エレファンテック(東京都中央区)は東京大学発の電子回路基板製造ベンチャー。環境に優しい金属インクジェット印刷による基板の量産化に世界で初めて成功したという。東大大学院情報理工学系研究科を修了した清水信哉社長が、2014年1月に創業した。
使い道のなかった銀ナノ粒子インクの用途を開発
創業のきっかけは1本の論文だった。清水社長が師事していた川原圭博准教授(当時、現・東大インクルーシブ工学連携研究機構長)の論文「Instant Inkjet Circuit」。そこで取り上げられた回路マーカー用の導電性「銀ナノ粒子インク」が、清水社長とネットゲーム仲間だった杉本雅明氏との間で話題になったのだ。
銀ナノ粒子インクは2009年に大手製紙メーカーが開発していたが、用途が見つからないまま放置されていた。2人は川原准教授の論文から、このインクがプリンター基板の量産技術として応用できるのではないかと思いつく。そこで清水社長と杉本氏が共同でエレファンテックの前身となるAgICを立ち上げる。杉本氏は同社の取締役共同創業者に就任した。
AgICは「エッチング法」や「サブトラクティブ法」といった従来の基板製造法を根底から覆す、「ピュアアディティブ法」による量産化を確立した。これは基材上にインクジェットで金属を印刷し、めっき処理をする手法。従来の基板製造法に比べると製造工程が短くて済む。さらにフォトレジストや銅などを廃棄する必要がなく、二酸化炭素(CO₂)排出量を75%、水の使用量を95%、それぞれ削減できる。
自社技術のプレゼンテーションでは会場にプリンターを持ち込んで、実際に回路を印刷してみせた。参加者の目の前で回路印刷したLEDライトが実際に光ると、会場から驚きの声が上がったという。
様々な分野で量産印刷基板の採用相次ぐ
投資家からの関心も高い。2015年1月にシリーズAAで総額約1億円の資金調達に成功したのを皮切りに、2016年2月にシリーズAでBeyond Next Venturesなどから総額約1億7500万円、2017年9月に産業革新機構やBeyond Next Venturesなどから総額約5億円、2019年11月にはシリーズCでセイコーエプソン、三井化学などから総額約18億円の資金を調達した。この間、2017年9月にエレファンテックに社名変更している。
2019年7月にセイコーエプソンから回路印刷用のプリンターヘッド部品の供給を受けるなど、量産化に向けて外部との協力関係を築く。
2020年11月にはEIZO<6737>のウルトラワイド曲面モニター「FlexScan EV3895」向けに、ピュアアディティブ法で量産した基板「P-Flex」が採用された。2021年11月にはフクダ(東京都練馬区)の包装容器エアリークテスト装置 「MSQ-2000シリーズ」に同基板が採用されるなど、量産部品の供給は軌道に乗っている。
自動車用電子制御ブレーキシステムなどを手掛ける日清紡メカトロニクス(東京都中央区)とは、先進運転支援システム(ADAS)搭載車向けの配線一体型成形部品の共同開発に取り組んでおり、2023年中の量産開始に向けて準備を進めている。
こうした取り組みが評価され、国立研究開発法人の科学技術振興機構(JST)と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)共催の「大学発ベンチャー表彰2023」で「経済産業大臣賞」を受賞した。これからも「真っ向から世界最先端の技術を開発して世界を変えるスタートアップ」を目指していくという。
文:M&A Online