本記事は、井上顕滋氏の著書『7つの"デキない"を変える "デキる"部下の育て方』(幻冬舎)の中から一部を抜粋・編集しています。
なかなか変わらない部下のタイプとそれぞれの対処法
複数のタイプに分類される部下の「デキない」は、常に上司の悩みの種です。しかし、それぞれのタイプに合わせて対処することは可能です。
≪集中できないタイプ≫
【モデルケース】
新入社員のAさんは、入社して半年が過ぎました。上司であるあなたの目から見ると、職場にもだいぶなじんできたようで、周囲の先輩との関係も良好のように見えます。特に直接指導にあたっている社員とは年齢も近くて話が合うようで、休憩時間にはプライベートの話なども楽しそうにしています。
担当している業務にも慣れてきており、そろそろスピードやクオリティーがもう少し上がってきてもよいはずなのですが、あなたが思うレベルには達していません。あなたの目から見て気になるのは、仕事ぶりにムラがあり、同じようなミスを繰り返していることです。ちょっとした用事をつくって頻繁に席を立ったり、デスクでぼんやりしたりしている姿も目につきます。
指導係の社員に確認すると、Aさんは仕事の内容についてはよく理解しており、業務をこなすのに必要な能力は十分に備えているはずだということでした。
そうしてAさんのことをあれこれ話しているうちに、指導係の社員がつぶやきました。
「Aさんは、なんていうか、集中力がないんですよねぇ……」
注意力が散漫で集中力が継続できない部下
Aさんは周囲から「あの人は集中力がない」と言われる典型的なケースです。能力に問題がないのに、仕事のスピードやクオリティーが期待しているほど上がらず、ちゃんと集中して作業をしていれば防げたのではないかと思えるような単純なミスを繰り返します。
集中力がないといわれている社員には、体調やプライベートなどについて仕事が手につかなくなるほど気がかりなことがないかどうかを確認します。人間なので、睡眠不足で眠いとか、昼食を食べ過ぎてしまって午後の時間帯にぼんやりするというように、生理的にどうしても集中できないタイミングはあります。しかし、これらは自己管理次第で解決できる問題です。
睡眠不足であれば生活のリズムを整えるなどの工夫をすれば解決しますし、満腹で眠いというのであれば食べる量を調整すればよいわけです。プライベートの問題であれば、それが解決するまでは上の空になることもあるかもしれませんが、問題自体が解決すればまた仕事に集中できるようになるはずです。
体調やプライベートなどに問題がないようなら、業務を正確に行うために適切なスケジュールになっているかを確かめます。スピードが重視されているために、本人は集中して仕事をしているつもりでいても、焦ってミスをしてしまうということが考えられます。これは、その業務を正確に遂行するために適正なスピードを見直し、正確さを優先するように徹底することで解決できます。部下本人の判断で変えられるものでなければ、指導係の先輩社員や上司などが一緒に考えて調整する必要があります。
これらの問題がなければ、部下が仕事に楽しさや価値を感じられていない可能性が考えられます。部下が自分自身で仕事に楽しさや価値を見いだせないのなら、上司が示す必要があります。
仕事の価値を感じさせる
自分の仕事が、どれだけ世の中の役に立っているのか ──。「仕事の価値」を理解させることは、部下を指導し、ともに働いていくなかでとても重要なことです。
例えば医師や看護師、弁護士、警察官などは社会貢献度が高い仕事を思い浮かべた際に、真っ先に挙げられる代表例だと思います。自分の存在や働きが直接的、または間接的でも誰かを助けているという実感があれば、日々の業務内容に誇りをもち集中して取り組むものです。
逆に、その実感が薄いというケースでは、自分の仕事に価値を見いだしにくくなります。極端にいうと部品製造の現場で加工、仕上げ、梱包などのうち1つの工程を担当している場合、⾃分の作業が最終的にどのように世の中に価値をもたらしているのかを実感するのは、比較的難しいと思います。
ここで重要なのが、感謝や称賛をされることです。取引業者からの声、エンドユーザーからの声 ……。こうした社外からの評価は、価値の有無を分かりやすく教えてくれます。また社内でも、部署間での互いの成果を評価し認め合う仕組みをつくったり、経営陣が全社会議などの場でそれぞれの部署の業務の重要性を語ったりすることで、現場に広く浸透させることが可能です。
仕事の価値と楽しさの2つを並べたとき、企業の軸になるのはどちらかと問われれば間違いなく価値こそが、会社の存在意義につながります。
しかし、価値のみで全員を共感させ引っ張っていくことはハードルが高いのも事実です。実際、目の前の仕事に対してそこまで意識が高くない人も一定数おり、そうした人たちには楽しさで共感してもらう必要があります。そして、この2つをバランスよく社員に発信していくことが、組織の底上げにつながっていくのです。
⾃らも経営者として30年以上の部下育成の経験をもつ。2011年に未来の成功者を育てるため、⼩学⽣を対象とする⽇本初の⾮認知能⼒専⾨塾Five Keysを設⽴。2015年には⾮営利型⼀般財団法⼈⽇本リーダー育成推進協会(JLDA)を創設し代表理事に就任。現在は特別顧問。 ※画像をクリックするとAmazonに飛びます。
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