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(画像=王子ホールディングス株式会社)
佐藤 修(さとう おさむ)
王子ホールディングス株式会社 グループ人事部長
1999年に、王子製紙株式会社に入社。王子グループ数社にて、人事・労務関連の業務を中心に経験し、2014年4月より、王子マネジメントオフィス㈱(主要事業:王子グループの経営支援に関わる業務)グループ人事本部に所属。2021年4月より現職。
王子ホールディングス株式会社
渋沢栄一の提唱による「抄紙会社」設立から150年。王子グループは「革新的価値の創造」、「未来と世界への貢献」、「環境・社会との共生」を経営理念に掲げ、グローバル企業として「森を育て、森を活かす」ものづくりを展開。健全に育てられた再生可能な森林資源を活かし、現在は製紙事業にとどまらず、セルロースナノファイバー、バイオマスプラスチック、医薬品等、環境・人にやさしい新素材・新製品の開発を進め、持続可能な社会への貢献に取り組む。

目次

  1. 人的資本経営に対するこれまでの取り組み
  2. 人的資本経営の取り組みで苦労した点と、乗り越えるための施策
  3. 取り組みを行う前後の変化や取り組み後の反響
  4. 投資家や従業員の皆様へのメッセージ など

人的資本経営に対するこれまでの取り組み

王子グループは昨年150周年を迎え、日本で一番最初の株式会社と言われています。当グループの設立者である渋沢栄一氏の著書『論語と算盤』にある、「経済と倫理、道徳が合致しなければならない」という考えを基に、高い倫理観を人財理念として掲げています。人財理念を達成するために3つの基盤を設定していて、コンプライアンス・安全・環境の徹底、人権の尊重・インクルージョン&ダイバーシティ、人財活用を重要視しています。

これらを体現するために2014年から、時代に先駆けて働き方改革に力を入れており、特に総労働時間の削減を図っています。当時、周りからは無理だとの声もありましたが、経営陣は生産性の向上を目指し、労働時間の長さにとらわれない働き方を推進しました。具体的な施策として、80%以上の出勤日は19時までに退社するようにしています。また、本部長の承認があれば、19時を超える残業は可能ですが、22時以降の深夜残業や休日出勤は禁止です。他には、有給取得率80%以上を掲げ、本社地区では、8月15日を含む1週間を年休奨励日としています。部門ごとの総労働時間を適宜確認するようにして、全社的に働き方改革の意識が根付くように取り組みました。この結果、2013年度は2050時間だった一人あたりの年間総労働時間を、2014年度には1966時間まで削減しました。また、現在は1850時間を目標としていますが、2017年度から6年間連続で達成しています。

他にも、人事・賃金制度も大幅に見直しし、役割等級制度を導入しています。これにより、従業員が発揮した役割、成果の大きさに応じた処遇が可能となり、優秀な人財が早期に抜擢されるようになりました。また、65歳定年制や認定研究員制度など、さまざまな従業員のための制度が導入されています。

さらに、女性活躍にも力を入れており、女性管理職比率の向上を目指しています。新卒採用では女性総合職を30%以上にする目標を掲げており、毎年その水準をクリアしています。今後も女性の新卒採用やキャリア採用を通じて、女性管理職比率の向上に取り組んでいく予定です。

このような取り組みを通じて、従業員一人ひとりが責任感を持って活躍し、能力を最大限に発揮できる環境が整いつつあります。また、今後も多様な価値観や発想から、クリエイティブな成果を通じたイノベーションが実現されていくと予想しています。これにより、人財理念を体現できる人財の確保や育成ができ、持続的な企業価値の向上につながると考えています

王子ホールディングス株式会社
(画像=王子ホールディングス株式会社)

人的資本経営の取り組みで苦労した点と、乗り越えるための施策

前述した働き方改革を推進する際、経営陣の考え方を、従業員の皆さんに納得してもらうまでに、いくつか苦労することがありました。ただ、取り組む理由を従業員の皆さんに腹落ちさせるための特効薬はありませんので、各グループ会社の人事担当者など関係者が、従業員や労働組合など、さまざまな方々と長い時間をかけて対話を重ね、より良いのものに見直しをしてきました。現在では、労働時間の長さにとらわれない働き方や、発揮された役割の大きさに応じて処遇されるということが、企業文化としてグループ全体に浸透しています。

また、新たな取り組みとして、昨年度より、グループ公募制度を実施しています。2022年度では、王子マネジメントオフィス㈱に新設したグループ事業開発本部の各部門やインドエリア海外駐在員などを対象に実施し、多数の応募の中から、書類選考と面接に合格した19名が異動しました。2023年度も重点事業数部門にて、公募を実施し、合格者が決まったところです。グループ公募制度は、事業強化だけでなく、従業員の自律的なキャリア形成の促進とエンゲージメントの促進にも寄与していると考えています。

取り組みを行う前後の変化や取り組み後の反響

総労働時間の減少に伴う、従業員からの反応は様々でした。長く働くことが可能な環境にある方々からは、急に働く時間を短縮させるのは無理だというネガティブな意見もありましたが、時間の制約がある子育てや介護を抱えている方々からは、ありがたいという声もたくさんいただきました。

以前は、長く働いている方が、高い評価を得る傾向があったのですが、働く時間ではなく、生産性や発揮した役割の大きさという観点で、上司は評価する、そして、私たちは評価される、という考え方が根付いたと感じますし、これらの考えが根付いたことで、以前よりも、公正で公平な評価につながっていると感じています。一方で、定年延長に関しては少し課題があり、65歳まで現場で三交替勤務を続けるのが厳しいという意見もあります。

そこで今後は、DX推進により、現場でも間接部門でも、省人化及び省力化を図りながら、新たな価値を生み出すことが必要になってきますので、DX推進に向けて、該当部署や周辺部署との対話を続けながら現場の声をなるべく聞いて、人事部門として、人財育成に力を入れていきたいと思います。

投資家や従業員の皆様へのメッセージ など

それでは、まず投資家の方々向けのメッセージについてお話しします。私たちは人的資本の強化に取り組むことで、持続的な企業価値の向上につながると信じております。この持続的な企業価値の向上を通じて、投資家の皆様に貢献できることを願っておりますので、私たちの取り組みに引き続きご注目いただければと思います。

次に、従業員の皆様に対するメッセージとして、私たち人事部門は、人的資本の強化に取り組む理由を従業員の皆様にも理解していただくため、対話の機会を設けております。王子グループは、「企業の力の源泉は人財、人的資本にあり」を大原則としており、企業と従業員が対等な立場で相互に学習・成長し高めあう関係がベストだと考えています。今後も、対等な立場で、対話を重ねることで、より皆様が、王子グループで働くことに誇りを持ち、働きがいを感じることのできる企業となれるよう、模索していきたいと考えております。

氏名
佐藤 修(さとう おさむ)
企業名
王子ホールディングス株式会社
役職
グループ人事部長