◉相続人を把握すること


次に、経営者様の相続人を把握することが必要です。相続人の把握は極めてプライベートな問題となることもありますが、必ず把握する必要があります。例えばの話ですが、経営者様に、いわゆる隠し子がおられた場合には、その方にも株式などの遺産は相続されることとなります。
また、近時(平成25年9月)の最高裁判例により、婚姻関係のない男女間に生まれた子と婚姻関係にある男女間に生まれた子で相続分は平等となるという判断が出されました。そのため、万が一、隠し子がおられて、相続権を主張された場合、経営承継円滑化法による手続きなどを経ていない場合には、遺産を平等に配分しなくてはならず、企業の事業承継が大変困難となってしまう可能性があります。

また、隠し子といった問題だけではなく、経営者様に子がおられない場合には、兄弟姉妹の方が相続権を持ちます。兄弟姉妹の方が相続人となられる場合には、それぞれの生活スタイルが確立していて、企業の事業承継には関心がないというケースもあります。このような場合にも相続した権利の主張により事業承継が困難となることがあります。

相続人の把握は、経営者様の戸籍を収集し調査することが基本となりますが、イレギュラーなケースでは事実調査が必要となることもあります。
なお、私たち行政書士などの士業は、法律上の守秘義務を負っていますので、相続人把握のため必要な事実はプライバシーにわたることであっても、早めにお話しいただくことで円滑な事業承継に向けて早めの対策を講じることが可能となります。


◉相続人の意向の確認・法律手続の利用のすすめ


このように企業の事業承継を円滑に進めるためには、遺産の範囲を確定することと相続人の方を確定することが重要となります。もちろん、遺産や相続人の方は、将来、経営者様の相続時までに変化することもあります。
しかし、少なくとも株式などの事業承継に不可欠な資産を把握することや事業承継手続きを進める上で問題が生じる可能性がある相続人を調査することで事前の対策を立てることができるようになります。

企業の事業承継の手続きを進めるにあたって、「私の相続人は事業の承継には協力的だ」と信じて疑わない方がおられます。もちろん、相続人の方は血や婚姻関係で繋がっている「家族」ですので、信頼関係があるのが当然ですし、信頼を重視することはとても重要です。ただ、「家族」として切れない繋がりがあるからこそ、トラブルとなることもあります。
そのため、企業の事業承継の際には、推定相続人の方と経営者様・後継者との間でコミュニケーションを図り、企業の事業承継についての理解を得ることが重要であるとともに、経営承継円滑化法や遺言書などの法律制度も有効に活用していただきたいと願う次第です。

行政書士 S.K

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