HMI(Human Machine Interface)とは、人間と機械の間で情報をやり取りする際に伝達を担う部分の総称です。身近な例では、PCのディスプレイやスピーカーなどが挙げられます。
本記事では、HMIに関心がある方や今後導入を検討していく立場の方に向けて、具体例や関連する技術分野、導入する際に考慮すべきポイントなどについて解説します。
HMIとは?
はじめに、HMIの基本的な定義と昨今の市場動向について解説します。
HMIの定義
まず、HMI(Human Machine Interface)の用語の一部であるインターフェースについて見ていきましょう。インターフェースとは、複数のシステムや機器、ユーザーとの間で情報を仲介する役割を持つもの全般を指します。中でも、人間と機械(コンピューター)の間に立ってインターフェースとして機能するものがHMIです。人間と機械の仲介を担う機器やハードウェアを指すこともあれば、仲介の仕組みやソフトウェアをHMIと呼ぶこともあります。
具体的には、人間から機械に対して指示を与えるもの、機械から人間に情報を伝達するものの2つに大別できます。前者はPCのキーボード、マウス、ボタンなどが該当し、後者はディスプレイ、スピーカー、ランプなどが当てはまります。身近な例では、スマートフォンのタッチパネルは人間からスマートフォンに指示を与えるHMIです。一方で、自動車の運転席に搭載されているメーターは、燃料の残量や異常をドライバーに知らせるという点で、機械から人間に情報を伝達するHMIの一種といえるでしょう。
このように、私たちの生活には多種多様なHMIが身近に存在しています。近年は、技術の進歩によって大容量のデータ通信を伴うHMIも登場しており、VRや音声認識の機能を備えたものも出てきています。また、AIや脳科学の発達に伴い、HMIをより人間の感覚に近づける試みも進んでおり、今後も人々のニーズに即したさまざまなHMIが開発されていくと考えられます
発展しているHMI市場
年々拡大傾向にあるHMIの市場規模は、MarketsandMarketsのレポートによると2023年時点で52億ドルの価値があると推定され、2028年には77億ドルに達すると予測されています。市場規模の拡大が予想される要因として、産業の自動化により複雑な製造プロセスを緻密かつ効率的に管理するニーズが増えていることが挙げられます。
特に車載HMIの分野では、自動運転の実現に向けて高度な機能を備えたヘッドアップディスプレイが開発されています。例えば、ドライバーはスピードや燃料の残量などをメーターから把握していますが、ヘッドアップディスプレイを通じて情報をフロントガラスに映し出すことで、ドライバーの視線を切らすことがなくなり安全運転につながるでしょう。
また、近年はさまざまな業種で人手不足が深刻化しています。製造業も例外ではなく、製造工程を管理する熟練したオペレーターが不足しており、業務全体を効率化することが急務です。例えば、従来は目視で確認する必要のあった機器の異常を自動的に検知してオペレーターに知らせるHMIがあれば、より少ない人数で製造現場の業務を遂行できるでしょう。
技術の発展に加えて、人手不足といった社会情勢もHMIニーズの高まりにつながっており、今後もHMIの市場が拡大していくことが予想されます。
HMIの具体例
HMIは業界業種を問わずさまざまな分野で広く活用されています。ここでは、HMIが利用されている事例について、代表的なものをいくつかピックアップして紹介します。
自動車
自動車業界はHMIの活用が積極的に検討されている領域の1つといえるでしょう。特に、近年は自動運転の実現に向けてさまざまな技術開発が行われており、HMIも自動運転を実現するための重要な技術とされています。ここでは、ドライバーと車をつなぐインターフェースである車載HMIを例に見ていきましょう。
車載HMIは、ADAS(先進運転支援システム)において特に重視されています。ADASでは、あくまで運転の主体は人間であるため、車載HMIを経由してドライバーと車の円滑なコミュニケーションが求められるのです。具体的には、周辺の交通状況や事故防止のための注意喚起、警報などがドライバーにわかりやすくかつ即時に伝わる必要があります。そのため、従来のメーターや警告音といった手段に加えて、AIによる音声や画像の認識、VRによる情報伝達など最新技術を用いたHMIの開発が進められています。
一方、タッチパネルによる操作が一般的なものとなりつつある中で、ドライバー観点での操作性を維持するために、物理的なボタンなどを始めとした旧来のHMIを残すケースもあります。HMIの目的は機械と人間の円滑なコミュニケーションにあるため、その目的達成のために意図的に最新技術を使わないこともあるのです。
PC・スマートフォン
