この記事は2024年12月20日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「25年後半のドル円相場は、FRB利下げ終了で円安基調に」を一部編集し、転載したものです。
2025年のドル円相場を見通すに当たり、日本銀行の利上げ余地をどこまで見込むべきか。考えるべき要素は多々あるが、25年3月や4月に「歴史的な賃上げ」が騒がれるなか、追加利上げという決断があってもまったく不思議ではない。まずは、24年12月または25年1月に利上げを行い、3月または4月に追加利上げというのが現時点のメインシナリオになる(本稿執筆の12月17日時点)。その際の政策金利は0.75%まで引き上げられることになる。
筆者は25年のドル円相場について、25年1月から3月までは1ドル=140円台前半の円高となる局面があるとみている。これは、日銀の利上げにより、円高方向への下押し展開が想定されるためだ。一方で、25年後半以降はFRBの「利下げの終わり」が注目されやすくなり、1ドル=160円台になると予想する。
日銀の0.75%から先の利上げは、中立金利との比較考量が必要になる。日銀は24年8月に公表したワーキングペーパー「自然利子率の計測をめぐる近年の動向」で、足元の自然利子率の推計幅を「▲1.0~0.5%」としている。インフレ率 2%を前提とすれば、中立金利(≒自然利子率+期待インフレ率)は「1.0~2.5%」ということになる。
しかし、ここで本当にインフレ率2%を前提とすべきなのかという点を熟慮する必要がある。仮にインフレ率1.5%ならば中立金利は「0.5~2.0%」、同1.0%ならば中立金利は「0~1.5%」になる。現状の消費者物価指数(CPI)は確かに安定的に2%で推移しているが、これを円安による一時的な伸び幅と整理すれば、中立金利は0%や0.5%という考え方もあり得る。
この想定に立つと、すでに現時点で政策金利は中立金利にあるといえる。これは弱気過ぎる想定だとしても、日本のインフレ率が2%弱でアンカーされているならば、中立金利が0.75%という考え方は十分に成り立つ話だ。ちなみに日銀が定期的に公表する「基調的なインフレ率を捕捉するための指標」は、すでに複数の計数で2%を割り込んでいる(図表)ため、2%弱というインフレ率は現実的な想定ともいえる。
まとめると、インフレ率2%を前提とすれば1%までの利上げは辛うじて正当化される。しかし、それ以下のインフレ率を前提とするならば、0.75%までの利上げが理にかなう。筆者は日銀の利上げのメインシナリオは0.75%までで、順当に進んでも1%が限界とみている。
もちろん、それ以上の利上げに至る可能性もある。仮に1.25%や1.5%、果ては2%の可能性が取りざたされるとすればどのような局面か。それこそ、ドル円相場でFRBの利下げ終了に伴って円安が加速し、1ドル=160円台で定着する場面では、通貨防衛(円安是正)策としての利上げの必要性が注目されよう。
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト/唐鎌 大輔
週刊金融財政事情 2025年1月7日号