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事業変遷とご入社の経緯
ーー現在までのオープンアップグループの事業編成について、上場前からの変遷をご紹介いただけますでしょうか?
株式会社オープンアップグループ取締役兼CFO・佐藤 博氏(以下、社名・氏名略):元々当社の母体となる会社はビーネックスグループで、その前はトラスト・テックという上場企業の名前でした。創業者の中山隼雄氏がこれまで事業のターニングポイント毎に人を代えながら経営を委託していたのですが、およそ10年前に現CEOの西田氏(以下、西田CEO)が社長に就任しました。当時の売上はまだ100億円程度で、技術者の派遣や製造派遣にフォーカスしていました。
私自身はNECグループ出身(NECエレクトロニクス、現ルネサスエレクトロニクスのCFO)で、その後テクノプロ・ホールディングスという会社で5年半働いていました。
私と中山氏の接点は、私がトラスト・テック社を買いに行ったことでした。その後、いろいろな話をする関係となりました。私がテクノプロ・ホールディングスを辞めた時に、中山氏から電話があり、トラスト・テックに来ないかと誘われました。しかしその時点で私は競業禁止契約にサインしていたため、一度その話はお断りさせていただきましたが。それからも色々とご相談させていただいていました。その後半年ほど経って、私は中山氏の資産管理会社であるアミューズキャピタルに入社することになり、特にトラスト・テック社を中心にアミューズキャピタルが出資している数社を診ていました。そして、2020年5月に顧問としてトラスト・テックから社名変更していたビーネックスグループに参画しました。
また、テクノプロ時代から夢真グループの佐藤大央社長(以下、大央社長)と資本市場を通じて面識がありました。夢真の創業者である彼のお父様が亡くなったことを知って彼と話し合う機会があり、その流れで西田CEOを紹介することとなりました。
2020年11月には大央社長と西田CEOが面談し、その後話が進み、2021年4月に統合が実現しました。統合当初の名前は夢真ビーネックスグループでしたが、その後オープンアップグループに変更しました。
ーー佐藤様が統合の際のキーパーソンだったんですね。
佐藤:私はきっかけを作ったにすぎませんけどね(笑)
もともと両社の「未経験な若者を採用してエンジニアに育てる」という基本方針が同じな上、強みが違っていました。夢真グループは建設エンジニアの派遣に強く、ビーネックスグループは機電系に強かったのです。そして、お互いにITへの投資を積極的にしていたため、お互い一緒になることのメリットを感じたようです。
ーーそうした中で、統合後のターニングポイントとしてはどのようなものがありましたか?
佐藤:まず、経営陣を決めることが一つのポイントでした。基本的にはガバナンスがしっかりしているのはビーネックスグループだったので、そのガバナンスを基本にして会社を作り上げることにしました。結果として、ビーネックスグループ系の役員はほぼ残りましたが、夢真グループ系の方は退任された方もいました。
事業のガバナンス責任は西田CEOに、執行の責任は大央社長に持っていただきました。私自身は、事業管理、財務経理やIRを担当しています。このような体制になったことが、大きなターニングポイントだったと思います。
貴社における佐藤様の役割について
ーー佐藤様が現在担当されているのは、IR関連やCFOとしてお金回りのところを担当されていると思いますが、貴社の中で具体的にどのような役割を果たされているのか教えていただけますか?
佐藤:これは結構難しいですね。基本的に私が思っているCFOというのはアメリカ型のCFOです。事業管理、財務的な視点で経営全体を見る立場です。したがって、企業価値を大きくし、長期的な利益を出すことに資するすべての活動を私はサポートする。一言で言うとそういうことです。
現実的に当社のマネジメント取締役は、CEO、COO、CFOの三人しかいませんので、この三人の出自は結構違います。私はこの三角形の関係の中で最も企業価値が上がるような方向に調整しています。大央社長からの相談事も多く、西田CEOともよくお話をします。
ーー直近でCFOとして力を入れていらっしゃることや、今後取り組んでいきたい活動があれば教えていただけますか?
