本記事は、井上顕滋氏の著書『7つの"デキない"を変える "デキる"部下の育て方』(幻冬舎)の中から一部を抜粋・編集しています。

指導
(画像=ASDF / stock.adobe.com)

指導・育成の重要性を改めて考える

部下を育てるというのは、上司にとって重要な仕事の1つです。時間も労力もかけて一生懸命育てているつもりなのに、思うように育たないという悩みは多くの上司に共通するものです。私自身も、かつては成長が見られない部下にいら立ったり、何度注意しても改善が見られない部下に腹が立ったりしたこともありました。

しかし、部下がつまずいている本当の原因がどこにあるかを知れば、部下と接するときの気持ちが変わるはずです。これまでは、何度も注意しているのになぜ集中して仕事ができないのかなどと、腹を立てていたかもしれません。これに対し、集中できないのは、仕事に価値を感じられないからなのだというように、本当の原因が分かれば、解決に向けた対処法が見えてきます。

部下の指導に悩むあまり、上司のほうが精神的に追い込まれてしまうようなことは望ましくありません。すぐに変化がなくても仕方ないと割り切ることも必要です。

そうやって上司が部下を育てていくことができれば、部下に任せることのできる仕事が増え、上司はマネジメントという本来の重要な役割に集中することができます。部署全体のパフォーマンスも上がり、ひいては会社の業績アップにつながっていきます。部下の指導・育成は、会社の業績を伸ばしていくうえで不可欠なものなのです。部下が挑戦できる環境を用意し、成長につながる失敗は肯定し、部下たちが楽しく仕事ができるチームをつくることができれば、社員全員が幸せに働くことができます。

部下が心を開ける上司になるためのセルフクエスチョン

『7つのデキないを変える デキる部下の育て方』より引用
(画像=『7つの"デキない"を変える "デキる"部下の育て方』より引用)

部下と対話して「デキない」の本当の理由を探っていく過程では、部下があなたに対して心を開いて話せるようになることが不可欠です。

20~70代までの人に尋ねた、職場の上司に関する意識調査(2020年)があります。

困った上司のもとで働いたことがあると答えた人は94.9%にのぼっています。どんなときに困ったかと聞くと「部下や他者への責任転嫁をする」が最も多い49.3%、続いていずれも44%台で「指示・指導・ゴール設定が的確でない」「人によって態度を変える」が続きます。

上司が部下に手を焼いている一方、部下も上司の仕事ぶり、リーダーシップをよく見ています。失格とされたら、心を開いてくれることなどありません。部下が心を開いてくれるような上司になるために、次に挙げるセルフクエスチョンを自らに投げかけてみると有効です。

『7つのデキないを変える デキる部下の育て方』より引用
(画像=『7つの"デキない"を変える "デキる"部下の育て方』より引用)

(1) 私は、部下やチームの今の状態や結果を、どのようにつくり出したのだろうか?
(2) この部下の素晴らしいところはどこだろう?
(3) この部下にはどんな可能性があるのだろうか?
(4) 部下のこの行動にはどんな肯定的意図があったのだろう?
(5) 自分が部下の立場なら、今どんな接し方をされるとやる気を失うだろうか?
(6) 自分が部下の立場なら、今どんな接し方をされるとやる気が出るだろうか?
(7) この出来事から、自分は部下にどんなことに気づいてほしいのか? それを気づかせるために有効な質問は何だろうか?

それぞれの質問には次のような意図があります。

(1) 私は、部下やチームの今の状態や結果を、どのようにつくり出したのだろうか?

この質問には、今の部下やチームの現状は「⾃分⾃⾝がつくり出した結果である」という前提が含まれています。この質問をすることで、⾃分がマネジャーとして、何をしたから今の状態になったのか、または何をしなかったから今の状態になったのか、どのようなコミュニケーションをとってきたからこうなったのか、と完全に⾃分に⽮印を向けることができます。

この質問を抵抗なくできるマネジャーは、それだけで優秀なマネジャーであるといえるほど重要な質問です。

(2) この部下の素晴らしいところはどこだろう?

悪いところばかり見ている上司のもとでは部下は伸びません。良いところを見て伸ばしていくことが重要です。チームとして見たときに、その部下の素晴らしいところはどこなのかを探すようにします。

『7つのデキないを変える デキる部下の育て方』より引用
(画像=『7つの"デキない"を変える "デキる"部下の育て方』より引用)

人間はどうしても足りないところに目がいくものです。例えば、円を描いたときに、上の図のように少しでも隙間があれば、その隙間に目がいってしまいます。

特に、マネジャーとなっている人は、自分は人一倍仕事ができて、自分に課している基準も高いのだということを自覚したうえで部下を見るようにすることが重要です。自分の基準で部下を見てしまうと、足りないところにばかり目がいってしまいがちです。足りないところばかりを指摘されていると、部下のモチベーションはどんどん下がっていきます。

コインの表も裏も側面も同時には見られないように、人間は誰しも見方にクセがあり、ニュートラルに全体像を見ることはなかなか難しいものです。しかし、「この部下の素晴らしいところはどこだろう?」という質問を意識しながら部下を見るようにすれば、部下の素晴らしい面に気づけるようになります。チームとして強くなるためには、チームのなかでその部下の素晴らしい部分はどこかを把握し、伸ばしていくことが重要なのです。

(3) この部下にはどんな可能性があるのだろうか?

