東芝再建の一角をなすキオクシアホールディングス(旧東芝メモリ)と米半導体大手のウエスタン・デジタル(WD)との経営統合が白紙に戻った。キオクシアとの関係強化を目指す韓国SKハイニックスが同意しなかったのが響いた。WDとSKの「綱引き」が長引けば、キオクシアの新製品開発や生産能力増強に遅れが出る可能性もある。

出資者の多さが意思決定の足かせに

同社株の40.64%を保有する東芝の経営再建にも影響を与えかねない。東芝自身も大株主だった複数のアクティビスト間で意思統一が図れず、再建が混乱。大株主を整理するため、TOBに踏み切った経緯がある。またしても出資者の多さが仇になった格好だ。

キオクシアはWDと協業しており、NAND(ナンド)型フラッシュメモリを共同生産している。そのため経営統合は容易で、競争が激しいNAND市場で生き残るための最善の手段と考えられていた。銀行団もこれを支持し、経営統合に当たっては1兆9000億円の融資を確約するなど極めて前向きだった。

経営統合が実現すれば、NAND市場の世界シェアは31.7%(キオクシア18.6%、WD13.1%)と、首位の韓国サムスン電子(33.7%)に迫る。スケールメリットが最大の競争力となる半導体事業では大きな前進のはずだった。

ただ、SKもNANDを生産しており、シェアはWDとほぼ同じ13.2%。キオクシアとWDの経営統合が実現すれば、サムスンとキオクシア・WD連合の2強に挟まれて市場競争が極めて厳しくなる。そこで、キオクシアへの間接出資の見返りとして与えられていた事実上の「拒否権」を行使した格好だ。


WDを立てればSKが立たず、さりとて…

一方、今回反対に回ったSKとの経営統合も考えられないわけではない。SKとキオクシアが経営統合すればシェアは31.8%となり、サムスンと十分に戦える規模になる。だが、これをWDが黙ってみているとは考えられない。

WDはキオクシアを買収しようとしたが、産業革新機構や投資ファンドの米ベインキャピタル、SKなどの日米韓連合に競り負けた。しかし、WDはキオクシアの四日市工場、北上工場の製造棟の全製造装置を折半出資しており、5割の所有権を保持している。SKとの経営統合となると、WDが保有する工場所有権の行方が混乱を招くのは必至だ。

東芝は経営危機に陥った際に多数の出資者から資金をかき集めた結果、経営の方向性が定まらずに混乱を極めた。キオクシアも複数の出資者を募った結果、同様の「迷路」に入り込んだ。解決策としては東芝のTOBのように出資者を整理して意思決定をスムーズにするしかない。

すでにWDとSKという利害関係者を巻き込んだ以上、どちらかに一本化したり他の企業に全面譲渡したりするのは極めて難しいと言わざるを得ない。東芝再建の重要なパーツだったキオクシアも、半導体需要の減速で赤字を計上する「お荷物」関係会社になりつつある。東芝の経営正常化に不透明感が増してきた。

文・M&A Online