佐藤:私は組織の中で中立的な立場であることを期待されていると思います。ビーネックスの色が濃いわけでもなく、夢真グループの色が濃いわけでもなく、私に求められているのはインディペンデントな視点で会社を発展させる諸施策を考えるというポジションにいます。
西田CEOにもはっきりものを申し上げますし、大央社長にもはっきりものを申し上げます。そして、最終的にマネジメントが決断をしたらそれをサポートする立場です。
佐藤様が意思決定の際に重要視している点について
ーーインディペンデントな視点で意思決定をする際に、具体的にどういったことを参考にされているのでしょうか。
佐藤:それはいくつかあるんですが、一番大切なのは企業価値の向上に資するかどうかです。長期的な利益が確保できるかということです。二つ目は「全体最適」かどうかということを私はいつも考えています。
ーー判断をされるときには、その二つを常に満たしているかどうかを考えていらっしゃるのですね。
佐藤:極端な話、財務担当の役員は保守的なスタンスで物を言うことが多いと思いますが、私はそれが企業価値の向上や長期的な利益に資するかという観点で意見を申し上げます。時にはNGを出しますし、時には社長が積極的なシナジー効果を期待して高く買おうという時に賛同するということもあります。このように私の経験と知見の尺度の中で申し上げるのが私の役割だと考えています。
ーー大きな投資やM&Aをこれまで多数実行されてきたかと思いますが、今後もやっていく上で実際にどういう先をM&Aしようか、グループインしてもらおうかというところは佐藤様が手動で進められているところなんですか?
佐藤:そういった領域のエグゼキューションは 大央社長がやっていますので、その社長に提案することはもちろんありますけれども、大央社長のところに来た案件あるいは考えている案件については私と必ず相談をするという形になっています。
また、財務的な立場で言うと、当社はほぼ無借金経営でバランスシートの状態も非常に良いので、資本コスト的な見方によってはデットが足りないと言えます。そういう意味ではもうちょっとデットにも比重を置いた形で会社の成長が遂げられればいいかなというふうには考えています。
ーーこのデットとエクイティのところも見つつ、全体として常にアメリカ的CFO(CEO的)として意思決定をサポートしているということですね。
佐藤:そうですね。それは間違いないです。
ーーもう少しファイナンスにフォーカスをしたときに、今後の貴社のファイナンスを活用して大きく成長されていくかと思いますが、このあたり佐藤様の中でイメージみたいなところはどういったものをお持ちでしょうか?
佐藤:今ファイナンスということを言うと、執行役員以下のスタッフは銀行借入しか考えていないんですよね。しかし、銀行借入だけでなく、場合によってはエクイティファイナンスもありますし、格付けをとって普通社債なり転換社債なりを発行するという選択肢も持たなければいけません。この会社はそういう経験がありませんので、そのような資金調達の選択肢を持っておくことが狭義のCFOとして重要だと考えています。
佐藤様の思い描いている貴社の未来構想について
ーーありがとうございます。もう少しそのファイナンスから離れて、全社視点でCEO的な立場で見たときに今後の貴社の展望について教えていただいてよろしいでしょうか。
佐藤:日本は構造的にエンジニア不足の社会です。従って、日本の産業構造は、自社の社員やエンジニアが基本的なコア業務を行いつつ、多くの作業をアウトソースに任せる形になっています。例えば、ITでは75%以上が外注に頼っていますし、その他でも5割以上は外注しているわけです。
そういう中で、事業的には非常に追い風が吹いていると言えます。大きな問題は、日本の人口が中長期的に減少することです。したがって、我々は未経験な若者にフォーカスを当てて、それを育成していくリスキリング事業としてやっているわけですが、そこがこれからの成長にとっては大きなポイントになると思います。
ーーそれを実現していく上で、ここが解決できれば一気にもっと加速できるといったポイントはあるのでしょうか?
