>第1話『 DXで地方創生に挑んだ3年の日々。戸惑いながら歩んだ1年目の記録』
>第2話『 DXで地方創生に挑んだ3年の日々。一歩ずつ前に進んだ2年目の記録』
>第3話(本記事)
デジタルテクノロジーを駆使して地域課題の解決と地方創生にも取り組むCAC。雲仙市との間でデジタル化推進および観光振興に向けた協定を2021年に締結。現地に事業開発本部の中村星斗を派遣。本記事は、中村の雲仙市での3年に渡る取り組みを纏めた記事である。
雲仙に派遣されて3年目、いよいよ最後の年になった。
この年、まず、観光局で取り組んだのが、WEBサイトのフルリニューアル。
雲仙の魅力を、国内外に伝える情報発信のハブになるものだ。
作るにあたり、こだわった点がある。
「誰のために、何のために観光サイトはあるべきか?」。
日本から、そして、海外から雲仙観光に来る人たちは、
どんな情報を必要とし、どんな状況で検索するのか?
ユーザー視点に立ち、観光局のメンバー一丸で徹底して考え抜いた。
デザインなど細部にもこだわり、新たなサイト『Find UNZEN』が完成する。
ユーザーが使うシチュエーションを考えた結果、スマートフォン向けのサイトとなった。
視認性に優れ、読み応えのあるコンテンツは、国内外から高い評価を得ている。
一方、雲仙市役所では、前年から引き続き、デジタル重点プロジェクトに取り組んでいた。
定例会議やヒアリングを通して明らかになったのは、庁内業務におけるムダだった。
職員たちは、毎回、レクチャーで使用する資料をデータやグラフを用いて作成。
会議のアジェンダや議事録も、毎回プリントアウトしていた。
また、市民からの問い合わせの多さに頭を悩ませているという事実も分かった。
致し方のないことだが、役所には、色んな人から同じ問い合わせが何度もくる。
その度に作業を中断し、丁寧に電話対応しなければいけない。
何も役所に限ったことではないが、他にも至る所に様々なムダがあり、職員たちの負担になっていた。
そこで、中村が提案したのは、ノーコードで業務アプリが作れるクラウドサービス『kintone』の導入だった。
だが、導入実績がないことや、セキュリティなどの観点からハードルは高い。
そこで、なぜデジタルツールが必要なのか?どのように便利なのか?を、
自分の言葉で、分かりやすく説明しなければいけないと思った。
作成した資料は、遊び心を入れてRPG風の世界観に。
AI-OCRを古代の書物を解読する魔道具として捉え、画像生成AIでイラストを作成した。
また、自分自身も、改めてデジタルツールのメリットを腹落ちさせて、導入の意義を伝えた。
結果、『kintone』の採用が決定。しかも、なかなかないことだが、全庁的に導入されることになった。
また、生成AIについてもトライアルを実施することに決まり、
来年度予算では、本格的な環境を構築する所まで話は進んでいる。
中村は、市役所のデジタル化推進という課題に、包括的にデジタル環境を整えることで解決を図った。
では、雲仙市のデジタル化についてはどうだろう。
中村が自ら企画を立ち上げ、稟議を通した施策がある。『Digital Club Unzen』だ。
雲仙市内の2つの公民館にパソコンを設置。
そして、民間施設で設置されたのは、西田さんの『集い処えんがわ』。
オンライン学習の『Schoo』を利用できるようにし、デジタル技術や知識を学べる機会を創出した。
育休中の方が、復帰する際に必要なリモートワークの知識を習得したり、会社員が改めてデジタル技術の知識を身につけたりと、利用者は多岐に渡っている。
さらに、『Digital Club Unzen』には、デジタルに関する相談窓口の機能を持たせている。
中村は、3か所を巡回し、デジタルにまつわるお悩み相談に乗った。
お年寄りから「Wi-Fiが繋がらない」「スマホの使い方を教えて欲しい」などの基礎的な相談をされることもあれば、「オンラインショップを開設したい」、「お客さんを管理する台帳の作成を教えて欲しい」など、専門知識を要する相談まで、懇切丁寧に相談に乗った。
この『Digital Club Unzen』は、西田さんが望んだ「パソコン救急隊、ITの相談窓口」が、
実現した恰好でもある。
その西田さんには、印象に残る中村の言葉がある。中村が、しきりに口にした言葉だ。
「デジタルに何が出来るのだろう?僕に何が出来るのだろう?」
3年前、雲仙市のデジタル化推進というミッションを携え、この地にやって来た。
自然に囲まれた此処での暮らしは、それまでの価値観をガラッと変える新鮮な体験だった。
新たな仲間たちができ、BBQやキャンプを楽しんだ。
ジャガイモ掘りがあれば収穫の手伝いに参加し、地元のお祭りがあれば出店の手伝いもした。
雲仙温泉をPRするイベントでは、なぜかご当地キャラの「中の人」にもなった。
コロナ禍でマンションの自室に篭っていた頃には考えられないことだが、
この地では、子どもからお年寄りまで、実に様々な人に出逢った。
釣りに行き、立派な鯛を釣り上げると、近所のおばあちゃんが捌き方を教えてくれる。
初めは全くできなかった料理も、いつしか腕前が上がった。
おばあちゃんには、お礼に、お孫さんとリモートで話すためのZoomを教えてあげた。
この地で多くの人に出逢い、言葉を交わし、耳を傾けたことで生まれた想い。
「デジタルに何ができるのだろう?僕に何ができるのだろう?」
その想いこそが、市役所や観光局のデジタル化推進に繋がり、
『Digital Club Unzen』として実を結んだ。
デジタルに何ができるのだろう、僕に何ができるのだろう?
ひたむきに問い続けた日々が、雲仙にデジタル化という新たな風を吹き込んだ。
そして、中村にとっても、この地での3年は、価値観に大きな変革をもたらした特別な日々だった。
3年間を終えて
これまで当たり前だと思っていた首都圏での生活や、所属していた業界とは全く異なる価値観や生活に触れ、新鮮な衝撃を受けました。首都圏と地方を二元的に捉えるのは避けるべきかもしれませんが、首都圏にない魅力や価値が地方には確かに存在しています。逆に、地方で不便に感じられる事柄の多くは、私たちが持つデジタル技術や、その技術を使って効率化や利便性を高める考え方によって解決できるものも多いと感じました。
実際、雲仙市では、私たちの技術やアイデアが人々の生活を豊かにする瞬間を何度も目にしました。社会や技術の発展に伴って過剰に失われてしまったものと、地方において深刻化する社会課題。この両者をどう解決していくかを考えるきっかけとして、今回の経験は大きな1歩だったと思います。
「デジタルに何ができるのか?」そして、「自分に何ができるのか?」この問いかけが、私の3年間の原動力でした。これからのシーエーシーでの取り組みが、こうした領域に少しでも貢献できればと思っています。
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(提供:CAC Innovation Hub)