました。上司との意見の対立や、仕事に集中するタイプだったことなどから、上司や同僚との関係に悩むことが多かったです。 自分の意見を述べると、いじめの対象になったり、上司との関係が悪化したりすることが多く、大変でした。出世すればするほど、愚痴を聞かされる状況になり、それがストレスになりました。
結局、社内の人間関係に対応できず、上司から厳しいフィードバックを受け、体調を崩してしまいました。その結果、半年間、働けない状態になったのです。
その半年間、社会から離れて自分自身を見つめ直し、読書をしたりしました。その際に私は、自分と同じように社内の人間関係で疲れてしまった人たちが、復帰できないのではないかと思い、そんな人たちを何とか支えたい、何かできないかと考えました。
ただ利益を追求するだけではなく、困っている人たちのために何かをしたいと考え、事業を始めました。
―なるほど、壮絶な経験を通じて、自身の方法を確立し、それを実践してきたのですね。今の事業にはそういった背景も強く表れていると思うのですが、そういった自社事業の強みについて教えていただけますか。
私たちは、徹底的に褒めるという基準にこだわっています。特にただ褒めるだけではなく、成功を生む要素を見極めることが重要だと感じています。
例えば水泳の練習や筋トレ、飲食店の売上向上策、あるいは生命保険の営業マンの成功と失敗の違いなど、結果はその人の行動によって大きく変わると思います。
成功への道筋はその人の行動や言動に大きく依存しています。私たちの会社では、各業種や業態で成功を収めている人々の行動を徹底的に分析し、その行動に全員で取り組むことを目指しています。
―なるほど。「褒める」こと自体にフォーカスが当たるように見えますが、実際にはその前工程、つまり何が売上や業績、モチベーションアップにつながるかという分析をしっかりと行い、それに基づいて褒めるという方法を確立しているということですね。恐らくその部分は業種や企業によって異なると思うのですが、その際、重要な要素を見つけるための秘訣は何でしょうか?
常にロイヤルカスタマーの意見を客観視して考えることが秘訣ですね。 私たちは全てのビジネスをお客様商売と考えています。そのため、お客様に選ばれる理由を明確にすることが重要で、なぜ私たちを選んでいただけるのかを理解することが大切です。
―実際に現場にでたからこそ、常にお客様ファーストの考えを持つことができているのですね。そこまでし尽くした御社の、未来に向けて考えていることについてお聞かせいただけますか。
採用が難しい、人材育成に課題を感じている企業が多い中、それらの問題を解決し、企業価値を向上させることが必要だと考えています。今の時代、採用や人材育成が非常に難しい時代だと感じています。その一方、人がキーワードになっていくような時代になっていくため、とにかく人が大事になります。
そんな中、現場に出て褒めることが重要だと痛感したことを活かして作った、ほめ育コンサルタントという仲間が増えてきており、職業としてやっている人も増えてきました。企業内にホメイク事業部を設けて、人材育成や外部への販売なども行っています。私はそれらを通じて、企業価値を上げようと考えています。
人の力で業績が上がり、人が集まってきますが、良いコンテンツがあっても人がいなければそのチャンスは生まれません。また、人が不在のために適切な評価がされていないということもあります。私たちのサービスを通じて、そういった企業価値を上げていきたいと考えています。
―なるほど、関わる人を大事にしていることがとてもよく伝わりました。最後にこの記事を見てくださっている方に伝えたいメッセージなどがありましたらお願いします。
そうですね。私が最も感じているのは、現場の人々の笑顔です。安心して働ける環境が整い、上司からの賞賛の言葉が直接心に響くと、それが一年間頑張る力になったり、転職後も自分の心の支えや自信につながると感じています。
今流行りの褒め方ではなく、その人が持つ独自の長所や能力を言葉にして伝えることが、現場の人々が自信を持つきっかけになると思います。
―今回のインタビューを通じて、実際に現場に出たからこそ、より人を大事にする良さを改めて感じました。ありがとうございました。
- 氏名
- 原 邦雄(はら くにお)
- 会社名
- 株式会社スパイラルアップ
- 役職
- 代表取締役