佐藤:ただ採用すればいいだけではなく、採用したら研修しなければいけないし、お客様の要望に合うエンジニアを育成しなければなりません。そういったバックオフィスのキャパシティと能力がボトルネックとならないようなバランスが重要です。
一方、バランスだけだと利益率が改善しないので、バックオフィスの生産性を上げていくことが大きなポイントになります。
私としては数字を見ていて、生産性について特に着目し、時にはDX化を進め、時にはやり方を変えることで会社のオペレーションを良い方向に変えていくサジェスチョンをしていくのが私の仕事だと思います。
ーー具体的に今までどういった取り組みをされてきたのかというのは、お伺いしてもよろしいでしょうか?
佐藤 :具体的なことは余り言えないのですが、私のやり方としては、まずファクトを確認することが大前提になります。表面的な財務数字だけではなく、財務数字を構成する要素には様々な事象があります。私がよく部下たちに言っていることは「性格の違うものを分けなさい」ということです。例えば離職率という一つの指標がありますが、それはどういう年次の人が辞めるのか、どの部署に所属している人が辞めるのか、どういう仕事の職種の人が辞めるのか、男性なのか女性なのか、そういったファクトが固まって一つの離職率になっているわけです。「まずは分解して事実を把握しなさい」ということが、私が自分のラインの人たちに伝えていることです。
ファクトの解析が足りないと戦略がおおざっぱで頭でっかちなものになります。まずはファクトを突き詰めることが非常に大事だというのが私がどの事業をサポートする時にも大切にしているポイントです。
ーーファクトを集めるために意識されていることはありますか?
佐藤:私が一人でできるわけではないので、専門的なスタッフと一緒にデータを集めて、解析していくことが必要です。過去三年間で相当なデータの蓄積が行われており、これをさらに解析して生かしていくフェーズに入っていると思います。**
ーー離職率についてですが、改善するために採用者側をお客様と見立てて、ロイヤルカスタマーのような形でランク付けをしてインタビューなどを行い、大きく改善されたという記事を拝見しました。貴社の中で離職率はどのように変化されてきたのでしょうか?
佐藤:実際には、表面的には離職率は悪化しているように見えています。それは、例えば一年目の従業員の割合が10%から30%近くになっていることが一つの要因です。事業モデルの特性として、入社してから6ヶ月までの間でやめる人が一番多いのですが、研修に耐えられない人や未経験者が仕事を始めてお客様のところでギャップを感じてやめる人が多いのです。一年目の割合が増えていることで、全体の離職率が上がってしまっています。
また、三年目ぐらいになると一人前のエンジニアになります。そうすると、構造的にエンジニア不足の社会ですから、どこにでも転職できるわけです。お客様のところに異動して行く転職者を我々はグッドリーバー(Good Leaver)と呼んでいますが、それは成功事例です。未経験の若者を育ててスキルを磨いて経験を積んでお客様のところに転職するのはハッピーなことです。
しかし、それ以外に転職しちゃう人もいるわけで、会社として抑えなければいけない、リテンションをかけなければいけないのはそういう人たちです。こういった面はこれから改善に取り組んでいくところです。
ZUU onlineユーザーならびにその他投資家へ一言
ーー投資家の皆様に向けて、貴社のどの部分に注目していただきたいのでしょうか。また、まだ投資家に伝わっていない貴社の魅力についても教えていただけますか。
佐藤:当社はまず、成長企業であることに間違いありません。人材派遣や人材業界の中で、成長率が最も高いのは当社です。ただ、残念ながらイギリスの事業などが含まれているため、利益率が低く見えてしまいます。
しかし、エンジニアの派遣部門だけで見ると、当社の成長率は最も高く、利益の成長率も一番高いのです。この点が投資家の皆様に注目していただきたいポイントです。
さらに、イギリス事業の見直しを行っており、国内製造派遣などの利益率が低い部門はすでに売却済みです。今後はエンジニア派遣部門の成長性や利益率が更にフォーカスされると考えています。そのため、投資を検討されている方には、今がチャンスだと思います。
以上の点を踏まえて、投資家の皆様には当社の魅力や成長性に注目していただきたいと思っております。
- 氏名
- 佐藤 博(さとう ひろし)
- 社名
- 株式会社オープンアップグループ
- 役職
- 取締役CFO