●足利ホールディングス(足利HD)の経営破綻と再上場の背景


今回の再上場に至った背景はどのようなものなのでしょうか?
足利銀行は、元々は地元の繊維産業とともに発展した堅実な地銀でした。しかしバブル経済期に北海道拓殖銀行などと同じく地場でのリゾート開発・不動産投資や、本拠地外である東京での法人融資を拡大した結果、不良債権が増加。2003年の経営破綻を招きました。
その後国有化がなされ、預金保険機構の下で不良債権の処理・財務体質の健全化が行われました。2008年3月には野村グループに譲渡されることが決まり、再び民営化がなされています。2010年3月期には最終損益が黒字転換し、再上場に向けた準備が進められました。しかしリーマンショック後で日経平均は7000円台に低迷。このような局面では株の買い手も現れず株価も期待出来ないため、野村グループは予定していた利益の確保が困難だとして上場を断念しました。今回の再上場は、アベノミクス効果で株式市場が回復している現状を踏まえ行われるものです。

実は、足利HDの上場が実現すれば、本件は初めて国内証券によってなされた国有化銀行の再生事例になります。一時国有化された銀行で再生されたのは過去に3例。これまでに米RHJインターナショナル(旧・リップルウッドホールディングス)が新生銀行(旧・日本長期信用銀行)を、米サーベラスがあおぞら銀行(旧・日本債券信用銀行)を、米ローンスターが東京スター銀行(旧・東京相和銀行)をそれぞれ再上場させています。このようにこれまでは国内銀行の再生において外資系の投資ファンドが中心的役割を果たしてきましたが、足利HDの買収は野村HDの手で行われました。この点で、国内初の例であると言えます。


●足利ホールディングス(足利HD/足利銀行)の業績予想


東洋経済新報社が発表している業績予想は下記のようになります。
【2014年3月期】
経常収益1020億円(前期比4%増)
経常利益240億円(28%増)
EPS 61.5円/配当4円
【2015年3月期】
経常収益980億円(4%減)
経常利益185億円(23%減)
EPS 52.3円/配当0円


●足利ホールディングス(足利HD/足利銀行)の上場後の株価の動向


では、こうした背景で再上場を目指す足利HDですが、上場後の株価に対するポジティブ要因・ネガティブ要因についてはどのようなものが考えられるでしょうか?
まず、ポジティブ要因については「他の金融機関との提携・統合が見込める点」にありそうです。足利HD傘下の足利銀行は現在、栃木県内で高い預金・貸出のシェアを持ち、隣県の埼玉県北部にも営業基盤を拡大していることから、他の金融機関にしてみれば再編の相手として非常に魅力的な存在であると言えます。現に、新生銀行や青空銀行は収益向上を目指し、再編パートナーを探すニーズが非常に高いと言える状態です。両行とも足利銀行を買収するだけの資本力はまだ持っていないものの、資本提携という形であれば足利銀行に提携のオファーをすることは十分可能であると予想されます。いち早く回復を果たした足利銀行に対し、他の金融機関は提携相手として注目の目を向けている以上、いずれかの金融機関との提携が実現した時には、足利銀行の更なる展開地域の拡大・預金額の向上が見込め、株価にもポジティブに働き可能性はありそうです。
一方で、ネガティブ要因としては、「金融規制による自己資本の減少」が挙げられます。バーゼルⅢによる要請では地域金融機関に対し、資本性が低いとされる社債型優先株や劣後債務は資本性が低いとして中核的な資本から外すようなルールが適用されました。足利HDの中核資本1570億円のうち750億円分はこの社債型優先株であるため、自己資本が減少してしまうことになります。よって同社は再上場に際して普通株式を充実させる必要があります。これはいかに投資家を説得するかにもかかっていますが、何より魅力的な再編相手を見つけられるかどうかが大きなカギになりそうです。すなわち、ポジティブ要因ともなりうる他の金融機関との提携の可能性ですが、実現しなかった場合は財務面で課題を抱えてしまう結果にも繋がりかねないというのが現状です。今後も再上場とともに資本構成がどのように組み替えられていくのかが注目されそうです。

いかがでしたでしょうか?バブル崩壊から10年以上がたち、銀行がどんどん息を吹き返しつつある中でその再上場の第1号となる足利ホールディングス。この後も続々と再編されていく銀行業界に、再び注目が集まりそうです。

【参考】

【公開価格決定】足利ホールディングス(足利HD/足利銀行)の上場初値とIPO後の株価を予測
【初値分析】三菱商事子会社シグマクシスがマザーズ上場!~その背景とIPO後の株価想定~
大型上場相次ぐ?IPOブーム到来の予兆[前編]〜過去の戦績と政府系上場説のまとめ〜
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BY:ZUU online編集部 (H.O)