SDGsが叫ばれる中、燃料が高騰しています。コスト管理と同時に環境への配慮が求められている昨今では、使用するエネルギーの適正な管理が求められています。エネルギーマネジメントと呼ばれる活動は、燃料や電気の使用状況を把握し、コントロールしなければなりませんが、なかなか手間のかかる作業です。

そこで、それらを容易にするエネルギーマネジメントシステム(EMS)が注目されています。この記事ではEMSとは何か、その内容と種類、メリット、デメリット、事例などを紹介し、エネルギーマネジメントシステム導入のために役立つ情報を提供します。

目次

  1. エネルギーマネジメントシステム(EMS)の基本と重要性
  2. EMSの種類と特徴
  3. EMSのメリット
  4. EMSのデメリット
  5. EMSの導入事例
  6. EMSを活用した改善施策
  7. EMSの将来性について
  8. まとめ

エネルギーマネジメントシステム(EMS)の基本と重要性

エネルギーマネジメントシステムとは?注目の理由と事例
(画像=woravut/stock.adobe.com)

まず、EMSとは何かという点と、それが注目される理由と背景について解説します。EMSが何のために存在して、どのような働きをするのかということを理解しておきましょう。

エネルギーマネジメントシステム(EMS)とは?

エネルギーマネジメントは、自社の施設におけるエアコンなどの熱交換機器や照明設備などのエネルギー使用状況を把握して最適化する活動を指します。エネルギーマネジメントシステム(EMS)はそれを支援するためにITを活用したシステムのことです。

EMSは、センサーや制御機器を活用してエアコンや照明などの機器を監視あるいは制御します。これにより、エネルギー使用のパターンやピーク時を把握でき、効果的な節電策が可能になります。また、予測分析をして制御を行い、施設全体のエネルギー消費を最適化できます。EMSは持続可能な経営を追求する企業にとって欠かせないシステムです。

EMSが注目される理由や背景

EMSが注目される理由としては、地球環境の変化と持続可能な開発目標(SDGs)への意識の高まりが挙げられます。直近ではそれに燃料費、電気料金の高騰が拍車をかけました。

図1.家庭用電気料金の推移

EMS
出典:発受電月報、各電力会社決算資料を基に作成
原油CIF価格:輸入額に輸送料、保険料等を加えた貿易取引の価格
引用:経済産業省 資源エネルギー庁(日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」)より

企業がエネルギーの使用状況を可視化し、管理できるようになると、コストの削減や環境への貢献が可能です。ESG経営に取り組んでいるかどうかが企業にとって重要な評価の対象となってきた現代では、EMS導入の重要性が増しています。

また、エネルギー価格が不安定な時代にあって、対応する手段としてEMSの導入が考えられます。EMSが注目される背景には、企業の持続可能性に対する社会的・経済的な要請が影響しているのです。

EMSの種類と特徴

EMSにはいろいろな種類が存在します。EMSの種類にはBEMS、HEMS、FEMS、MEMS、CEMSなどがあり、それぞれのニーズに対応するための機能が提供されています。

EMSの種類読み方概要
BEMS
(Building Energy Management System)
ベムスオフィスや商業施設などが入るビルのエネルギー使用量を一元的に管理・分析して、ビル全体でエネルギー使用量の最適化を図る
HEMS
(Home Energy Management System)
ヘムス家庭内の電気機器による電気の使用量や稼働の状況をモニターで可視化して消費者が自分で管理できる
FEMS
(Factory Energy Management System)
フェムス受配電設備、生産設備のエネルギー管理や使用状況の把握を行い、機器を制御して工場全体の消費エネルギーを適正化する
MEMS
(Mansion Energy Management System)
メムスマンションの建物内で使用されるエネルギーを一元化して一括管理する
CEMS
(Community Energy Management System)
セムスHMESやMEMSなどで行われているエネルギーの一元管理を地域(Community)全体で行う