PCやスマートフォンは、最も身近なHMIだといえるでしょう。PCはキーボードやマウスの操作によって指示を与えることができます。また、スマホは画面タッチによって操作が可能です。これらはユーザーとなる人間からPCやスマホといったデバイスに指示を与えるHMIといえます。また、キーボードやタッチパネルといった基本的なHMIに加え、音声認識によって自動的に検索結果を表示したり、表示したWebサイトを読み上げたりするものも一般的になってきました。
ガラケーと呼ばれる旧式の携帯電話ではボタンによる操作が主でしたが、スマートフォンにおいてはより感覚的に操作できるタッチパネル方式が採用されていることから、HMIがより人間の感覚に近づいてきているといえます。今後、PCやスマートフォンのHMIは、より人間同士のコミュニケーションに近い形に発達していくでしょう。
SCADA
SCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)とは、製造業などの現場において各所に配置された多数のセンサーから集まった情報を収集し、設定されたパラメーターに即した制御を行うシステムのことを指し、日本語では監視制御システムと訳されます。製造業においてはトラブルにより数時間製造ラインが停止するだけでも莫大な損失が発生するリスクがあり、その点でSCADAの果たす役割は大きいといえるでしょう。
SCADAにおいては、製造ラインの稼働状況や異常発生時の警告などがHMIを通じて正確かつ迅速に管理者に伝達されることが重要です。SCADAによる状況把握には、工場内に設置されたセンサーから得られる情報が重要な役割を果たします。そのため、SCADA向けに開発されたソフトウェアには、設備の稼働状況が一覧でわかるダッシュボードや収集したデータの分析、レポート出力機能などが備わっています。
人間である管理者に対して円滑なコミュニケーションや情報提供を実現するために、今後はSCADAにおいても、より高度なHMIの仕組みが要求されるでしょう。
HMIが関連する技術分野
HMIは広い分野で活用されているため、関連する技術分野も多岐に渡ります。ここでは、HMIと関係の深い技術分野について代表的なものを紹介します。
HMIとエッジ コンピューティング
システムの制御をクラウドから行うクラウドコンピューティングに対して、現場に分散して設置したコンピュータから制御を行うのがエッジコンピューティングです。
エッジコンピューティングもHMIと深い関わりがある分野です。例えば、製造業の現場ではIoTセンサーを用いて膨大な音声や画像のデータを収集し、製造ラインの異常検知に役立てています。このとき、迅速な異常検知のためにデータの収集や分析をエッジコンピューティングで行うことがあります。素早い情報伝達が必須となる領域においては、データの伝送に時間を要するクラウドコンピューティングではなく、エッジコンピューティングの方式が採用されることが多い傾向です。
エッジコンピューティングによって収集及び分析されたデータは、SCADA上のダッシュボードやレポートというHMIを経由して管理者に提供されます。このように、エッジコンピューティングとHMIの間にも密接な関係があるのです。
HMIとAI
HMIにより高度な機能を持たせるためには、AIは欠かせない技術だといえるでしょう。HMIは人間と機械をつなぐハブであり、本来はお互いにコミュニケーションが取れない者同士をつなぐことが役割です。しかし、人間から機械に対して出される命令は曖昧な要素が含まれ、必ずしも正確ではないケースが多々あります。
そのような中で出現したのが、制御する機器の情報や操作方法をあらかじめ学習し、ユーザーからの指示を補完するAIです。このAIを活用することで人間から発せられる抽象的な指示が機械側で理解できる形に補完され、より迅速な動作につながることが期待できます。
さらに、近年は画像認識や音声認識といった分野でもAIの精度が高まっており、機械と人間の間でより円滑なコミュニケーションが実現する環境が整いつつあります。
HMIと脳科学
HMIは脳科学の分野とも関わりがあります。人間から機械への指示は脳からの指示であるともいえることから、機械をより人間に近づけることでより高度なHMIを実現しようとする技術がBMI(Brain Machine Interface)です。
例えば、人間は卵を割らずにつかむことができますが、機械が同じことをするためには脳の動きを再現した形で指示を出す必要があります。このとき、卵を割らない程度の力加減を機械側に伝達することができれば、理論上は卵を割らずにつかむロボットハンドも実現可能なのです。
現在は脳にセンサーを埋め込んで機械を制御する実験などが行われており、実用化への道が探られています。しかし、脳の動きが複雑であることやまだ解明されていない部分も多いことから、BMIはまだ研究途上であり、実用化までには時間がかかるでしょう。
