本記事は、井上顕滋氏の著書『7つの"デキない"を変える "デキる"部下の育て方』(幻冬舎)の中から一部を抜粋・編集しています。
仕事の楽しさを感じさせる6つのポイント
部下をもつ立場になった人のなかには、仕事は顧客に価値を提供するために、歯を食いしばって頑張るもので、自分が楽しむためにやるものではないという考えをもっている人もいます。そう考える人は、自分をストイックに追い込んで成果を上げて出世してきた人が多いのも事実です。
しかし、こうした考え方は今の時代には合わなくなってきていると私は考えています。このタイプの上司が、自分の考え方やスタイルを部下に求めてしまうと、求められた側は苦しくなり、離職率が上がるなどの問題が発生することは容易に想像できます。
実際、自社の仕事の価値を伝える社長やマネジメント層は多いのですが、仕事を楽しむことにフォーカスして部下に接する人は少ないように思います。仕事が社会にもたらす価値だけでなく、仕事や業務そのものを楽しいと感じさせるほうが、やる気を引き出し、集中して取り組めるようになることは脳科学的に間違いありません。
部下に仕事や職場を楽しいと思わせるポイントは主に次の6つがあります。
(1) 成長を実感させる
人は自分の成長を実感するとうれしいもので、できなかったことができるようになれば仕事が楽しくなります。ただ、毎日の業務に追われていると、周りから見れば成長していることが明らかでも、本人は自身の成長に気づいていないこともあります。そのため、部下がどれだけ成長したのかを上司が示すことが、部下のモチベーションを上げることにつながります。
1年前と比べてできるようになっていることを上司が見つけて、部下に「1年前のことを思い出してみて。どうだった?」などと声を掛けていきます。そうすると部下は1年前の自分を振り返って今の自分と比較していくなかで、この1年でできるようになったことが思いのほか多いことに気づきます。そこで上司が「1年前はできなかったのに、今はあんなことも、こんなこともできるようになったんだから、すごいよね!」などと話していくと、部下は自分の成長をより実感することができ、仕事へのモチベーションが上がります。
(2) 称賛する
ほんの小さいことでよいので上司が頻繁に働きぶりを称賛するようにすると、部下は仕事が楽しくなるのはもちろん、その上司のもとで働くことが楽しくなります。日本人は得てして称賛することに慣れていない人が多いように思えてなりません。なかには称賛することを照れくさく感じる人もいるのではないかと思います。この点は上司も意識改革が必要です。
小さなことも称賛していきますが、上司の本音としては、もっと上のレベルを期待しているので、あまり小さなことを称賛する気になれないということもあるかと思います。しかし、ここで重要なのは、このコミュニケーションの目的は何かということです。この場合は部下が楽しい職場だと感じることで仕事へのモチベーションを上げることが目的です。そのためにやるべきことは、今できていることにフォーカスして称賛することなのです。
言葉で称賛するということはもちろん、褒賞制度によって金銭としてボーナスを与えるなど、直接言葉で称賛する以外のアプローチも有効です。
(3) 同僚から尊敬される
同等の立場にある同僚から「すごいね!」と尊敬の念を向けられると自分はできるという自己効力感が高まります。そうやって、自分はこの仕事がほかの人よりも得意だと優越感を抱くようになると自然と努力するようにもなるので、能力がさらに伸びますし、仕事をすることも楽しくなります。また、上司が面談の席などで「周りの人の素晴らしいと思ったことを教えて」と聞いて情報を集めておき、後日「○○さんがこんなことを言っていたよ」と本人に伝えると、部下は良い職場だと感じて会社に来るのが楽しくなります。社員同士が互いに尊敬し合っている職場は雰囲気も良くなります。
(4) 喜ばれる・感謝される
自分の仕事によって誰かが喜んでいることを実感できると、人はうれしくなるものです。例えば「お客様の声」などによってモチベーションが上がることもあります。称賛されることは、評価されることと近いイメージですが、一方で喜ばれることは相手の感情が動くというイメージです。褒められるのと喜ばれるのとでニュアンスは異なりますが、どちらも仕事を楽しいと感じさせるために大切な要素であることは間違いありません。
