2015年1月1日から実施された税制改正により、相続税の実質的な増税が行われた。自分の子供や孫に、できるだけ資産を残したいと考えている人にとって、税金は頭が痛い問題である。2014年末に発表された2015年度の税制改正法案には、このような方々にぜひ利用していただきたい「贈与税非課税制度」の拡充が盛り込まれている。一体どのような仕組みとなり、どんな手続きを行えばよいのだろうか。子供や孫に賢く資産を渡す方法を勉強しておこう。

「結婚・出産・育児」贈与税が最大1,000万円まで非課税に

現在、日本では、両親や祖父母が子供や孫に、生活費や教育費など具体的な使用用途で資金を渡し、子供や孫はもらった金額をその都度使い切っていれば、課税されない仕組みとなっている。

一方、特別な使用用途がなく、年間110万円を超える資金を子供や孫に贈与した場合、最大50%の贈与税がかかる。例えば1,000万円の贈与をする場合、約230万円の税金を子供自身が納めなければならない。

しかし、2015年度の税制改正法案では、結婚・出産・育児にかかる費用として、1,000万円までは非課税で一括贈与できるようになった。実際、親や祖父母に結婚資金や出産費用を援助してもらっている子供は多く、「ゼクシィ結婚トレンド調査2014」(リクルートマーケティングパートナーズ)によると、結婚資金については、約70%が親・親族から資金援助を受けている。

子供は、一括贈与してもらった資金を必要に応じて、結婚資金や出産費用、不妊治療の費用、ベビーシッターの費用など、計画的にさまざまな用途に使うことができる。

教育・住宅資金の援助制度もさらに拡大

すでに始まっている教育資金と住宅資金の援助制度についても、今回の改正で、より使いやすいものになった。まず、2015年末で終了予定だった教育資金援助の非課税制度は、2019年まで期間が延長された。この制度を利用することで両親や祖父母から子供へ1,500万円までは非課税で教育資金を一括贈与することができる。

文部科学省の平成24年度「子供の学習費調査」、および日本政策金融公庫の平成25年度「教育費負担の実態調査結果」によると、子供1人あたりの教育資金は、幼稚園から大学卒業まで私立に通った場合2,000万円以上が必要だ。学費以外にも、受験のために通う塾や水泳、ピアノ教室など習い事に多くの費用を払っている家庭は多く、非課税で贈与を受けられる1,500万円は非常に有効なものとなる。

また、住宅資金援助については、現行1,500万円の非課税枠が最大3,000万円まで拡大された。贈与された金額は、マンション購入の頭金や、住宅の増築費などに利用することができる。

非課税制度利用の注意点は

この制度を使って贈与を行うためには、まず、贈与を受ける子供や孫の名義で信託銀行や証券会社などの金融機関に専用口座を開設する必要がある。そして、贈与する者が専用口座にお金を振り込み、子供や孫が何に使ったかを証明できる領収書などを金融機関に提出し、お金を引き出すという仕組みだ。

政府としては、この非課税制度によって、シニア世代が蓄えている巨額の個人金融資産を若い世代へ移転させ、経済の活性化や子育て支援につなげたいという意図がある。また、まとまったお金を持つ富裕層そしてその子供や孫と関係を築き、長期的な視点で優良な顧客を獲得できるという点で、金融機関も積極的にこの制度の普及を進めている。

ただし、非課税制度を利用する上でいくつか注意点がある。まず、贈与を受ける子供には、教育資金は0歳から29歳まで、結婚資金および子育て資金は20歳から49歳までという年齢制限がある。また、贈与された金額を子供が50歳までに使い切らなかった場合は、専用口座の残金に贈与税が課される。

また、制度を利用する際には、「ベビーカーやおむつの代金は育児費用となるのか?」、「この習い事は教育資金として認められるのか?」など、どこまでこの制度の対象になるのかが分かりにくく、個別に調べなければならないという手間もある。

このように制度上いくつかの注意点はあるが、上手に利用すれば、贈与税を払わずに金融資産を子供や孫に渡して、有効活用してもらうことができる。消費税増税や相続税の基礎控除縮小など、税制がめまぐるしく変化していくといわれるこれからの時代、増税というマイナス面だけではなく、新たにできるお得な税制の情報を確実に仕入れて、上手に利用していただきたい。(ZUU online 編集部)