以下、各EMSについて詳しく説明していきます。

BEMS

BEMS(Building Energy Management System)は、オフィスや商業施設などが入るビルのエネルギー使用量を一元的に管理・分析して、ビル全体でエネルギー使用量の最適化を図るためのシステムです。

BEMSは「ベムス」と呼ばれており、「ビルエネルギー管理システム」と称されています。ファクトリーオートメーション(FA)の類義語のような使われ方もされており、「ビルオートメーション(BA)」と呼ばれることもあるようです。

BEMSはビル内の必要な箇所に機器制御装置、温度センサー、人感知センサー、中央制御装置を設置し、照明や空調を制御するものです。業務用ビルからのCO2排出量は日本のCO2排出量全体の約1割を占めるといわれており、省エネ法では一定規模以上の事業者に中長期計画を策定し、エネルギーの使用状況などを報告するよう義務付けています。そのため、多くの建設会社やビル管理会社、電機メーカーがBEMSを開発しています。

HEMS

HEMS(Home Energy Management System)は、住宅で消費されるエネルギーを管理するためのシステムです。家庭内の電気機器による電気の使用量や稼働の状況をモニターで可視化して消費者が自分で管理できるようにしたものです。

HEMSは「ヘムス」と呼ばれていて、国内の家電主要メーカーはほぼ取り扱っています。HEMSの仕組みは、分電盤に電力測定装置を取り付け、HEMSに対応した各家電をネットワークに接続し、タブレット端末などで家庭内のエネルギー使用状況を管理します。

一般家庭が使用するエネルギーを可視化して一元管理するという点ではBEMSと同じですが、HEMSに対応している機器が少ないのと、コストが課題になっています。

FEMS

FEMS(Factory Energy Management System)は「フェムス」と呼ばれており、工場内のエネルギーを継続的かつ最適に管理するためのシステムです。受配電設備、生産設備のエネルギー管理や使用状況の把握を行い、機器を制御して工場全体の消費エネルギーを適正化します。

ここまではBEMSやHEMSと同じですが、FEMSの場合、使用電力量の予測を行い生産計画に反映できる点が特徴です。FEMSから得られるデータを常に監視することで、設備そのものの無駄な部分や使い方があれば明らかになっていくため、製造活動の改善につなげられます。

MEMS

MEMS(Mansion Energy Management System)は、マンションの建物内で使用されるエネルギーを一元化して一括管理するシステムです。

MEMSは「メムス」と呼ばれており、これが導入されたマンションはスマートマンションと呼ばれており、エネルギー使用量を適切なレベルにします。

各戸ごとに電力契約をせず、マンションで一括受電契約をすることにより電気料金を削減する仕組みを構築できます。これは、各戸がモニターで電気の使用量を確認できるようにし、ピークシフト料金制度を設けて節電を促したり、機器単位での制御によって、更なる節電をしたりする仕組みです。

また、太陽光発電設備や蓄電池などを備えて非常時の対策を図ることもできます。

CEMS

CEMS(Community Energy Management System)は、HMESやMEMSなどで行われているエネルギーの一元管理を地域(Community)全体で行うシステムです。

これまでご紹介してきたように単独の施設のEMSであるBEMS、HEMS、FEMSで管理された各施設が同一の地域に存在する場合に、全体を取りまとめて連携したマネジメントをすれば、更なる効果が得られます。CEMSは単なる省エネではなく、「エネルギーの地産地消」をめざそうという発想が盛り込まれています。

太陽光発電や風力発電、燃料電池、蓄電池などの不安定な電源による需給アンバランスや逆潮流による電力品質問題を解決し、商用電源とのバランスを保ちます。

さらにそれぞれの施設のEMSで適切なエネルギー量に調整され、地域全体でCO2排出削減を実現するとともに非常時のエネルギー対策も兼ねようというものです。

EMSのメリット

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(画像=YouraPechkin/stock.adobe.com)

ここではEMSのメリットについて述べていきます。

消費エネルギーの可視化(見える化)

