本記事は、岡崎良介氏の著書『野生の経済学で読み解く 投資の最適解』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

債券市場
(画像=Pixels Hunter / stock.adobe.com)

債券市場に織り込まれている金融正常化への道

これで完全に債券市場の機能が復活したと言い切るには不十分なのですが、それでも2023年7月28日の国内債券市場の終値は次のように財務省に記録されています。

1年=-0.104%、2年=-0.015%、3年= -0.01%、4年=0.043%、 5年=0.162%……

注目の10年債利回りは0.551%となりました。

さて、これらの数字を使って将来の政策金利(無担保コールレートの誘導目標)を考えてみましょう。先ほどのやり方を使うと、1年後の政策金利は1年金利と等しくなります。2年後の政策金利は2年金利を2倍したものから1年後の予想政策金利を引けば求められます。3年後の政策金利は3年金利を3倍したものから1年後と2年後の予想政策金利を引くことで求められます。こういう手順を行なって5年後までの政策金利を計算すると次のような結果が得られました。

1年後=-0.104%、2年後=0074%、3年後=0.000%、4年後=0.202%、5年後=0.638%

どうやら債券市場は、3年以内に現行のマイナス金利政策(無担保コールレートを-0.1%に誘導する政策で、傘下の銀行からは不評です)を解除し、4年後には本格的に政策金利が引き上げられていく、という絵を描いているようです。

日本経済の潜在成長率は0%台の前半?

2023年7月に開催された日銀金融政策決定会合の結果に対して、人々はもっぱらYCCの修正に沸き立ったようですが、実は私がいちばん驚いたのはそこではありません。

28日に発表された「基本的見解」をベースに説明すると、〝2. わが国の経済・物価の中心的な見通し〟のなかの〝(1)経済の中心的な見通し〟の項目のところで、最後になって次のような文章が書かれていました。

〝潜在成長率は、デジタル化や人的資本投資の進展による生産性の上昇、設備投資の増加による資本ストックの伸びの高まりなどを背景に、緩やかに上昇していくとみられる(注釈)。〟

これまで日本銀行は、FRBがフォワードガイダンスで使う〝経済の長期的見通し〟という概念の数字を、はっきりと公式には発表してきませんでした。今回の展望レポートで〝潜在成長率(FRBに置き換えれば〝長期経済成長見通し〟に近い数字です)〟について語るというのは、これはフォワードガイダンスの拡充(国民と世界の投資家に向けて、これからの日本経済と、それを支える日本銀行の金融政策を説明する唯一の機会です)への、第一歩です。

*:日本銀行は2013年1月に「目標インフレ率2%」を発表したのですが、FRBのようにこれを支えるフォワードガイダンスの基礎データをきっちりとはつくってきませんでした(つくられているのかもしれませんが、発表はされてきませんでした)。黒田日銀前総裁が始めた「異次元の金融政策」を説明する際にも、〝マネタリー・ベース(国債を買い入れることで市中に放出される資金のことです)を2倍にして2年でインフレ率を2%にする〟という単純な方策は何度も連呼されたのですが、その後はどうなるのか、2%のインフレ目標を達成する際の前提となる、長期的な日本の経済成長見通しも、それらを安定的に支えていくための長期的な日本の政策金利見通し(これはFRBにおいては中立金利=長期的なFFレート見通しとして世界中から注目されています)も、いまだに発表されていないのが現実です。

さらに、その注釈に目を向けると、次のように説明されていました。

〝(注釈)〟わが国の潜在成長率を、一定の手法で推計すると、足もとでは「0%台前半」と計算される。ただし、潜在成長率は、推計手法や今後蓄積されていくデータに左右されるうえ、今次局面では、感染症の影響によって生産性や労働供給のトレンドがどのように変化するか不確実性がとくに高いため、相当の幅をもってみる必要がある。

野生の経済学で読み解く 投資の最適解
岡崎良介
1983年慶応義塾大学経済学部卒、伊藤忠商事に入社後、米国勤務を経て1987年野村投信(現野村アセットマネジメント)入社、ファンドマネジャーとなる。1993年バンカーストラスト信託銀行(現ドイチェ・アセット・マネジメント)入社、運用担当常務として年金・投信・ヘッジファンドなどの運用に長く携わる。2004年フィスコアセットマネジメント(現PayPayアセットマネジメント)の設立に運用担当最高責任者(CIO)として参画。2012年、独立。2013年GAIAの投資政策委員会メンバー就任、2021年ピクテ投信投資顧問客員フェロー就任。『相場ローテーションを読んでお金を増やそう』(日経BPマーケティング)など著書多数。

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