喜ばれると似ているのが感謝されるということです。顧客や取引先、自社の関連部署などから「助かったよ」「ありがとう」などと感謝されてうれしくなった経験のある人もいるはずです。いずれにせよ、相手が喜んでくれることで自分もうれしくなり、仕事をするのが楽しくなります。
(5) 勝負の要素を取り入れる
仕事に勝負という不確実性のある要素を取り入れると、仕事をすることにワクワクするようになります。
私が運営する子どもを対象とした非認知能力を向上させるための特殊な塾でも、定期テストの点数をチーム対抗戦で競わせるようにした途端に子どもたちの勉強に対する態度がガラッと変わりました。学校も学年も違う子どもたちが集まる塾で、チームに分けて平均点を競うようにしたところ、今まで一切勉強していなかった子が自分から毎日2時間勉強するようになった例はたくさんあります。
このような効果が見られる大きな要素の1つは仲間と一緒に競うのが楽しいということです。それまで1人で淡々と取り組んでいた勉強が、子どもたちのなかで部活動の試合のような楽しさのあるものになったのです。
ここで注意が必要なのは、勝負とはいっても部署内の個人戦にはしないことです。しかも、その結果を給与に反映させるような仕組みにしてしまうと、職場の雰囲気が悪くなり、社員同士での協力関係が生まれなくなってしまいます。チーム戦にして仲間と協力しながら成果を上げる仕組みにすれば、仲間との一体感も高まります。
(6) 仲間と目標を共有する
仲間と同じ目標に向かっていくことで、職場の仲間との間に絆が生まれます。数字の目標もそうですし、仕事の意義などを共有することもそうです。
上司が仕事の意義を伝えるときには部下たちを説得しようとするのではなく、私はこういう仕事ができて本当に幸せだと思っているというメッセージを日々のミーティングなどで伝えていくようにします。例えば、次のように話します。
「私は小さい頃から人と話すのが好きで、人との関わりのなかでいろんなことを教わり、学んできました。仕事をするうえでも多くの人と出会って関わるなかで人を幸せにできるような仕事がしたいと思い、この会社に入って営業の仕事に全力で取り組んできました。
営業の仕事を始めて数年が経った頃、私が初めて契約がとれたお客様からお手紙が届きました。そこに書いてあったのは、『あなたの会社の商品と出会えたことで、私の人生は大きく変わりました』という内容でした。自分のやっている仕事って、こんなに重要なことだったんだ。その人の人生を変えてしまうほどのものだったんだと、そのときに気づくことができました。
みなさんもこういう体験をどんどんしていかれると思うんだけど、私は同じような思いを共有できるこの素晴らしいメンバーと仕事ができることを、本当にありがたいなと思っています。では、今日もよろしくお願いします!」
この話のなかでは、単に上司が自分の体験を語っているだけなので、部下は価値観を押し付けられているという印象を受けることもなければ、指導されているという感じもしないはずです。また、上司の感じたことを語っているに過ぎないので、部下から反論が出てくる余地もありません。上司の武勇伝でもないので、部下の心にすっと入っていきます。
話のなかに「みなさんも、これからこういう体験をどんどんしていくと思う」というフレーズを入れることもポイントの1つです。そうすることで、聞いている部下が会社での自分の未来を明るく思い描けるようになります。
この上司からのメッセージをどう受け取るかは部下次第です。上司が感じてほしいことがそのまま伝わるかは分かりませんが、そこは割り切る必要があります。
すべての仕事について、意義を感じさせることができるわけでもありません。業種によっては仕事の意義を感じにくいものもあります。その場合は、仕事の楽しさや価値に焦点を当てて話すようにします。
部下と接したり業務を進めたりする際に、これら6つのポイントを意識します。そうして部下に仕事に対して楽しさを感じてもらうことが、やる気を引き出し、業績アップの近道になり得るのです。
自らも経営者として30年以上の部下育成の経験をもつ。2011年に未来の成功者を育てるため、小学生を対象とする日本初の非認知能力専門塾Five Keysを設立。2015年には非営利型一般財団法人日本リーダー育成推進協会(JLDA)を創設し代表理事に就任。現在は特別顧問。※画像をクリックするとAmazonに飛びます。
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