HMI導入において考慮すべきポイント
ここでは、自社のビジネスにHMIを導入することを想定して、導入を検討する際に考慮すべきポイントについて解説します。
導入の目的を明確にする
HMIに限らず新たな技術を導入する際に注意すべきなのは、導入することが目的とならないようにすることです。HMIの導入目的は業界やビジネスの形によって多岐に渡ります。HMI導入の背景には、必ず組織として達成したい目的やありたい姿があるはずです。
例えば、製造業であればSCADAのシステムにHMIを備えることで製造ラインの停止リスクを減らすことが目的となりますし、建設業界であれば現場監督の管理業務効率化による働き方改革などが目的となるでしょう。HMIの導入を検討する過程においては、定期的に当初の目的に立ち返ることが重要です。
現行業務の課題を把握する
HMIの導入にあたっては、現行の業務にどのような課題があるのかを正確に把握することが重要です。例えば、設備管理のビジネスにおいてはトラブル発生時の情報伝達が人手を介したものになっている、トラブルの予兆検知がベテランの知見に依存しているなどの課題が考えられます。一方で、BtoCのビジネスであれば、消費者向けECサイトの検索性なども課題になりうるでしょう。
現行業務の課題を正しく理解するためには、現場を担う部門や担当者に入念なヒアリングを行うことが重要です。また、HMIが課題解決にどのように貢献するのかを丁寧に説明し、協力が得られる関係性を築いておくことも必要になるでしょう。
費用対効果を検証する
高度なHMIをビジネスに導入するためには、費用対効果の検証も欠かせません。当然ながらHMIをはじめ、新たな仕組みを導入するためには、導入にかかるイニシャルコストと長期に渡って運用するためのランニングコストがかかります。場合によっては、導入コストが期待されるコスト削減効果を上回るケースもありうるでしょう。
また、導入コストは自社でHMIを開発するのか、他社に外注するのかで大きく変わります。さらに、経営層の理解を得るためにも、HMIに対する投資をどれぐらいの期間で回収したいのかも含め、幅広い観点で費用対効果を分析する必要があります。
ユーザー部門との調整は早い段階で行う
大前提として、HMIを実際に使うのは現場で業務を遂行する部門であることを忘れないようにしましょう。企業によっては新たなソリューションを導入する際に、企画する部門とユーザーとなる部門が異なる場合があります。
よく見られる失敗例は、企画部門が前のめりにソリューションの導入を進めた結果、現場の意見が反映されず結果的に手戻りや失敗につながるというケースです。いくら高性能な機能を備えていたとしても、ユーザーにとって使いにくいものであれば、有益なHMIとはいえません。
HMIの導入にあたっては、どの製品をどのような目的で導入するかという基本的な議論の段階からユーザーとなる部門の意思決定者に参画してもらい、合意形成を進めることが成功のポイントになるでしょう。
HMIの発達によって予想される未来
HMIの発達によって、これからどのような未来がやってくるのでしょうか。
今後は、技術の進歩に伴いHMIの高度化と普及が急速に進んでいくことが予想されます。例えば、スマートフォンは10年程度の期間で急速に普及しましたが、これは従来のボタン操作に代わってタッチパネルというHMIが人々の支持を得たことが主な要因といえます。
音声や画像認識を通して特定の動作を行うHMIはすでに存在しているため、より人間の感覚に近いHMIが生み出されていくでしょう。年々拡大傾向にある市場規模からも、今後もHMIに強いニーズがあることがわかります。
HMIの潜在的な市場規模を背景に、HMIを高度化するための研究投資や技術開発も継続されることが予想されます。より人間の感覚に近いHMIが、スマートフォンのように爆発的に普及する時代は近いかもしれません。
HMIのニーズは今後も高まっていくことが予想される
HMIは人間と機械のコミュニケーションを司る役割を持ち、年々拡大する市場規模にも表れているように今後も大いに発展の余地がある分野です。特に、今後より一層の高度化が期待されている自動運転の領域ではHMIが重要な役目を果たすでしょう。
また、HMIはAIやエッジコンピューティングなどの技術分野とも関係が深く、これらの技術の進歩に伴いHMIが実現できることも増えることが期待できます。さらに、発展途上ではあるものの脳科学の発展もHMIの高度化に大きく寄与するでしょう。
このように大きな可能性を秘めているHMIですが、ビジネスに取り入れる際には、正確な課題認識やユーザー部門との合意形成など留意すべきポイントもあるため注意が必要です。
本記事を通して、HMIについて知るとともに、ビジネスで活用するためのきっかけにしていただければ幸いです。
(提供:Koto Online)