政府の景気判断にも市場の投資行動にも大きな影響を持つ国内総生産(GDP)の成長率。新しいデータが報道されるたびにフォローする「GDPウォッチャー」の方々ならGDPの何たるかをそれなりにご存じだろう。とはいえ、GDPというのはかなり手の込んだ「加工統計」だ。

「一国の経済活動の規模」といった漠然とした理解でも用は足りるだろうが、もう少し正確なGDPの「素性」を知っておくのも無駄ではないだろう。


GDPは「国内」、「総」、「生産」

GDPの一般的な定義は「ある期間に国土上で創出された付加価値の総計」とされている。もしくは「一国の経済活動の規模」と言い換えても間違いではないが、あえて「付加価値」という言葉を使うのは、各企業の産出額や売上げには外部から仕入れた原材料などの価値が含まれているからだ。これを差し引いたものがその企業の生産すなわち「付加価値」である。

ただ、「付加価値」の集計値を表す値は、GDPのほかにも国民純所得(NNI)や国内総支出(GDE)がある。GDPはいわば「付加価値」の代名詞として使われるが、単語「Gross」「Domestic」「Products」の意味を知ることで代表たる所以が見えてくる。

まず「Domestic=国内」は「National=国民」の対概念で、領土上の経済活動の集計を指す。かつてわが国ではGNPという日本人全体としての集計が幅を利かせていた。対して、国境を超えた労働力の行き来がはるかに多い欧州などではGDPが主流。というのも一国の政府が管轄できるのはあくまでも国の領土内の経済活動だからだ。グローバル化の流れのなかで、日本も国際的に主流のGDP路線に乗り換えたことになる。

「Gross」は「総」の訳で、本来は「純量、正味(Net)」に対して「総体、総計」を意味する。生産の過程で用いられる資本(工場や機械設備)の減耗分(企業会計の減価償却に相当)を差し引いた数値が「純生産」だ。真に生み出した価値としてはこの方が厳密だが、データの収集に時間がかかるため、普段は差し引かない「総生産」が使われている。

3つ目の「Products=生産」は冒頭に述べた「付加価値」そのものだ。ただ、「付加価値」は生産→分配(Income)→支出(Expenditure)という循環として捉えられるので、GDPは分配面から算出した国内総所得(GDI)、支出面からの国内総支出(GDE)とも原理的に等しいことに留意しておきたい(三面等価の原則)。


GDP速報(QE)がすぐ改定されるわけ

景気の指標として注目を集めるのは通常、四半期別GDPの速報値、Quick Estimate(QE)だろう。1-3月期のGDPは、約50日後の5月20日前後に1次速報が、70日後の6月10日前後に2次速報が発表される。8月20日前後になると、4-6月期の1次速報が発表されるが、あわせて1-3月期についても改定が行われるようにGDPのデータは刻々と変化し、確定しづらいのが常だ。その理由を理解するにはGDP統計がどう作られるかを知る必要がある。

年ベースのGDPデータは財・サービスを2000品目以上に分類して丹念にその生産-流通-消費の流れを追う「コモディティー・フロー法」で算出されるが、1年以上の手間暇がかかる。速報性が重視される四半期速報では、消費、設備投資、輸出入などの各需要項目を家計調査、法人企業統計などの一次統計を基礎に推計する。結果としてGDEが表れるが、先述の「三面等価の原則」に従って、GDPと呼んでいるわけだ。

なお、政府の発表に先立って民間シンクタンクが競うように出す予想値も基本的には上記と同様の推計に基づいているが、その時点で参考になる一次統計がどれだけあるかによって精度に差が出る。政府も、民間も速報性と正確性の一長一短に縛られているといえよう。


GDP成長率の季節調整済み年率とは?

QEで注目されるのはGDP成長率だが、同じ成長率でもさまざまなバリエーションがあることに注意しておこう。

まず「実質」と「名目」の違いは物価変動分を差し引くか否かであり、「実質GDP」とは各財・サービスの価格が基準年次(現行統計では2005年)のまま不変と仮定して計算された取引額を集計したものを指す。景気の判断材料としては通常、実質値GDPの変化率が重視される。

次に、「原系列」と「季節調整系列」。ボーナス期には消費が盛んになるように、経済活動には季節性があるため、統計的に調整して景気の実勢を観るのが「季節調整系列」だ。「原系列」を前年同期比変化率でとらえても季節性は排除できるが、1年分の平均的な変化でなく直近四半期の勢いを見るには「季節調整系列」の前期比変化率を使う必要がある。年次系列と比較しやすいよう、この変化率αを1年(4四半期)分に換算した「〖(1+α)〗^4-1」が「季調済み年率」と呼ばれる。(ZUU online 編集部)

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