EMSは消費したエネルギー量を可視化します。EMSがない場合は、使用量と料金の通知でかなり後からしか知ることができませんが、EMSはリアルタイムでみられます。しかもその使用エネルギー量からどれくらいのCO2を排出したのかが計算できるため、環境への負荷の程度を知ることができるのです。

使用エネルギー量がどの程度なのかデータで知れば対策を立てやすいし、環境への貢献度も報告しやすくなります。実行した対策のチェックもできて次の行動に移せます。

EMSによる消費エネルギーの見える化は無駄なエネルギー消費を抑える人の行動を支援できるようにするのです。

非効率なエネルギー活用の把握(わかる化)

EMSでは、個々の機器にセンサーを付けてエネルギーの使用状況を把握するため、過去の情報と比較できます。省エネルギーのために対策をとったにもかかわらず、思ったように削減できていなかったり、逆に増加していたりする場合はその機器に何らかの原因があると考えられます。

このように、EMSによって機器ごとのエネルギー効率を把握でき、問題点が「わかる化」されればメンテナンスや機器の買換えの意思決定に役立てられます。完全に使えなくなってしまうまでメンテナンスや交換が後回しにされがちな機器類でも、業務に支障が出る前に手が打てるので業務効率全体に対してもメリットがあります。

エネルギー運用の最適化(最適化)

前段で個々の機器のエネルギー効率を把握できる点を述べましたが、古くて非効率な機器であっても全体のバランスを見て制御技術によりエネルギー運用の最適化ができます。

問題点を発見して対策を打てるのがEMSのメリットの一つであることを述べましたが、最終的には全体を制御して「最適化」できます。このようにして、見える化、わかる化、最適化のサイクルを回し、常に最適なエネルギー運用ができるのがEMSのメリットなのです。

EMSのデメリット

いいことづくめのEMSでもその導入にはいくつかの障壁があります。ここでは、EMS導入にあたってのデメリットについて解説していきます。

初期の導入コストが大きい

EMSが導入したくてもやはり最初にコストの問題が立ちふさがります。初期投資もそうですが、運用コストもかかることを計算に入れておかなくてはなりません。投資に対する省エネの経済効果を慎重に見極めることになりますが、予測は難しいものとなるでしょう。

初期投資は経済産業省の補助金を活用できますし、運用コストは専門家へ相談できます。多額の投資をしてそれに見合う効果が得られなければ、導入する意味がありませんので見極めが大切です。

EMSが設備の使用とマッチしない場合がある

自社工場にEMSを導入したいと思っても、使用している設備機器の仕様がEMSに適合していなければ、全体としての導入が難しくなってくる場合があります。

EMSを導入するために買い替えることができるのならそれでも良いのですが、特殊な設備機器だとデータの計測が難しいなどの問題が起こります。EMSの専門事業者に相談して、できるところから始めてみるのもよいかもしれません。

専門知識が必要

EMSが導入されてもそれを効果的に運用するには専門知識が必要です。設備ごとのデータを分析し、その結果を設備機器の運用に反映させるためには、エネルギー全般や電力に関する知識、関連法規、さらにはICTの知識も必要になるでしょう。

社内に専門家がいない場合にはEMSの専門事業者に相談しましょう。

EMSの導入事例

EMSは、導入していない企業からすると、どのような機器があってどのように運用されているのか、説明を聞いてもなかなか想像が難しいでしょう。ここではEMSの導入事例を2つ紹介します。

富士電機

富士電機山梨工場では半導体のチップを製造しています。半導体の製造には非常に多くのエネルギーを使用するため、省エネは常に課題となっていました。さらにこの工場は24時間稼働することから、落雷や動物の侵入などによる停電でラインが停止すると、大きな損害が生じてしまいます。こうした課題を解決するため、電気と熱エネルギーを最適に運用するための仕組みを導入したのです。

