新年度に入り、ドライバーの長時間労働を規制する「2024年問題」が現実となった。経済活動の活発化やネット通販市場の拡大などで貨物量が増える半面、ドライバー不足から「物流危機」を懸念する声も。その解決策としてM&Aに対する期待が高まっている。
中小トラック運送業者の経営環境は依然厳しい
2022年3月期はトラック運送業者の業績が、大手を中心に増加または横ばいとなった。これは主に燃料価格の下落が要因だ。そのため保有車両台数が少ない中小運送業者では、燃料費下落による恩恵が少なく、厳しい経営状況が続いている。今後、景気拡大に伴う原油需要の増加や円安により燃料費が再び上昇することがあれば、値上げが困難な中小運送業者の経営環境はさらに厳しくなるだろう。
現実にトラック運送業界は車両保有台数10~20台までの中小零細事業者が72.1%を占め、経営基盤は弱いとされる。従業員1000人を超える企業は、わずか0.1%。業界の56%を占める車両保有台数10台以下の事業者では、約55%が赤字を計上している。こうした中小事業者はドライバー確保のために人件費比率が増大しており、人手不足からトラックの実働率も低下しているのが現状だ。
つまり、中小トラック運送業者の単独での生き残りは、ますます厳しくなる可能性が高い。そこでM&Aによる事業規模の拡大がクローズアップされているのだ。現在、同業界のM&Aの動きはどうなっているのか?
ストライク<6196>コンサルティング部の廣田尚登部長によると、「売り手側では大手運送業者傘下に入ることでドライバー不足や労務問題の解消、下請けから脱却して荷主との直取引による運賃の引き上げを狙う中小業者が増えている。一方、買い手側では長時間労働を回避するためのドライバーと物流拠点を確保するため、中小業者の買収が活発になっている」という。
売り手・買い手の「選ばれるポイント」とは
2024年問題解決のために「どうにかしなくてはとの気運が高まり、M&Aを選択するケースが増えている」(廣田部長)。とりわけドライバー不足は深刻で、「ある程度の給与を出せないと、他社へ転職してしまう。M&Aによる事業規模拡大で運賃を引き上げて、ドライバーに適正労働環境下で十分な給与を支給しなくてはならないとの危機感がある」(同)からだ。
買い手から見て評価が高い中小運送会社は、ドライバーの平均年齢が若い会社。買い手の多くは中堅・大手事業者で、働く意志があればいつまでも働ける中小零細事業者と違って60〜65歳の定年制を導入している。そのため平均年齢が高いと直ちに採用活動を強いられることになるからだ。さらに労働時間などの労務管理や運行の安全管理がきちんとできていることや、保有車両が新しいことなども評価ポイントとなる。
売り手に選ばれる買い手事業者は、買収される企業に対してリスペクトがある会社だという。廣田部長は「価格面のみで売却する相手を選ぶ経営者は少ない。売り手のオーナーは社会的評価も気にしており、『あんな企業に自分の会社を売ったのか』と後ろ指をさされるのを嫌う傾向がある。いくら金を積まれても、売却した企業や従業員を大切に扱わない企業には売らない傾向が強い」と話す。買い手企業の「社徳」が問われるようだ。
文:M&A Online