この記事は2024年2月4日に青潮出版株式会社の株主手帳で公開された「日本コークス工業【3315・プライム】」を一部編集し、転載したものです。


コークス製造大手、粉粒体機器など多角展開
収益力強化し25年度連結経常利益90億円へ

日本コークス工業は、製鉄プロセスや金属精錬に不可欠なコークス製造販売事業を主力とし、燃料販売や資源リサイクル、機械設備の販売など多面的な事業展開を行っている。2022年度は連結経常赤字を計上したが、23年度は黒転の見込み。23~25年度の事業計画ではコークス事業の収益力強化施策などを推進し、25年度連結経常利益90億円、ROE(自己資本利益率)8%超を目指す。

▼松岡 弘明 社長

日本コークス工業【3315・プライム】
(画像=株主手帳)

長期契約締結により
高炉メーカーへ安定供給

日本コークス工業は、製鉄所の高炉の燃料や還元剤として使われるコークスを製造・販売する。1889年創業の国内最大の石炭採掘会社、三井鉱山を起源とし、1950年代後半にコークス事業に参入。2003年から産業再生機構の支援を受けて経営再建を進め、08年から現日本製鉄(当時の社名は新日本製鉄)と住友商事の持分法適用会社となった。

現在、3つの事業を柱に展開。主力の「コークス事業」は売上構成比6割強を占める。原料の石炭(原料炭)を輸入し、自社コークス炉で約1200℃の高温で乾溜(蒸し焼き)する。生成されたコークスは国内の製鉄会社や非鉄金属会社など、海外は東南アジアや中国、インドなどに出荷される。

同社は大手顧客との間に長期契約を締結。変動はあるが、長期的に見てコークス全体量の過半を国内高炉メーカー等の安定顧客に供給する。

「国内の高炉メーカーは製鉄の原料であるコークスを自社で製造し、自給率は高い。ただ、製鉄業は巨大な装置産業なので高炉やコークス炉を定期的にメンテナンスしなくてはならない。そういう時の生産のピークダウンを埋めるため、当社がコークスを安定的に供給するのです」(松岡弘明社長)

第2の柱の「燃料・資源リサイクル事業」は、売上比率約3割を占める。同セグメントのうち燃料販売部門では、石炭や石油コークスを世界各地から調達し安定供給する。一方、資源リサイクル部門では、主に九州地区で廃棄物処理業、石炭灰を中心とした産業廃棄物処理の仲介業を行う。

第3の柱の「総合エンジニアリング事業(化工機事業)」は売上比率約1割を占める。同社の粉体加工技術を活用した粉粒体機器やソリューションを提供している。

ウクライナ情勢影響だが
24年3月期は利益黒転へ

同社の2023年3月期の決算は、売上高1740億6200万円、営業損失3億9700万円だった。ウクライナ情勢の長期化や為替相場の変動などを背景に、主力の「コークス事業」が原料炭市況の急騰と、その後の市況急落による割高在庫影響などによって減益となった。2024年3月期については、売上高1590億円、営業利益63億円を予想する。コークス事業は業績回復し、他事業も堅調に推移する見込みだ。

「鉄鋼大手の高炉は効率を上げるための優れた製造プロセスを有しています。コークスに代わる材料はそう簡単に作り出せないのが現状であり、将来像としてコークスの需要はあると見込んでいます」(同氏)

工場新設と販売見直しで
収益力の強化を図る

同社は現在、2023~25年度の事業計画を進めている。最終年度の25年度の連結経常利益90億円を掲げ収益力を強化していく方針だ。

「コークス事業」については、北九州事業所の2Aコークス炉更新工事が進んでいる。24年9月から稼働開始を予定で、製造コスト削減を進め収益力向上を図る。

また、販売政策を見直し、市況変動など外部環境に大きく左右されない収益力の強化を目指す。

「コークスの販売には、コークス製品の市況価格に連動して売る方法と、仕入れる原料炭の価格にリンクさせる販売があり、それぞれ一長一短があります。ただ昨今の市況高騰とその後の急落は未だかつてない経験でしたので、これを機に仕入れる原料炭の価格にリンクさせる売り方に切り替えていき、マージンの安定化を図りたいと考えています」(同氏)

「燃料・資源リサイクル事業」では、既存インフラを活用し、石炭の代替としてバイオマス燃料の取扱いを拡大し顧客の燃料転換を支援する。「総合エンジニアリング事業」では、電子、電池、樹脂等の成長分野への事業展開を強化し、新規領域市場の拡大に挑む。

一方で新たなエネルギーとして期待されている水素の製造・販売を検討している。伊藤忠商事やベルギーの海運会社CMBと水素地産地消モデル事業の共同事業化調査に合意。コークス製造時に発生するコークス炉ガスから水素を抽出し、CMBが開発した水素混焼エンジンを搭載した船舶に供給する事業の開発調査を行っている。

「水素は今、クリーンエネルギーとして注目されています。また当社はコークス製造の副産物であるアンモニアなどを製造・出荷するインフラを持っています。今後は石炭、コークスを中心に据えながら『複合的なエネルギーの会社』を目指していきます」(同氏)

コークス事業会社の現状
国内では同社と三菱ケミカルグループ、関西熱化学の3社がコークス事業を手掛けている。ただ、三菱ケミカルはコークス製造の炭素事業の売却を予定している。製鉄用コークス専業メーカーの関西熱化学は、隣接する神戸製鋼所加古川製鉄所にコークスを供給している。


2023年3月期 連結業績

売上高1,740億6,200万円39.6%増
営業利益-3億9,700万円赤転
経常利益-7億5,200万円赤転
当期純利益-10億7,500万円赤転

2024年3月期 連結業績予想

売上高1,590億円8.7%減
営業利益63億円黒転
経常利益55億円黒転
当期純利益25億円黒転

※株主手帳24年2月号発売日時点

松岡 弘明 社長
Profile◉松岡 弘明 社長(まつおか・ひろあき)
1960年8月31日生まれ、大阪府出身。85年早稲田大学政治経済学部を卒業後、新日本製鉄(現日本製鉄)に入社。2019年日本製鉄常務執行役員大阪支社長。21年日本コークス工業取締役副社長。22年代表取締役社長に就任(現任)