〔要旨〕
- 混乱の1-3月期:「中央銀行からの発言」が急増し混乱を引き起こしたため、市場の変動が顕著だった
- 展望を得る:1-3月期のグローバル市場を概観し、見過ごされがちないくつかの「小さな勝利」について取り上げた
- 米国のディスインフレ:3月のコアPCE価格指数は安心感をもたらし、パウエルFRB議長もこのデータへの信認を示した
2024年1-3月期の市場概観
市場は利下げ開始を予想
2024年4-6月期は小さな勝利でスタート
今後の展望
注目の日程
イースターサンデーに教会に行った後、知り合いのファイナンシャル・アドバイザーにばったり出くわしたので、非常に好調な1-3月期を終えて、彼自身やその同僚たちが、顧客からどのような声を聞いているか尋ねてみました。彼は、顧客にとって市場で起きていることは不可解なようだと答えました。それも無理はありません。今年1-3月期は、「中央銀行からの発言」が急増し混乱を引き起こしたため、市場の変動が顕著でした。以下では、今年1-3月期のグローバル市場を概観し、たやすく見過ごされがちないくつかの「小さな勝利」について取り上げたいと思います。
2024年1-3月期の市場概観
株式。今年1-3月期は、いくつかの例外を除いて世界中の株式にとって好調な四半期となりました1。日本株は2桁の上昇を記録し、際立ったパフォーマンスを示しました。S&P500種指数が10%以上の上昇を記録した米国がこれに続きました。欧州株も堅調な伸びを示しましたが、英国株の伸びはより鈍くなりました。新興国株も小幅に上昇しましたが、特に中国株は1-3月期は小幅な下落となり、売られ過ぎ感が強まりました。
債券。債券は1-3月期、(新興国市場債券を除いて)総じて期待外れとなりました2。しかし、3月のグローバル債券のパフォーマンスは改善しました。米10年債利回りが4%を下回ったり4.3%を上回ったりと1-3月期中に大きく変動したことに鑑みれば、債券のボラティリティについては驚くに値しません3。
オルタナティブ。オルタナティブ資産クラスは、1-3月期はまちまちの結果となりました4。グローバル不動産投資信託は、1-3月期は弱含みとなったものの3月は好調でした。コモディティ、特にエネルギーは好調でした。工業用金属は、1-3月期は比較的横ばいでしたが、3月は大幅に上昇しました。金は1-3月期に上昇しましたが、ビットコインも同様でした。主要通貨は対ドルで下落しました。
市場は利下げ開始を予想
冒頭で述べたように、中央銀行の発言が混乱を招いたため、市場の変動が見られました。では何が起きたのでしょうか?期待外れのデータや中央銀行のタカ派的な発言に対し、市場は当初は幾分ネガティブに反応したものの、ほぼこれらをやり過ごしてきており、つまるところ1-3月期は、全体的に「リスクオン」の四半期だったと言えます。市場は、今年起こると予想されること―欧米先進国においてディスインフレが続き、中央銀行が利下げを開始すること―を織り込んでいます。市場はまた、世界経済が緩やかな短期の減速の後、再加速することを織り込みつつあります。これが、ここ数週間市場は拡大基調にあると私が考えている理由です。
2024年4-6月期は小さな勝利でスタート
2024年1-3月期は、いくつかの小さな勝利で幕を閉じました:
- 3月もディスインフレが続き、米国は依然として「D(ディスインフレ)トレイン」に乗っています。最近の期待外れのインフレデータにより、米国のインフレ動向について懸念する向きもあったため、3月のコア個人消費支出(PCE)価格指数は安心材料をもたらしました。コアPCEは前年同月比で2.8%の上昇となり、2月の同2.9%上昇からわずかに低下しました5 。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、このデータは「私たちが見たいものにより近いもの」だと述べ、これへの信認を示しました。またパウエル議長は続けて、「期待に沿うものが出てきているのは良いことだ」と述べ6 、更に「インフレ率は2%に向けて、時にはバンピーな(でこぼこした)道筋を辿りつつ低下していく」と予想しているとも述べました7。
- 英国とユーロ圏のインフレにはより進展が見られました。ユーロ圏のインフレ率も低下を続けており、欧州中央銀行(ECB)が目標とする2%まであと一歩のところまで来ています。英国のインフレには最近更に進展が見られており、直近2月のインフレ率は前年同月比3.4%上昇と、2021年以来最も低い水準となり、予想を下回りました8。
- インフレ期待はよりよくアンカー(安定的に維持)されつつあります。これまで述べてきたように、インフレ期待、特に消費者のインフレ期待は中央銀行にとって重要な考慮事項となっています。従って、3月のミシガン大学消費者調査(確報)を見て安心しました。5年先のインフレ期待が2.8%に、1年先のインフレ期待が2.9%に低下したことから、インフレ期待は「よくアンカーされている」-そしてそれは、FRBにとっての重要なリトマス試験紙でもある―と言うのが正確だと考えています9。英国も状況は似通っており、イングランド銀行の最近の調査では、1年先のインフレ期待の中央値は3%となり、前回調査の3.3%から低下しました。より長期の消費者インフレ期待は3.1%に低下し、イングランド銀行の目標に近づきました10。こうした結果は、シティ/ユーガブ調査でも裏付けられており、短期・長期両方の消費者インフレ期待の低下が示されています11。
