繰下げ受給の損益分岐点

繰下げ損にならないためにも手続き前に損益分岐点を知っておきたい。65歳からもらい始めた場合、総受給額が上回るのは、年金をもらい始めてから12年目だ。仮に年金額を年間180万円として計算してみよう。

・65歳受給開始の場合
年間180万円の年金額で70歳時点(丸6年)では総額1,080万円、81歳(丸17年)で3,060万円、86歳(丸22年)で3,960万円となる。

・70歳0ヵ月受給開始の場合
年金額は、42%増額となり年間255万6,000円(180万円×142%)となる。70歳時点では、総額0円だが81歳(丸12年)時点で3,067万2,000円となり、65歳受給開始を上回るため損益分岐点は81歳。

・75歳受給開始の場合
年金額は、84%増額となり年間331万2,000円(180万円×184%)となる。75歳時点まで総額0円だが86歳(丸12年)時点で3,974万4,000円となり、65歳受給開始を上回る。ただしこの時点での70歳受給開始の場合の受給総額は4,345万2,000円(丸17年)。70歳まで繰下げた場合に比べると受給総額は下回る。91歳になってやっと70歳受給開始を上回ることになる。

整理すると以下のようになる。

【65歳受給開始との比較】
・70歳受給開始の損益分岐点は81歳
・75歳受給開始の損益分岐点は86歳

【70歳受給開始との比較】
・75歳受給開始の損益分岐点は91歳

何歳から繰下げ受給をするのが良いかは個人の資産状況や寿命によっても大きく異なるため、一概にはいえない。しかし損得にこだわらず自分が老後に悠々暮らしていけそうな年金額に到達する年齢を目安にするのも選択肢のひとつだ。繰下げ受給は、66歳までは1年単位、66歳以降は1ヵ月単位でできるため、いろいろとシミュレーションしてみてはいかがだろうか。

繰下げ受給するまでの収入確保も必要

繰下げ受給をする場合は、当然受給開始の手続きをする年齢まで年金をもらえない。そのため年金という収入源がなくても生活できる資金を確保しておくことが大前提となる。老後もできるかぎり働いて労働収入を得るのも良いだろう。しかし労働収入を得る場合は、在職老齢年金と繰下げ受給の関係も知っておきたい。

60歳以降、厚生年金に加入しながら(働きながら)受け取る老齢厚生年金を在職老齢年金という。しかし年金額と報酬額(月給・賞与)に応じて年金額が減額されるため注意が必要だ。繰下げ受給をすれば年金受給までは労働収入だけとなることが予想される。そのため例えば、「70歳まで働き(繰下げ)、70歳から増えた年金をもらおう」と考える人もいるかもしれない。

しかし在職老齢年金により支給停止の部分は、繰下げても増額の対象外となる。例えば65歳以降の在職老齢年金による支給率が平均して60%(支給停止部分が40%)という人の場合、繰下げ受給により増額の対象となるのは、本来65歳で受給手続きをすることで受け取れる老齢厚生年金のうち60%の部分だ。

在職老齢年金として減額されるかどうかは、年金額と報酬額の関係によって異なってくる。しっかりとシミュレーションしてみることが大切だ。他にも現役中に資産を作っておき、取り崩しながら繰下げ後の年金受給する日を待つ方法もある。