この記事は2023年11月11日に青潮出版株式会社の株主手帳で公開された「丸善CHIホールディングス【3159・スタンダード】丸善ジュンク堂書店と図書館事業の2本柱」を一部編集し、転載したものです。
4月就任、デジタル施策で収益力強化図る
図書館や書店電子化なども推進
丸善ジュンク堂書店を全国展開する丸善CHIホールディングス。同社は、書店・ネット販売の一般向け事業と、図書館向け公共事業の主に2本柱で事業展開する。紙の出版市場が縮小傾向にあり大型書店の改革が求められる中、同社はデジタル施策を強化してきている。図書館や書店の電子化を進めながら、新規事業「丸善リサーチ」を年度内に開始する予定だ。4月に就任した五味英隆社長にデジタル戦略や今後の方向性について聞いた。
▼五味 英隆 社長
書店一般向け4割
図書館公共向け5割
同社は、丸善と図書館流通センターが経営統合し、共同持株会社として2010年に設立された。現在は大日本印刷を親会社に持ち、丸善ジュンク堂書店、図書館流通センター、丸善雄松堂、丸善出版など、20社以上の連結子会社で構成されている。
23年1月期の売上高は1627億9900万円、営業利益31億2900万円。セグメントは「店舗・ネット販売」「文教市場販売」「図書館サポート」「出版」「その他」の5つ。そのうち売上の約40%を占めるのが「店舗・ネット販売事業」で、丸善、ジュンク堂書店などを全国に108店舗(23年1月期末時点)展開する。
次に売上の約30%を占めるのが「文教市場販売事業」。公共図書館や大学図書館向けに、書籍や書誌データの販売、教育・研究施設などの設計・施工、大学経営コンサルティングなどのソリューションを提供する。そして売上の約20%を占める「図書館サポート事業」。図書館業務受託や、地方自治体における指定管理者制度やPFIによる図書館運営業務および人材派遣を行う。現在の受託館数は1786館(23年1月末時点で公共580館、大学235館、学校他971施設)と、図書館業務受託において国内トップシェアを誇る。
この3事業を柱に、売上構成は書店販売の「一般」と公共・学校図書館事業の「公共」に大別できる。前者が約4割、後者が約5割。堅調な公共向け事業を稼ぎ頭にし、そこで得た利益を新事業や書店の経営改革への原資にしているのが現状だ。
コロナで電子図書館の需要増
既に6000万人をカバー
公共向け事業における同社の強みは、施設作りのハード面から書籍販売・運営のソフト面まで一貫して提供できる点だ。中でも汎用書誌データベース「TRC MARC」は、選書・発注から、蔵書検索、貸出管理までできる公共図書館の運営に欠かせないサービスで、全国約3300の公共図書館のうち約9割が導入している。
コロナ禍以降は電子図書館の需要が増え、300以上の地方自治体で導入が進んだ。
「電子図書館は人口6000万人をカバーし、ご利用いただける環境になっています。コロナで図書館も休館になり、各自治体で住民向けのサービスとして一気に普及しました」(五味英隆社長)
近年は新たな事業として、図書館の枠組みにとらわれない施設作りを地方自治体と共に行っている。代表的な事例が、福井県敦賀市の「ちえなみき」だ。敦賀駅土地活用の事業公募にて、丸善雄松堂が指定管理者及び設計監理業者として選定され、企画・内装設計・選書・運営まで請け負った。図書館でも書店でもない教育・文化施設、「公設民営書店」という新たな取り組みが具現化された。
こうした施設づくりで同社の強みとなるのが、質の高い選書ノウハウだろう。「ちえなみき」では一般書店と同じように本を並べるのではなく、地域住民が新たな本と出会えるような選書や棚づくりが工夫されている。今後も同様の事業は、地域創生の流れと共に伸びていく見込みだ。
デジタルシフトで利益率向上へ
新事業「丸善リサーチ」立ち上げ
同社の店舗・ネット販売の売上は約660億円と、国内書店でトップクラス。しかし紙の出版市場は1996年をピークに減少傾向にあり、閉店を余儀なくされた書店も少なくない。
「紙の書籍の市場が苦しくなっている中、デジタル強化に軸足を一つ置こうと思っています。その一環としてトライしているのが、新規事業領域の丸善リサーチです」(同氏)
「丸善リサーチ」は、昨年12月にリーガルテクノロジー(非上場・本社千代田区)とフォーセンス・パートナーズ(非上場・本社港区)との3社共同で事業を立ち上げた、専門家の調査業務の効率化を支援する会員制Webサービス。第一弾として、会計・税務分野での事業化に向けて取り組んでいる。会計士や税務士が専門書で行うリサーチを、電子書籍に切り替えて検索性を向上させる。さらに、簡単な引用機能などにより、業務の迅速化、質的向上をもたらす。月額課金で利用ができる。
「年内にはサービスを開始する予定です。将来的には会計・税務以外の分野にも展開していく。電子図書館や電子教材含め、今まで紙で販売していたものがデジタルに置き替わると利益率は上がっていきます。人口減少していく中、売上を維持し、どれだけ利益率を上げられるかが勝負になります」(同氏)
丸善ジュンク堂書店では、デジタル活用による店頭オペレーションの効率化・省人化を進めている。また、出版取次トーハンと、出版流通改革の共同プロジェクトも始動。流通での合理化を図り、書店の収益改善を目指す。
「丸善と言えば書店ですから、そのブランドポジションは維持していきます。市場の中でのプレゼンスは上がっていますし、集客も今年後半にはコロナ前に戻るでしょう」(同氏)
24年1月期は、売上高1670億円(前期比2・6%増)、営業利益35億円(同11・8%増)を計画している。デジタル戦略などにより収益改善を狙う五味社長だが、先行している文教市場販売セグメントをはじめ、来期の新中期経営計画の発表に向けて、策定を進めている。
「PERやPBRの指標も出ていますので、それにかなうよう5年後、10年後にこういう会社になりたいという目標を定量的な数字も含めて中計に盛り込みたい」(同氏)
2023年3月期 連結業績
売上高 | 1,627億9,900万円 | ─ |
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営業利益 | 31億2,900万円 | 23.4%減 |
経常利益 | 30億6,100万円 | 20.5%減 |
当期純利益 | 17億7,300万円 | 18.3%減 |
2024年1月期 連結業績予想
売上高 | 1,670億円 | 2.6%増 |
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営業利益 | 35億円 | 11.8%増 |
経常利益 | 34億円 | 11.0%増 |
当期純利益 | 20億円 | 12.8%増 |
※株主手帳23年11月号発売日時点