もし、部下の長所を活かして伸ばしていくことができたら、どんな可能性があるだろうかということを考えてみます。

野球を例に考えてみると、ホームランバッターにズバ抜けて速く走れる走力は必ずしも必要ありません。また、盗塁の上手な選手にホームランを量産できるほどの打力が必ずしもいるわけでもありません。ホームランを打つのが得意な選手はその力を磨けばよく、盗塁の上手な選手はその力に磨きをかければよいのです。ごくまれに大谷翔平選手のような複数の能力が桁違いに優れている選手もいますが、それはあくまで例外です。

野球の監督はそれぞれの選手の特性を把握し、ここぞというところで力を発揮できるように采配をとります。

これと同じように、上司は目の前の部下にはどんな長所があって、それをチームのなかでどう活かせるか、その結果どんな可能性があるかを考えるようにします。チームとして見たときにその社員の尖っている部分はどこかを見極めて伸ばしていくようにしたほうが、チームとしての総合力を上げることができます。

(4) 部下のこの行動にはどんな肯定的意図があったのだろう?

上司の目から見たら、「なぜそんなことをしたのだろう」と思えるようなことでも、部下本人には、その行動をした肯定的意図が必ずあります。肯定的意図というのは、一見ネガティブな考えや行動であっても、その根っこにある本当に望んでいるポジティブな思いや目的のことです。すべての行動には肯定的な意図があるという基本原則を、上司は知っておく必要があります。

上司から見たら、なぜそんなことをしたのだろうと首をかしげたくなるような行動であっても、本人は会社のためにとか、顧客のためにとかいうように、良かれと思ってやっている可能性があります。本人に話を聞いてみると、意図自体は良いのにやり方の選択を間違えていて失敗しているということがよくあります。

そうやって失敗してしまったとき、頭ごなしに上司に叱られると部下はモチベーションが下がってしまいます。顧客のためにとか、会社のためにとかいうように、良かれと思ってやった思いの部分まで含めて、丸ごと否定された気持ちになるからです。

部下の意図が会社の方針とずれていなければ、部下の意図を素晴らしいと認めたうえで、「せっかくその素晴らしい意図があったのに、結果としてこういうふうになっていることについて、どう思う?」と聞いてみます。そうすると部下からはたいてい悲しい

とかつらいとかいった言葉が返ってきます。そこで「ここから何を学ぶ?」とか「じゃあ、次からはどうする?」と話を進めていけばよいのです。部下の失敗を叱る必要もありません。

部下の立場になって考えてみれば、自分が失敗したことに対して、そういうふうに話を進めてもらえればうれしいと感じるであろうことは想像に難くありません。部下は失敗によってモチベーションが下がるどころか、逆に上がるはずです。部下の意図を上司が肯定することで、こういう意図をもってやるのは良いことなのだという認識が部下のなかで固まります。

上司がよくやってしまいがちな間違いは、部下が失敗したことに対して、部下の意図を汲み取ることなく批判することです。そうではなく、部下の意図を汲んで、次はどうすればよいかを自分の頭で考えさせ、場合によっては部下が考えるのを手伝います。

(5) 自分が部下の立場なら、今どんな接し方をされるとやる気を失うだろうか?
(6) 自分が部下の立場なら、今どんな接し方をされるとやる気が出るだろうか?

これらの質問の目的は、一度上司という立場を離れて、自分の接し方のクセを、客観的に分析することが目的です。コインの例でいうと、表側からばかり見ていたのを、裏側に回って見ることで、自分のクセが見えてくることがあります。最もてっとり早いのは部下とのやりとりを録画して自分の姿を観てみることです。普段まったく気づかなかったことに気づくことができるはずです。

例えば、自分ではそんなつもりはなかったのに、こんな表情でこの言葉を言ったら相手に誤解されるかもしれないとか、こんな口調で言ったら部下は責められているように感じるかもしれないとかいったことに気づくことができるのです。職場でのやりとりを録画するのはなかなか難しいかもしれませんが、ポイントはできるだけ自分を客観的に見たり考えたりしてみるということです。

(7) この出来事から、自分は部下にどんなことに気づいてほしいのか? それを気づかせるために有効な質問は何だろうか?

この質問を自分に投げかけることで、上司が自分の感情に飲み込まれなくなります。

上司も1人の人間ですから、腹が立つこともあって当然です。この質問によって、焦点が目の前で起きた出来事から部下の今後の成長に移ります。

怒りの感情をぐっと抑えた状態で会話をしていても、部下は上司が隠している怒りを感じ取ります。口では「○○さんのために」と言っていても、部下には上司の怒りの感情が見えているので、上司が純粋に自分のために言ってくれているとは感じられません。

しかし、上司が自分に怒りの感情があることを認識して、この質問を自身に投げかけることで意識が変わります。部下にどんなことを気づかせたいのか、この機会に部下をどう成長させたいのかということを考え始めた途端、怒りの感情から離れることができます。

『7つのデキないを変える デキる部下の育て方』より引用
井上 顕滋
1970年生まれ。Result Design株式会社を2004年に設立。企業研修、経営者、経営幹部への指導実績は3,000社を超える。エグゼクティブコーチ、メンタルトレーナーとしてオリンピック出場の日本代表選手や世界一に輝いたプロスポーツ選手もサポートしている。世界最先端の心理学および脳科学を各分野の世界的権威から徹底的に学び、人それぞれのもつ能力を最大限に引き出す、独自の能力開発メソッドを確立。クライアント企業に対する実績として「1年間で離職率8分の1」「2年間で経常利益26.8倍」「営業成約率平均31.9%UP」などがある。
自らも経営者として30年以上の部下育成の経験をもつ。2011年に未来の成功者を育てるため、小学生を対象とする日本初の非認知能力専門塾Five Keysを設立。2015年には非営利型一般財団法人日本リーダー育成推進協会(JLDA)を創設し代表理事に就任。現在は特別顧問。

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