本記事は、西崎 努氏の著書『やってはいけない資産運用』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。
金融商品を見分ける5つのポイント
債券以外の金融商品についても、商品の良し悪しを判断するときに注意すべきポイントはあります。ここで金融商品全般についてもポイントを確認しておきましょう。
金融商品といっても株式、債券、REIT(不動産投資信託)、金や原油といったコモディティなどの他、それらを対象にプロが運用する投資信託などもあり、実に多種多様です。個人投資家がそれらを一つひとつ吟味しながら選ぶことは至難の業でしょう。
大前提として、自分に最適な商品選びは資産状況やライフプラン、投資の知識や経験によって変わりますから、まずは商品選択の前に「自分の現状」を確認することが必須です。
その前提に立ったうえで、金融商品を見分けるポイントが5つあります。
①投資元本割れの可能性を考える「安全性」、②投資収益の目安(期待値)を考える「収益性」、③現金化して使うために必要な期間を考える「流動性」、④運用するために支払う「手数料」、⑤実際の値動きや類似商品とのパフォーマンスを比較する「実績」です。それぞれ詳しく解説します。
①安全性
投資をするときにもっとも気がかりなのは、失敗して資産が減ってしまう可能性ではないでしょうか。投資をするうえでは、投資資産が評価損をだす可能性をゼロにすることはできません。
では、その中でもどうやって安全性を見極めればいいのでしょうか。それは、リスク=価格変動の変動幅(または変動率)を知ることです。価格が上がるのも下がるのも同じ変動です。「大きく上がる可能性がある」とされる商品も、変動幅が大きいのでリスクが高いといえます。なぜなら、大きく上がる可能性があるということは、大きく下がる可能性もあるからです。
物価が上がる、円安で通貨の価値が落ちるなど、私たちの資産の価値は常に変動しています。投資した商品の価格が変動することで資産を増やすこともできますし、増やしていく必要もありますから、どの程度の変動幅があるのかを見て、自分の求めるリターンとリスクを判断しなければなりません。
リスクは単純に高いか低いかで判断するのではなく、自分が許容できる範囲かどうかという点が重要です。リターンではなくリスクを軸に考えることが投資の基本です。
②収益性
投資は、決まった収益が約束されているわけではありません。投資における「リターン」とは「このぐらいの収益が期待できる」という意味で「期待されるリターン」というのが正確です。そして、実際には期待以上の場合もあれば、期待以下の場合もあるということです。
リスクが低い商品は、期待リターンも低くなる傾向があります。期待リターンを高くすれば、リスクも高くなります。リスクとリターンは比例するのが原則です。
ただ、投資では「リスクが高い=悪い」ということにはなりません。逆にあまりにも期待リターンが低ければ、投資するまでもなく預金でいいということもあります。
期待リターンは、自分が許容できるリスクや投資資金の使途、投資可能な期間などから逆算して期待できる収益を上限とし、リターンを追求するあまりリスクを無視しないように適度なバランスを見極めましょう。
③流動性
投資に限りませんが、資産を現金にするためにかかる時間という点も重要です。
例えば、資産形成の方法としては、長期積立投資がよく推奨されます。一定の目標を立てておき、継続的に運用した成果を実感することで、モチベーションを上げることにもつながります。ただ、途中でマイホーム購入の頭金や子どもの教育費、親の介護費用など予期せぬ支出が発生することも考えられます。そのため、急にキャッシュが必要なときに現金化しづらい商品ばかりだと困ります。
また、株式など値動きの大きい商品では、株価が高いときと現金化が必要なタイミングがうまくマッチするとは限りません。そういう場合は、株価が高い(=利益が出ている)うちに、少しずつ売却しておくことがおすすめです。
金融商品の購入時には、解約に必要な期間や条件を必ずチェックしましょう。今は現金を使う予定が思い当たらなくても、数年後には急に必要になるかもしれません。
また価格変動の大きな商品を売却するときは、余裕を持って対応しましょう。
④手数料
金融商品の手数料は基本的に商品の売買時に支払いますが、保有中にも運用コストがかかる商品もあります。保有中の手数料を強く意識する必要があるのは、投資信託やファンドラップのような、プロに運用を任せる金融商品です。投資信託は、保有中も運用にかかる手数料が毎日日割りで差し引かれています。
日経平均株価のような参考指数に投資する「インデックスファンド」なら、手数料が低い商品を選べば問題ないでしょう。ただ特定のテーマや独自の手法などで運用する「アクティブファンド」の場合には、よく考えて商品を選ぶ必要があります。
販売用資料やレポートで投資先を確認して、類似商品と比較することはもちろんですが、日経平均やTOPIXなどのベンチマークとたいして変わらない運用をしている商品、運用方法がよくわからない商品、期待リターンに対して手数料が高すぎる商品などは論外です。
もちろん、自分で運用するには労力がかかりますから、その分の手数料を払ってもいいと思える水準は人それぞれだと思います。手数料を払う価値のある商品も当然あります。
ただ手数料が高いほど良い商品というわけではありません。基本的には手数料負担の低い運用を中心に考えることで、費用の削減=収益の増加につながり、運用成果に良い結果をもたらしてくれるでしょう。
⑤実績
債券は満期保有すれば額面金額が返ってくるので「実績」という考え方にはなじみません。しかし、満期のない投資信託や株式、REITは過去の実績が参考になります。上場したばかりのものは実績がないため、様子を見たほうがいいでしょう。
ただし、ある程度の実績がわかる場合でも、過去の実績が良かったからといって将来の値動きが約束されるわけではありません。参考になるのは、過去の値動きが悪かったケースです。
例えば、値動きはベンチマークと同じように推移しているのに、なぜか運用成果で劣る場合があります。こんなときは、「運用コストの分だけ負けているのではないか」と疑います。
また、投資銘柄が近いファンド同士を比較して想定される値動きをしていない場合は、「想定していたよりもリスクが大きいから」かもしれません。
もし新しく設定された投資信託などを検討するのであれば、目論見書に記載された運用方針通りに運用されているのかどうか、運用方針通りであっても自分の想定と合っているかどうか確認をしてからでも遅くはありません。
最低でも半年、できれば2年程度は運用の推移を確認したいところです。投資信託の過去の想定推移を記載しているケースもありますが、悪い結果を載せることはあまりないので参考にしないほうがよいでしょう。