富士電機では、見える化、わかる化、最適化の3つのステップでエネルギーマネジメントを行いました。

見える化では、各所に取り付けられたセンサーでデータを収集、専用のソフトウェアで解析。わかる化では、蓄積された実績データをあらゆる方向から分析します。無駄なエネルギーが放出されている箇所を発見できたら、直ちに対策を打っていきました。最適化では、AIを使用。蓄積されたデータを元に直近のエネルギー需要を予測するのです。そしてエネルギーの使用量が最小になるように設備機器類の運転計画を立てました。

こうしたEMSの運用によって、富士電機山梨工場では5年間で34%のエネルギー使用量削減を達成したといいます。

日本発条

日本発条はばねの世界的メーカーとして有名です。ハードディスクドライブ内のサスペンションを作っており、世界シェアは40%にも及びます。長野県駒ヶ根市にある駒ヶ根工場がそれを製造するDDS(Disk Drive Suspension)事業部になっています。

駒ヶ根工場ではエネルギー監視・制御ソリューションシステムを導入、電力を集計して、省エネのための改善活動を評価するツールとして活用を始めました。このシステムは、工場内の各変電所の電力計より収集されたデータを無線で受信機に送り、そこからLAN経由で集計用コンピュータまで送信、各種分析や予測を行うというものです。

このシステムによって、向こう30分間の電力需要予測、過去の電力使用実績の把握、ひっ迫度の把握をグラフなどで確認できるようになり、短時間で省エネ改善効果が分かるようになりました。これは従業員の省エネ意識を向上させることにつながったのです。

EMSを活用した改善施策

EMSは全くのお任せで自動的に省エネを実現するものではなく、自分たちがどれくらいエネルギーを消費しているのかを可視化して、わかり、最適化するプロセスを回していくことがポイントです。ここではEMSを活用した改善施策の代表的なものを4つ紹介します。

ダウンサイジング

EMSでデータが可視化したことによって、これまで使用してきた設備がオーバースペックだったという事実が判明する場合があります。設備機器のダウンサイジングをして省エネルギーが実現されるのが分かればすぐに実行でき、効果もそれなりにあるのではないでしょうか。

チューニング

EMSでデータを収集した結果、機械の運転時間や、その環境温度を見直せば、省エネにつながるという事実が発見される場合があります。既存設備のチューニングで省エネが実現できるということを人間が発見するのは困難です。これもEMSの利点といえるでしょう。

コミッショニング

すでにある設備機器は、その性能を100%発揮するための本来の使い方をされていない可能性もあります。EMSで得られるデータから運用の方法、調整の仕方を検討できます。

ピークカット

電気の基本料金は、過去1年間で最も多く使った量によって決まります。ということは過去最も多く使ったのがいつなのかを知り、その時期の電気使用量を抑えることで基本料金を下げられるのです。これをピークカットといい、効果の大きい節電の代表的な方法ですが、EMSによって最大になりそうな日時を特定して、そこに集中して節電を行えます。

EMSの将来性について

EMSの市場は、今後も成長が見込まれています。商業施設の大規模化や、中小規模の企業、医療法人などが合併などで大規模化していく傾向にありますが、これらがEMSの普及を推し進めていくとみられています。またEMSとAIが連携して大規模に省エネルギーを進めようという試みも始まっています。

AIとの連携可能性と未来展望

図2.AI電熱供給システム制御図

EMS

大規模な施設や、地域冷暖房施設などでは、冷水と温水を供給することによる冷暖房システムが普及しつつあります。これを運転するのは人間ですが、将来の人員不足や経験が必要となることから、これに代わる効果的な方法が研究されてきました。

そこでAIによって30時間先までの需要予測から運転計画を立案すれば、人間の運転より高い省エネ効果が得られることが確認されています。

まとめ

EMSは、時代の要請によって生まれたシステムといってもよいくらい、現代に必要不可欠なものとなっています。先進的な物珍しさではなく、EMSを導入していないとエネルギーの無駄が生じてしまうという考え方に変わっていくのではないでしょうか。

こうなるとEMSは「必需品」となる日が来るかもしれません。そして、将来はEMSとAIの連携によってますます省エネルギーが進展していくでしょう。

(提供:Koto Online