これら全てが、今年4-6月期の終わりまでに、欧米先進国の主要中央銀行のいくつかが利下げを開始する可能性があることを示唆しています。
小さな勝利は、4-6月期に入っても続いています:
- 中国の経済面での前向きなサプライズ。昨日発表された中国の財新製造業購買担当者景気指数(PMI)が予想を上回ったことで、市場は強い反応を示しました。 既に述べたように、私は中国株は売られ過ぎの感があると考えており、いかなる前向きなサプライズも株価を上向かせる強力なきっかけとなる可能性があると考えています。
- 米国の製造業に関するデータも予想を上回りました。米ISM製造業PMIは予想を上回り、2022年9月以降で初めて拡大領域に入りました。特に新規受注サブ指数が好調で、先行きに明るい兆しとなりました。
しかし、晴れやかなものばかりではありませんでした:
- 米ISM製造業PMIは、実際は市場から否定的に受け止められました。価格サブ指数も上昇したのは事実ですが、これは非常に変動しやすいコモディティ価格によるところが大きいようです。また、雇用サブ指数は上昇したものの、依然として低調でした。これらのデータによって、FRBがいつ利下げを開始するかについての私の見方には影響はありません。
- 日本経済に関する日銀短観の結果はまちまちとなりました―残念だったのは、企業マインドの低下でした。これにより一定の利益確定売りにつながったとされていますが、1-3月期にあれほど好調な株価パフォーマンスを示した後であることから、予想されたことです。そしておそらくより重要なのは、企業が今後5年間でインフレ率が日銀の目標である2%を上回ると予想していることが示されたことです12 。日銀と日本経済への信頼は明らかにあると言えるでしょう。
今後の展望
今週の米雇用統計はもちろん重要となります。FRBは、非農業部門雇用者数が予想より多かったとしても気に留めないと思われるため、私は平均時給を注視しています。インフレに直接影響を与えるため、FRBは賃金の伸びに焦点を当てていくでしょう。また今週は、ユーロ圏の消費者物価指数(CPI)、そして米国の労働市場が緩和を続けているかどうか知るため、雇用動態調査(JOLTS)も重要となります(これはFRBによる利下げ開始に必要なデータとまでは言えませんが、求人数が減少していれば前向きな材料となります)。
また今週は、前回のECB理事会の議事要旨が公表され、これも重要となります。利下げがいつ開始されるか(現時点の予想では6月)、また予想される利下げのペースについて、この議事要旨を通じて総合的に確認したいと考えています。
注目の日程
公表日 |
指標等 |
内容 |
---|---|---|
4月2日 |
ドイツCPI |
インフレの動向を示す |
4月2日 |
米国雇用動態調査 |
求人、雇用、離職に関する |
4月3日 |
ユーロ圏CPI |
インフレの動向を示す |
4月3日 |
米国ISM非製造業PMI |
製造業とサービス業の経済の |
4月4日 |
英国PMI |
製造業とサービス業の経済の |
4月4日 |
ユーロ圏PMI |
製造業とサービス業の経済の |
4月5日 |
米国雇用統計 |
労働市場の健全性を測定 |
4月5日 |
カナダ雇用統計 |
労働市場の健全性を測定 |
- 1.株式市場のパフォーマンス出所はブルームバーグ及びMSCI。2024年1月1日から2024年3月31日までのMSCI日本指数、MSCI欧州指数(英国を除く)、MSCI英国指数、MSCIエマージング・マーケット指数、MSCI中国指数、及びS&P500種指数を参照した。
- 2.債券市場のパフォーマンス出所はリフィニティブ・データストリーム。2024年1月1日から2024年3月31日までのバンクオブアメリカ・メリルリンチ世界債券指数、ブルームバーグ米国総合債券指数、ブルームバーググローバル総合クレジット指数、ブルームバーグエマージング・マーケット債券指数を参照した。
- 3.出所:ブルームバーグ、2024年3月29日
- 4.オルタナティブ市場のパフォーマンス出所はリフィニティブ・データストリーム。FTSEグローバルREIT指数、S&P GSCI商品指数、S&P GSCIエネルギー指数、S&P GSCI工業用金属指数、S&P GSCI貴金属指数、S&P GSCI農産物指数を参照した。
- 5.出所:米国経済分析局、2024年3月29日
- 6.出所:ロイター、“New US inflation data 'along the lines' of what Fed wants, Powell says”、2024年3月29日
- 7.出所:PBSニュースアワー、"Powell says the Federal Reserve wants to see 'more good inflation readings' before it can cut rates"、2024年3月29日
- 8.出所:英国国家統計局、2024年3月20日
- 9.出所:ミシガン大学消費者調査、2024年3月29日
- 10.出所:イングランド銀行/イプソス調査、2024年3月15日
- 11.出所:シティ/ユーガブ調査、2024年3月28日
- 12.出所:日銀短観、2024年4月1日
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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