(この記事は2015年3月31日に掲載されたものです。提供: Leeways Online

2 月 16 日の NHK のニュース番組内で、 69 年前の 1946 年 2 月 16 日に日本で行われた預金封鎖を取り上げ、「預金封鎖、もうひとつのねらい」という特集が放送されました。

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69 年前の預金封鎖、もうひとつの目的とは

69 年前に行われた預金封鎖は、流通している現金の効力を失わせるという、強制力を伴った措置です。預金封鎖の目的は、当時の高いインフレを抑え込むために、強制的に貨幣の流通を減らすことにあったと言われています。そして、 NHK の番組が「もうひとつのねらい」として紹介したのが、財政の健全化です。

2015 年現在、戦後のようなインフレの状況には陥っていませんが、この番組では、戦後と今の財政の状況が似ていることを指摘。政府債務残高は対名目 GDP 比で戦後の 1944 年が約 204 %、現在は約 233 %であり、当時よりも多いことが示されています。

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預金封鎖とはどのようなものか

戦後の預金封鎖では、現金の流通量を管理するために旧円を廃止し、新円を発行しました。旧円は一定期間後に流通効力を失うので、新円に切り替える必要があり、その切り替えには銀行に旧円を預金しなければなりませんでした。預金を引き出す時に新円で受け取るのです。

このとき、一世帯あたり一か月に引き出せる額に上限が課せられ、預金を自由に引き出せなくなったことから、この政策は「預金封鎖」と呼ばれています。

市中に出回っている現金を預金として銀行に預けさせ、現金の流通量を管理し、インフレを抑え込む一方で、政府は預金に対して資産課税を行いました。預金に対する課税で財政の立て直しを狙ったのです。

1946 年の財産税法では、 10 万円を超える個人の金融資産に対して財産税を課しています。税率は 10 万円超の 25 %から始まり、 1,500 万円超の 90 %までの超過累進課税方式でした。

当時、大卒の国家公務員初任給は 540 円でした。預金封鎖で引き出せる上限が一世帯あたり、一か月に世帯主で 300 円、家族一人あたり 100 円であることから、当時の 100 円は現在の 50,000 円程度の価値と見積もることができます。そうすると、課税される 10 万円以上の資産とは、今の貨幣価値では 5,000 万円ぐらいになります。

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今の日本で「預金封鎖」は起こりうるか

この 1946 年の預金封鎖は、現行の憲法が施行される前の出来事です。今の憲法では、 84 条に「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」とあり、また 29 条には「財産権は、これを侵してはならない」とあります。

つまり、現在の日本では私有財産が保護され、課税には法律の要件が必要となります。このため政府は、 69 年前の預金封鎖のような強硬手段は実行できないと考えるのが妥当です。いまの日本では現実味が低い政策といえるでしょう。


財政再建の有効手段は課税や増税

今まで存在しなかった税を新たに課す場合、新しい立法が必要になります。消費税の導入時もそうでしたが、新税の導入は国民や市場の混乱を招きます。一方、既存の法律を改正する場合は比較的スムーズに進みます。相続税の課税対象者の拡大は、実質的な増税であるにもかかわらず、混乱なく改正されました。証券投資に関しては、株式等の譲渡益や配当への軽減税率の特例措置が廃止され、税率が 10 %から 20 %になりましたが、こちらも問題なく改正されました。

預金封鎖のような手荒い政策は可能性が低いとしても、インフレで金利が上がった場合には、債券や預金の利子に対する税率の引き上げはあるかもしれません。税率の引き上げなので、新税の導入とは違い、世論の大きな混乱なく進められるでしょう。

金利上昇によって国債の利払い負担が高まっても、利子に対する税率を引き上げれば、政府は実質的な利払い負担を抑えられます。

今後、国の財政再建のために課税が強まるのは避けられない見込みです。インフレによって金利が上昇したときに課税が強まる可能性を考慮すると、預金一辺倒では実質ベースでの資産防衛は難しいでしょう。預金、有価証券、実物資産といったように、資産を分けて保有することが、課税リスクの分散という点からも基本的で有効な方法といえます。

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